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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
休憩中 第1回目
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三階は快適です。そして、二階は至福です。

 羽生は、そもそも塔に入る前に化粧室の場所を確認して済ませていたので、この休憩で化粧室に行く必要はなかった。こんな短時間で崩れるような化粧品も使っていない。

 塔に入る前に行った化粧室が、神谷達三人が向かった化粧室だろう。一階に入れない階段を使うのだから、二階から地下一階まで下りて更に一階分上がらなくてはたどり着けない化粧室だ。三人が戻るまで、十分以上はかかるだろう。

 羽生が三階に上がったとき、森山はすでに一番奥にある扉を抜けるところだった。

 三階は、二階の出入りできない部屋たちの上もフロアになっているようで、吹き抜け以外にもそれなりに広い空間がある。吹き抜けを角度のきつい『く』の字で囲ったような形で、面積は一階の赤いフロアより広いかもしれない。『く』の字の上端の外壁側に階段口があり、吹き抜け側に神谷と田中の後ろにあった梯子の出口がある。下端が化粧室。そうして、折れる部分にあたる場所には、エレベーターがあった。

窓の外には、遊園地も見える。特殊ガラスのようで、景色は見えるがまぶしくはなく、すべてを白黒に見せてくれる。明かりをつけていない空間は、吹き抜け部分の方が明るい。

天井は、二階から見るよりもしっかり屋根の複雑な造りがみられる。大木が圧巻だ。三階だけなら、立派なパーティールームだ。

 奥の扉は二つあり、吹き抜け側は『restroom』と表示があり、外壁側は『staff only』と表示がある。羽生は、外壁側の扉のノブを回す。

 それはあっさりと開き、奥深い空間が現れた。長机が複数置かれ、冷蔵庫もある。化粧室側にそちらの空間を削って作られた料理運搬用だろう昇降機もあった。やはり、パーティーに使えるフロアだ。

 エレベーターは地下から直結。塔の外壁は窓は三階のみ、扉は一階のみ。

 パーティールームの客は、地下から来るのだ。

 羽生は、『restroom』と書かれた扉に移る。男女多目的の三つの扉があり、女性用に入ると、個室二つと化粧直しのスペースがあった。手だけ洗って、外に出た。

 フロアに出てエレベーター前まで行く、森山が出てきた。

 羽生は、そこで歩いてくる森山を待ち受ける。

「下と比べて広いですね、この階は。最上階は別口のお客様用なんですかね」

 森山が声をかけてくるが、見てわかる話に興味はない。

「森山さん、あなた、視える人ですよね」

 森山は、羽生の前に立ち止まる。

「そう視えるんですか?」

「そう視えるんです」

「神谷さんなんかもそうですかね?」

「あの人は私どころじゃないでしょう」

 白銀に光っていて、顔がよく見えないほどだ。あえて視ようとはしていないのに。

「田中さんと岩田さんは?」

「あの二人は素養があるわけではないですね」

「羽生さん、視えるだけだけど、視えることが多いんですね。俺はそこまでわからないですよ」

 羽生は、一息つく。相手は認めた。

 この男もあえて視なくても視えるくらい光が強いが、神谷はレベルが違いすぎる。森山にも何か視えたのだろう。二人の色や性質は似ている気もするが、羽生も今日は仕事に集中するため、視るパワーを落としてある。調整が面倒なので、ほかの者のこともあえて確認はしていないが、単純なレベルのことならわかる。田中と岩田は霊的には至って平凡だ。

「でも、俺、自分は視えないと思っていたいんで、視えないと思っていてもらいたいんですけど。お願いできません?」

 よくわからないことを言う。羽生は、黙って話の先を促した。

「自己紹介でも言いましたけど、父方の祖父が亡くなる以前に両親は死んでるんです。俺が十歳の時にね。既に両親は離婚していて、俺は父方で暮らしてたんですけど。ある日、母がやって来て、父を刺し殺して帰って行ったんですよ。俺の目の前でね。俺には見向きもせずに」

 なかなか壮絶な話だ。しかし、それが視えないことにしたい理由とどう繋がるのだろう。

「母はその後すぐ死んだそうだけど。この視えるとかっていうのは、母方の遺伝なんです。俺は父や祖父母と暮らしていて、母がいなくても何も困っていなかったし、父が殺された後はいろいろ大変だった。だから、母から遺伝したもののことは、認めたくないんですよ。もう、何十年も、三十年かな、もう。それほど前のことなんですけどね。気持ち、わかってもらえます?」

 真正面からこれだけのことを言われたら、さすがの羽生もうなずくしかない。

「わかりました」

 この男は、視えないふりを三十年もしてきたのだ。ある意味筋金入りの『視えない』男だ。

「みんなにも内緒でお願いします。まあ、言わなきゃいけなくなりそうな気もするけど」

「その時はご自分でどうぞ」

「そうだね。そうしますよ」

 二人が二階に戻ると、相川は南瓜におやつをあげ終わり膝の上に座る南瓜をなでていた。

「相川さんは行きます? 南瓜引き受けましょうか?」

 森山が手をワキワキさせながら尋ねるが、相川はいえいえ、と南瓜をかばうようにして断ってきた。すっかりはまったらしい。

 羽生と森山が自席に戻って茶菓子で一服していると、三人が戻って来た。なにやら、ぐったりして見える。

「遠すぎっ。次は上に行く!」

「僕も次は上がいいです」

「上のトイレどうでした?」

 よっぽど大変だったのか、三人して次回は三階希望のようだった。個室の数はあるので、問題ないが。

「広いし綺麗ですよ。遊園地も見えるし」

「あ、ずる! 見たい! でも、今はこれ以上階段昇りたくない!」

「同じく」

「はい」

 同じ苦労をした三人は、それなりに仲良くなったのだろうか。

 五分ほどで、ちょっと休憩長いかね、そろそろ始めた方がいいんじゃない? と年長者の相川が言い出して、神谷と田中がダンボールにゴミを集め始める。とはいえ、残している者が多い。残った茶菓子はそのままテーブルに置いておくことにしたが、できるだけ蝋燭立てに寄せて画像に支障がないようにしようと相談した。もともと、お茶のペットボトルは蝋燭立ての真ん前に寄せてあったのだ、そういえば。

ダンボールを外に出し、相川がその上に南瓜を置いた。

扉を、森山が閉める。

「さて、再開してもらいますかね」

 森山が、進行役の神谷に言った。


 百物語、第三巡に入る。


次から百物語に戻ります。

第三巡に入ります。

テーマは「人ではないもの」です。

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