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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第二巡 生きている霊
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第十一話 岩田 マフラー

 伯母が友人に聞いたと、教えてくれた話です。

 その友人が若い頃、好きな人ができて、マフラーを編んだんだそうです。

 あまり編物は得意じゃなくて、セーターは無理だけど、マフラーなら、と頑張って。

 けど、作り始めてすぐに、好きになった人に幼馴染の彼女がいることがわかった。どこから話を聞いたのかその彼女から直接言われて、諦めつつもマフラーは編み続けたんだそうです。

 半分ほどまで編めた頃、人から、実は幼馴染の彼女はただの幼馴染で、彼の方は困っているらしいと聞かされた。

 ツテを頼って本人に確認してもらって、それが本当だとわかって。更にいろんな話が集まったところによると、幼馴染の彼女は相当嫉妬深いらしく、何年もの間、彼が他の女の子とつきあうことがないよう、邪魔をしていたんだそうです。

 学校では彼の下駄箱やロッカーを勝手に開けてラブレターを入れられたりしていないか確認して、部活や委員会も同じのに入って、 彼の所在がわからない時には、誰かに呼び出されているんじゃないかって、告白場所とされるところを探し回ったり。

 でも、チャンスがないわけじゃないですからね。つきあっている相手がいないならと、いよいよ気合を入れてマフラーを編んだんだそうです、その友人は。

 けど、ある朝、その人は真っ青になって登校して来た。そろそろ仕上がるんじゃないかという頃です。

 聞けば、マフラーを全部捨ててしまったということでした。

 理由を訊ねると、

「毛糸が、赤く染まっちゃうの」て。

 編み進めるうちに、ねっちょりとした感触に気づいて見ると、たった今編んだばかりの数段分の毛糸が赤く湿ってしまっているんだと。それは明らかに血の色で、どこか指を怪我したのかと思って見ても、どこも傷ついていない。それで、無事なところまで切って、糸を繋いで再び編み進めると、また同じことが起こる。

 きっと彼女だ、と、思ったそうです。

 あの幼馴染の彼女が、自分の邪魔をしようとしている。彼に近づかせまいと、妨害しているんだ。そう思ったらカーッときて、負けてなるもんかと、編んでは染まる毛糸を切って、繋いで編み、切って繋いで、編んで切ってを繰り返して、結局、徹夜してしまったのだそうです。

 朝起きるはずの時間になって。

 その頃にはとうとう、完成間近だったマフラーは、ほんの数センチを残すばかり。なんでも、だんだん染まるスピードがアップしていって、最後には五段編めば十段染まる、ってくらいのペースだったらしいです。

 結局、その残る数段さえも、赤く染まってしまって。

 それでやむなく、全部捨ててしまったのだそうです。

 で、怖くなって諦めるかと思ったら、なんと、今度は赤い毛糸を買ってきて編み始めたんだそうです。これで、染まっても切らなくていい、と。

 友人は、ついに完成させたそうですよ。真っ赤な毛糸で、ときにぐっしょりと濡れるがままに。

 完成後洗いに洗って、それから、勇んで彼にプレゼントしようと包装して。

 彼を待ち伏せていたところに、例の幼馴染がやって来て、ただ、彼女の前を通り過ぎて行ったそうです。

 青白い顔で、両手首に、真っ白な包帯を巻いた姿で。

 洗濯した時に真っ赤に染まった水を思い出して。繋がっちゃったんですね、彼女の怪我と、毛糸を赤く染めるものとが、友人の頭の中で。

 やっとというかなんというか、ですが。

 彼女の血にまみれたマフラーをあげるわけにいかなくなって、結局、それは焼き捨てたんだそうです。

 そして、告白もし損ねた。

 この勝負、幼馴染の彼女が勝った、ということです。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。

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