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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第三巡 人ではないもの
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第十八話 森山 近道

 今度は、同期だった佐藤って男が転職先の仲間から聞いたって話をしますね。

 その佐藤、転職先ではまず地方の支部に送られて。そうなるとエリア広くてね、現場を下見に行くのに二日がかりなんてのもザラ。

 けど、そこの仲間に学生結婚して妻子がいた奴がいて、愛妻と愛娘のために真夜中になってもできるだけ自宅に帰るようにしていたんだそうです。

 で、ある日、ダムの予定地を見に行って。まあ、当然奥地の過疎の山村で。温泉の湯場があるんで観光客も少しはいるって感じの村ね。

 打ち合わせが終わったのが夜の九時過ぎで、高速もないようなとこだから一般道通るしかないんだけど、早朝に出て来てもそこまで片道四時間かかったようなところ。

 けど、そいつは帰る気マンマンだったから、帰り道は日中立ち寄った食堂で、抜け道を聞いておいたんだと。地元民しか知らないような山中の抜け道を。

 そこを越えれば、抜けたところから高速にのれるし三時間くらいで帰れそうな話だったんですね。それで、打ち合わせが終わると早速そっちに向かったわけです。

 実は、その食堂のおばちゃんに、夜になったら使っちゃ駄目だって言われていた。しかし、理由が道が悪くて夜は危険だから、とかじゃなくて、化かされるからやめとけ、て話だった。

 そんなん、四時間が三時間になるって時に、誰も言うこときかないよねえ、今時。

 それで、そいつは、好奇心を持ちつつ、その道に入ったわけだ。

 当然、街灯もない山道を、車のライトだけを頼りに。

 道が舗装されていないのは覚悟していたし、車がすれ違うのは難しいだろうことも承知してた。

 けど、対向車は全然来ないし、枝が張り出しすぎて車にあたるってこともないし、でこぼこも覚悟したほどはひどくないし。とはいえ、ぼーっとなれるほど楽な道ではない。

 気を張りながら三十分も走っているうちに、もう、化かされ話のことなんか忘れちゃったんだそうです。

 で、忘れた頃に、バックミラーに光が映ったんだな。

 あ、後続車だな、と。

 一本道のことだし、これまで気づかなかったんだから、相手はスピード出してるんだな と思ったわけです。きっと、慣れてる地元の人なんだろうと。

 ちらりと見えて、次にカーブを曲がってからまたミラーをみたらグンと明るくなってる。どんどん近づいてくる。

 彼は、もしかしたら、どんな道でもかっとばす無謀な奴かも知れないなと感じて。

 そういう奴って、抜けないとぴったりくっついて煽ったりしてイヤじゃないですか?

 それで、彼もちょうど道幅が広いとこにさしかかったんで、避けてハザードたいて停まったんだそうです。

 がーっと二つのライトがあっというまに迫って来て、運転手の顔を見てやろうと見ていたら。

 通り過ぎて、行っちゃって、ライト二つが前にしばらく見えてて、ぱっと、消えちまった んですって。

 わかる?

 二つのライトが迫って来て、脇を抜けて、そのまんま二つのライトが見え続けて、あげくにパッと消えちゃったんです。

 ようするに、ライトだけ。二つの明かりだけ。

 二つの光球が、ちょうど車のライトの間隔で離れて車のスピードで突っ走って来て、彼の脇を抜けてから、消えたんです。

 しばらく、ハンドル握ったまま固まってたそうですよ。

 やがて、ざわざわと山が鳴るのが耳に入ってくるようになって、それから、食堂のおばちゃんの言葉を思い出して、化け狸だ! と。

 また化かされて事故っちゃいかんと、キョロキョロしながらゆっくり車出して、まあ、無事に、家に着いたんだそうです。

 それ以来、近道を聞いた時には、なんか化けて出てくる噂がないかどうかちゃんと確認してから、使うことにしてるんだそうです。そんな話を聞いた時には、ちゃんと、使わないようになった

そうです。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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