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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第四巡 呪い
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第二十話 田中 ずるずる

 このバイトが決まったときに、父が自分の体験だって言って話してくれたことです。

 医学生だったころ、研修医になっていた先輩の部屋の引越しを手伝った帰り道のことだそうです。

 父は、軽トラックの助手席に乗せてもらっていたそうです。

荷物もなくなって身軽だからって、運転していた友人が近道になりそうな細い道に入り込みました。

 当時はナビもでてきたばかりでそんなに普及していなくて、地図は積んできたけどそもそもその道がどれだかわからない。周りは田んぼと畑と竹林で、舗装はされていたけどかろうじて車がすれちがうポイントが作られているだけの、地元民しか使わないんじゃないかっていう道でした。行き止まりにならなければいいなあと思いながら、父は地図で現在地を探していたんだそうです。

 竹林の切れ間から見える低い山の上に、病院らしい建物が見えてきて。バックは赤い夕焼け。近道なんだか回り道なんだかわからないけど、方角はあっていそうだった。

 途中、病院の案内看板が出てて、いたずら書きされて長く放置されてる感じだったんで、もうつぶれてるんだろうなあって検討をつけつつ、それを目印に地図を見て、ようやく現在地がわかって、その病院の横を通り抜けて行けば、当初通るはずだった大通りを回るより大幅に近いということがはっきりしたんだそうです。

 日が沈むと、あっという間に暗くなっていって、でも、そんな道だから、街灯ほとんどない。しかも、父は、よりにもよってそのタイミングで、運転手をしている友人が昔、夜に鬼火連れて歩いていたって噂のある奴だったことを思い出したんだそうです。

 で、雰囲気もそれらしくなってきたし、若気の至りで、ついつい、訊いてしまったんだそうですよ。

『おまえ、幽霊見えるって本当か?』て。

 そしたら、『あー、たまにね~』て、なんの気負いもなく言われちゃったんだそうです。よせばいいのに、更に『病院って、出るんじゃないか?』て、訊いてしまって.。そうしたら、『かもな。俺はたま~に見るだけだからどうだか知らないけどね』って。

 いよいよ病院の横にさしかかって。何枚か窓割れてたし雑草も生えて植え込みもちゃんとしてないし、何より門が鎖でぐるぐる巻きにされて南京錠かけられてた。けど、つぶれたのはそんなに前ってわけじゃないみたいだったそうです。小規模な、かろうじて入院できる設備がありそうだっていう病院で。どっちかっていうと医学生なんで、これくらいの規模だと経営が難しいのかなあ、それとも場所の問題かなあって、そっちに気持ちは切り替わったそうです。

 でも、すぐ、なんか、変な感じがしてきた。

 急に、空気に抵抗感があるような、車のスピードも遅くなったような。

 あれ? と思っていたら、隣りの友人が。

『やべえや、田中』て言うわけですよ。

『何が』と恐る恐る訊いたら『引っ張られてるわ、車』

 とか言うわけです。

 うげ~っと、父はとっさに振り返りそうになったそうなんですけど、止められて。

『後ろ見るな。ミラーも見るな』

 って、声がマジだったそうです。

 軽トラックなんで、席のすぐ後ろが荷台なわけです。二人の間の、すぐ後ろに窓があるわけです。嫌な想像をしてしまって、歯を食い縛って必死に前を見続けたそうですよ、父は。

 山下りてすぐ知ってる道に出て、行きよりもだいぶ時間が短縮できていたそうです。変な感覚も消えた。

『いたのか? マジで?』って父が訊いたら。

『十人くらいしがみついてて、ずるずる引きずって走ってたんだぞ』て。

 後でその話を引っ越した先輩にしたら、先輩も引っ越す前にそこを通ったことがあって。

 真っ昼間に、二十人くらいの団体が病院前の道路に立って、病院に向かって片手挙げて念を送っているのに行き会ったって話をしてくれたそうです。

 一心に何か唱えながら、ざーっと横一列にならんだおっさんおばさんの集団。どう見ても元病院関係者とかって感じじゃなかったと言っていたそうです。

 そもそもは医療事故のもみ消し疑惑とか、保険の不正請求とか色々問題起こしたあげくに閉鎖された病院らしいです。ヤブだなんだと噂はあったけど、じいさんばあさんが通うにはちょうど良い距離感のところで、まあ、お年頃の方々が亡くなる分には、特に騒ぎもなかったそうなんですけど。若い人が手術後に亡くなって、医療事故だったのにごまかそうとして色々芋づる式に事件が発覚してつぶれたそうです。

地元じゃあ、有名な幽霊スポットになっていたそうですけど、今はさすがに残ってないだろうなあって、言ってました。

そういえば、全然関係ないんですけど、その運転していた友人の紹介で母と出会ったとか言ってました。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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