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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十八巡 無題
132/143

第九十一話 冬沙 行列

 某遊園地に行った時のことです。ここじゃないですよ。

 上の娘が小学校に入る前に、無理やり夫も巻き込んで三人でね。

 小さい子はあまり順番待ちが得意ではないし、身長制限がある乗り物も乗れません。

 小さい子向けのものはそれなりにすいているので、あまり待ち時間なくまわることができました。

 あと一個くらい乗り物乗ったら帰ろう、というところで、子供が乗りたがったのは、宙をぐるぐるふわふわと浮かんで回る乗り物でした。

 メーリーゴーラウンドが太めの動物になっていて数メートル上に浮いている感じの乗り物ですね。

 上下の動きもゆるやかだし、回転速度も遅いし、何より身長制限がゆるい。ぎりぎり冒険できる乗り物でした。

 同じ年頃の子がたくさん、並んでいました。

 夫は行列が嫌いなので、娘と二人で並ぶことになりました。待ち時間は二十分とありましたので、大人向けのアトラクションに比べれば、まだ待ち時間は短い方でした。

 夫も、並ぶ列の外側でできるだけつきあってくれましたし、下から写真を撮るからと約束してくれました。実際に二人で並んだのは十分くらいでしたね。

 折り返して並んでいるので、周り中が親子連れです。その中に、年配のご夫婦がいました。

 大人向けの乗り物は若者向けでもありますから、年配の方にはこれくらいがちょうどいいのかなと思い私は納得したのですが、娘が、その夫婦の方をずーっと、見ているんです。

 隣りの隣りの列くらいの、私たちより先の方で並んでいたんですけどね。

 よく見ると、二人の間に隙間があるんです。しかも、それぞれが、その隙間で何かを握っているような形をしています。そう、小さい子の手を握っているような形をしているんです。間に子供がいるかのように。

 お人形をベビーカーに乗せて連れているご夫婦は何組か見かけたことはありますけれど、子供を連れているフリをしているというのは、初めてでしたね。娘も不思議そうに見ていました。

 娘は、あそこに誰がいるのかな? 猫さんかな? 犬さんかな? と。

 おかげで、行列の時間をおおむねご機嫌でつぶせました。

 お二人は乗り物に乗っても、間に子供一人挟んでいるかのように隙間を空けて乗っていました。気になったのは、二人とも全く、楽しそうに見えないことです。はしゃぐ子供たちとそれを嬉しそうにみつめる大人たちが乗っている中では、かなり違和感のある二人でした。

 私と娘の番になり、上空から下を眺めていたら、例のご夫婦に夫が話しかけているのが見えました。

 ちょっと、なんでこっち見てくれないの、写真撮ってよ、と思いました。

 後で文句言ってやろうと思いつつ、夫の知り合いなのかしらと、不思議に思いました。

 私はまったく知らない人だったからです。もっとも、私と夫は年がかなり離れているので、昔の知り合いなのだろうとその時は思って、子供と乗り物を楽しむことにしました。

 ご機嫌でスキップする娘と夫との待ち合わせ場所に行くと、夫が大きなぬいぐるみを抱えて待っていました。

 どうしたのかと聞くと、もらったと言います。娘は大好きなトラのぬいぐるみに大喜びです。

 待ち合わせ場所はぬいぐるみショップの目の前でしたので、そこで買ったのでしょう。娘より一回り小さいくらいのものですから、相当高いです。

 そこで、さっき、私たちの写真を撮らずに年配のご夫婦と話していたでしょ、上から見えたわよ、と問い詰めると、夫は白状しました。

 ご夫婦が、おかしなものと手を繋いでいた。二人ともかなり疲れたような顔をしていて、おかしなものはうれしそうな気配だった。

 目の前を通りかかり、ちょっとこれはやっかいなものだなと思ったので、つい、お困りですかと声を掛けてしまったのだと。

 夫は、人より物がよく見えるのです。

 そして、ぱっと手で払えば、たいていのモノは消えてしまうのです。

 おまけに、おかしなものであれば子供のように無邪気なものであろうが全く気にせずに祓い飛ばすことができる神経の持ち主なのです。

 そんなわけで、これに困ってますよね、と言って、二人が戸惑いつつも頷いたからと、ぱっと、そのうれしそうなおかしな何かを、消し去ってしまったのだそうです。

 それから、あ、写真を撮り忘れたと、乗り物の方を見て言ってしまった。ご夫婦が唖然としているうちにね。

 一度はお礼を言って消えたお二人でしたが、カメラを構えて、でも私たちが降りてしまった後で、せめて歩いているところを撮ろうとまごまごしていたらお二人が戻って来て、このぬいぐるみをお礼にとくれたのだと、白状しました。

 おかしなものの正体は、お夫婦の旦那さん方のご先祖の子供で、先祖代々憑いていたものだったそうです。普段は家で遊んでいるが、たまにテレビや雑誌で何かをみつけては連れて行けだの買ってくれだのと言いだす、断ると家中滅茶苦茶にされてしまうので、従わざるをえない。

 そんなものを祓ってあげて、大きなものとはいえぬいぐるみ一つって、ちょっと、ねえ。

 そう言ったら、一応名刺を渡したと。

 後日、その子供のために立派な子供部屋があったけれど不要になったので、と、大量のおもちゃやぬいぐるみが送られてきました。ええ、本当に、トラック一台分。

 人が遊んだわけじゃないので、物理的には汚れていませんでしたしね。

 でも、それだけのものを買ってあげられるだけの財力があったということは、もしかしたらその子供は座敷童のようなものだったのではないかと、あとで思いました。

 一応、苦情は来なかったです。

 おもちゃやぬいぐるみは、お祓いをしてから、いくつかの施設に寄付しました。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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