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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第四巡 呪い
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第二十一話 羽生 一日

 友人の話です。彼女も、仕事にはしておりませんけれど、私のように霊と関われる方です。

 彼女の学校、当時高校生でしたけれど、で、不可思議な病が流行っていたのだそうです。

 それは、朝、気づかれます。

 彼女の学校に通う生徒の一人が、起きないのです。

 ただ、眠っているだけなのですけれど、不審に思って医者を呼んだり、救急車を呼んだり。けれど、体に異常はなく、翌朝にはいつものように目覚める。本人も、眠って起きただけの認識なのです。

 そうして、学校を一日、心配した家族に止められて更に二、三日休む。そんな生徒が、連日発生するのです。そしてそれは、一日一人だけなのです。

 生徒たちの間で噂になり始めた、ふた月ほど経った頃。彼女の友人も同じように眠りから覚めず、翌朝に目覚めました。

 彼女、その友人が休んだ日、学校を早退して友人の元に駆けつけ、一晩付き添ったのだそうです。

 それで、彼女は気がつきました。

 体は生きていても、彼女の友人はその日一日、死者であったのだと。

 あちらで一日を過ごしていたのだと。けれど、翌朝聞いても何も覚えていない。本人は普通に翌朝目覚めたつもりが、翌々日の朝だというだけなのです。

 そうして、彼女は私に『手伝って』と、連絡してきたのです。

 彼女は、翌日から誰がその病にかかったかを辿り続けました。共通点はその学校の生徒だということだけでした。休み明けには犠牲者がいない。恐らく、その日は校外に犠牲者がいる。つまり、校内の犠牲者を決める仕掛けは学校内にあるということです。

 何人目かで、彼女は、一晩付き添わせてくれるご家庭をみつけました。頼まれて、私も一緒に付き添うことになりました。

 私には、ただ眠っているように見えました。彼女の方がその点、能力が高いのです。そして、彼女はイタコのようにその身に霊をおろすことができる。私は、彼女のサポートとして呼ばれたのです。

 彼女は、その子が死んでいると仮定して、その霊を呼びました。その身に降ろすのですが、降ろしている間は彼女の自由にはならないのです。私には、彼女にすぐそこで眠っている子の霊が彼女の身に降りたのが視えました。なので、友人が書いた質問メモのとおり、私が友人に問うと、彼女は答えてくれました。彼女の指示どおりに声をかけて記憶を誘導する。それが私の役目でした。そうして、彼女の狙いどおり、その眠りの謎が暴けました。ちなみに、私がお手伝いしたのは本当にそれだけです。あとは、彼女がすべて解決しました。

 友人に憑いた霊は、こう言ったのです。

『身代わりにされている』と。

 自分が死んだ自覚をもって彷徨っているけれど、その死を迎えたのは自分ではない、自分ではありえない。

 それは、小さな子供なのだそうです。

 小学校低学年くらいの女の子。

 自宅の階段から落ちて、首を折る。しばらくは意識があり、不自然な角度から我が家や家族を見、やがて身を離れ、彷徨う。

 そうして、一日眠り続ける生徒たちは、亡くなった女の子として、その一日を彷徨い過ごしている。それらのことを、私は聞きだしました。

 憑依を解いた友人は、逆さまに見た家族の中に、彼女と同じ学校の制服を着た女の子をみつけたと教えてくれました。

そうして、彼女は学校内を探し廻り、ついにその子をみつけたそうです。

 一年生でした。

 みつけた翌日から、朝晩と休み時間毎にその子の行動を見張ったそうです。

 その子は、疲れた様子で、笑いもせずに日々を過ごしていた。四日目に、彼女はその子の行動から連日の共通点をみつけました。

 朝、彼女は何かを手のひらに隠しながら階段の棒の手すりの裏側に手のひらを押し付け、夕方、同じ場所から何かをはがす。

 ごく何気ない動作で、目線を向けもせずにそんな作業をしていたのです。一度目撃しただけなら、少しばかり不自然に思うだけ。毎日場所は違います。彼女も、すぐには気づけなかったのです。

 五日目の金曜日、彼女は、その子が何かを押し付けた手すりの裏を見てみました。

 そこには、指の長さほどの人型に切り抜いた板が張り付けられていました。

 彼女はそれをハンカチごしに剥がし、休み時間に裏庭に穴を掘ってそこで燃やし、埋めました。

 夕方、通りすがりにそれを剥がそうとした一年生は、それがないことに気づいて慌てて手すりをなでまわしていたそうです。

 そして、意外と早く諦めた様子で、帰って行ったそうです。

 翌週、その子は忌引きで休みました。妹さんが亡くなられたためです。

 あれは呪術だと、彼女は言っていました。

 死んだ妹のために、同じ学校に通う生徒たちを一日ずつだけ身代わりにしていたのだと。

 何故その子がそんな呪法を知っていたのかはわかりませんが、独学で身に付けられるようなものではありませんので、誰か、入れ知恵した呪術者がいたのでしょう。

 その子はもう、そんなことには疲れていたようだったと。恐らく、母親とか、他の家族がその死を受け入れず、そんな呪術を求め、その子がそれを行使せざるを得なかったのだろうと。そう、彼女は言っていました。

 生き長らえた一日一日を、その妹さんがどのような体で過ごしたのか、どんな心持ちでいたのか、彼女は知りません。

 でも、本人も家族も満足できる日々を過ごしていたのなら、あの子があんなにも疲れた顔をして日々を過ごし、流されるように呪術を終えさせることはなかっただろうと。

 そう、彼女は言っていました。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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