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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第三巡 人ではないもの
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第十七話 岩田 満員電車

 会社の研修に行った、同僚の話。

 いつもと違う満員電車にもまれて研修所に通いだして、二日目。

 足首辺りに、何か丸っこいものがあたるのに気づいたんですって。けど、満員でしょ? 足の踏み場もようやく確保したって状態だから、次の駅まで何か当たってるな~って思いつつ、そのままだったわけ。

 で、次の駅でどーっと人が降りて、けど、丸っこいものってのは、見当たらなかったのね。

 満員電車って、足元見えないじゃないですか。胸元見えればいい方? 下手すりゃ足の踏み場なくて、爪先立ちで体勢もめちゃくちゃででもぎっちぎちだから転ぶこともないっていう。まあ、その時はそこまでひどくはなかったみたいですけどね。

 三日目に、また、何かが彼女の足に当たったのね。ドアが閉まって、動き出す直前。

 ぞっとしたことに、その感触が、髪の毛だった。

 短髪の、ごわごわした髪の頭を押し付けられている感触。彼女は、とっさに足をのけようとしたんだけど、混んでるし、ちょっとしか動けなかったのね。そしたら、その丸いもの。せっかく転がって離れたのに、またゴロリと彼女の足に当たってきたんですって。

 人目があるから、彼女は必死に我慢して、次の駅で降りる時に蹴り転がすようにしたんだけどね、やっぱり、目で確認することはできなかったそうです。

 で、研修最終日。

 また出たらやだなあと、彼女、隣の車両に乗り込んだのね。なのに、また、何かが当たった。しかも、今度は、鼻と頬が当たっている感じがしたんですって。

 もうやだ~と思いながらも、その電車に乗るのは最後だったし、たった一駅間だし、我慢したのね。 そしたら、途中のカーブで客が皆傾いた時、足元の頭が離れて、また直進に戻ったら、それが戻ってきた。当たったな、と思った途端に、足首をすごい痛みが襲った。

 さすがに、『痛いっ!』て叫んじゃったそうです。けど、満員だし。


 駅に着いて降りて、やっぱり何も確認できなくて。けど、痛みの残る足首を見たらストッキングが破けてて。犬歯で破られたみたいに二つの穴ができて伝線していて、その穴を孤を描いてつなげた形で皮膚がへこんでいる。丸っこくて、ちょうど人の歯型みたいな痕が残っていたんですって。

『噛まれたの?』

 て声をかけてきた女の人がいて。この電車ではよくあることだけど、噛まれるのは一度だけみたいだから今後は大丈夫ですよって。

そう言い置いて行っちゃったそうで。彼女、腰が抜けそうになって、やっとのことで発車時刻の案内板にしがみついて、女の人が階段を下りていくのを見送ったらしいんですけど。その間、しがみつく彼女の脇を通り抜けていく女性たちが、ちらちらと彼女を見る様子が、事情をわかっている風に見えたんですって。

 後でその沿線使って学校に通ってたって子に聞いた話だと、学校では女生徒だけが噛まれるって有名だったとか。

 それも、ダイヤ改正があると違う電車になるんですって。

 しかも、彼女が被害にあってしばらくしてダイヤ改正があったんだけど、それ以降、その沿線に出なくなったって話を後輩から聞いたと言ってたそうです。

 まだ、引退するほど古い電車じゃないし。どっかの沿線で、また満員電車で人の足に噛み付いてるんじゃないかって話でした。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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