表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第二巡 生きている霊
19/143

第十話 相川 眼

 飲み会で昔、上司が酔っ払って話していたネタです。まあ、酔っ払いのたわ言かも知れないですけど。

 その前日の飲み会で聞いてきたばっかのほやほやのネタだって言ってたんです、その時は。

 よっぽど印象に残ったらしくて、呂律が回らないほど酔っ払ってるってのに、話さなきゃ気がすまないって風で。 それも酒飲みながらじゃなきゃ話せない風で。話してようやく安心した、って感じだったんですよ。まあ、直に聞いた本人は相当怖かったんだと思います。

 上司と同期入社の男が有名な愛妻家だとかで、よくのろけとしか取れない話を聞いてきていて話題にはよく出ていたんだけど、 その男がまた妻の話を聞かせてくれたとかで。

 なんか、外の明かりが入るようにして寝ると、目覚めがいいんだそうですね。

 朝日が昇って明るくなって来るのがわかると、体がちゃんと自然に目覚めるように眠りのサイクルをつくるんだそうですね。

 それを、その奥さんがテレビかなんかで聞いて、夜、雨戸と遮光カーテンを開けて寝るようにしたんだそうです。

 ある晩、夫が夜中に眼を覚ました。

 開いた遮光カーテンの間から、満月がのぞいていた。それで明るくて眼が覚めたのか、 まだ朝には全然早いのはわかったんで、また寝なおそうとした。けども、その前に脇に寝てる奥さんの様子をちょっと見ることにした。まあ、いつもそうするんだそうです。

 そうしたら、奥さんの顔が、歪んでいた、と。

 頬っぺたがおでこに、鼻が顎に、口が頬に・・・・・・て、正確な位置はよく覚えてないけど、とにかく、 失敗した福笑いみたいにぐしゃぐしゃな配置になって歪んでいた。

 昔話で、首が自由に飛び回るお化けがいて、それは、夜、体をおいて首が出歩くんですよね。その間に体を動かされると、二度と体には戻れなくなる。

そんな話をその夫は知っていたので、今、下手に驚いて妻を無理やり起こそうとしたら顔が元に戻らなくなるかも知れない。そう思って、そのままにして寝なおしたんだそうです。

 朝起きると、顔は元に戻っていた。

 翌晩、また月明かりで目覚めたけど、ちょうど背を向けて寝ていたので、わざわざ見ないことにして、寝なおした。

 翌朝、奥さんはちゃんと普通の顔をしていた。

 けど、また次の晩、夫は夜中に目覚めてしまった。よりにもよって、妻の方を向いて寝ていて、妻は夫の方を向いて寝ていた。

 目の前に、またぐしゃぐしゃになった顔があった。

 夫は、驚いちゃいけない、と、落ち着いて月明かりで妻の顔をじっと検分した。よく見ると、ぐしゃぐしゃになった配置の中に、目がない。

 それで、夫はそっと体を起こして、妻の髪の中や横向きに枕に押し付けた部分にないかどうかを、薄暗い中必死に眼をこらして探したけれど、目がみつからない。 だからといって明かりを点けたり頭に触れたりして妻を起こしてしまっては、取り返しのつかないことになるかも知れない。

 またこのまま寝て朝になれば元に戻るのだろうけれど、もしも、眼が散歩に出て迷子になってしまったりしたら、大変なことになる。心配になって、夫はせめて月明かりがもっと明るくならないものかと、月の方をみた。

 そうしたら、そこに、いたんだしそうです。眼が。

 少し欠けた月をバックに、レースのカーテンを引いたその前に。

 ふたっつ、浮かんで、夫の方を見ていたんだって。

 確かに、それは妻の眼だと、夫は一目でわかったそうで。互いにみつめあって、そこに妻の心があると、感じたんだそうで。

 だから、夫は頼んだんだそうです。

「戻っておいで。戻ってきておくれ」て。

「私を置いて行かないでおくれ。戻ってきておくれ」と。

 眼は迷うように揺れながらその言葉を聞き、夫が言葉を繰り返していると、す~っと、妻の顔に戻っていったんだそうです。

 それで妻の顔は普通に戻ったので、夫はカーテンを引いて月の光を遮ってから、寝なおしたんだそうです。

 翌晩からは、カーテンを開けて寝るのは禁止。雨戸もしっかり、夫が帰宅したら閉めることにした。

 理由は「あんな寂しそうな妻の眼を、もう二度と見たくないから」だって。

 しばらく休みも忙しくしていたから、近いうちに二人で温泉旅行でも行くんだ、と言って、ニコニコしてたそうです。


 その話をしてくれた上司は、俺だったら横で妻がそんな顔になってたら悲鳴上げて逃げるって最後言ってましたけど、私も同感で、絶対逃げると思います。みなさんだったら、どうですかね?


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ