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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十七巡 なか
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第八十六話 昴 穴掘り

この巡も、冬季回は別話が入ります。

 同じ大学の人が、穴に落ちて死んじゃったんですよ。

 その人と同じゼミだった人に聞いた話です。

 バーベキューに行った仲間たちが遊びで砂浜に落とし穴を作ったんですね。彼は一人だけ、遅れて合流しようとして、落ちたんですね。バーベキューやってる現場のすぐ道路側に掘った落とし穴に。

 楽しそうにしている仲間たちに合流しようと、冷えたビール下げてにこにことやって来て。彼は、落ちた瞬間もにこにこしていたって。何が起きたか把握した時には、砂の中。

 仲間たちが大受けしつつ助け出そうとしたけど、砂ですからね。掘っても掘っても崩れて来て、結局、窒息死です。

 確実に落ちるように頑張って、一.五メートル四方くらいの広さを、深さも一メートル近く、掘ったんだそうです。その上に細い竹を十字に渡して、ダンボール載せて、砂をかぶせた。残念ながら、大成功だったんです。

 高校の同級生の集まりだったらしいですよ。

 落ちた彼は、穴掘り名人だったんだそうです。穴掘りイベントで優勝したりね。

 だからこそ落とそうと思ったと、同級生たちは警察に説明したんだそうですよ。

 そもそも、何故穴を掘るのか。

 もともとは、雪でかまくらを作って遊ぶのが好きだったんだそうです。子供の頃は小さくても入れますしね。かまくらを作れるほどの雪は年に一~二回程度という土地の出身で、大雪が降ったらお兄さんを含む家族みんなで作っていた。

 近所一帯親戚みたいな土地柄だから、大雪が降ったら、彼ら兄弟のために庭や畑の雪を集めて作ってくれて、できたぞーって電話がかかって来る。それで、兄弟や同級生たちと遊びに行ったりしていたんだそうです。

 ある年、夜にお兄さんが家族に内緒で家を抜け出して、一番大きくできていた、近所の畑のかまくらに泊まった。翌朝、近所中で探したら、崩れたかまくらの中で死んでいた。

 もともと、昼間子供たちが一時的に遊ぶためだけに作ったものですからね。午前中だけ遊ばせて、午後また雪が降ってきたので壊さずに放置していた。

 彼は、実は前夜、兄と一緒に抜け出して、寒くて兄を置いて夜のうちに家に帰り、朝、熱を出してそのまま寝込んでいた。兄の死体がみつかってから初めて、兄が戻っていないと知ったのだそうです。

 ブルーシートにテントシート、冬用寝袋にストーブ。それでも寒かったので、彼は二人で持って行ったストーブの火を少し強くして、自分の寝袋を兄にかけてやってから家に帰った。

 新たな雪の重みと、畑のど真ん中という立地。

 翌朝は夜明けごろまで雪が降っていたけど、明るくなってきてすぐにいい天気になって、そのお日様がかまくらによくあたっていた。放射冷却現象もなかったし寒気も通り過ぎて、いつもより暖かい朝だったんだそうです。

 それで、朝のうちに崩れたんだろうって。

 高校の修学旅行の時に、同級生たちに穴掘りの理由として、その話をしたそうです。

 雪はあまり降らないから、地面を掘るんだと。

 兄を助けたかった思いや後悔を、地面を掘ることで発散しているのだと。

 そんな彼が、二十歳を過ぎたころから穴を掘らなくなった。

 庭や畑や学校の敷地に穴を開けまくっていたのに。

 同級生の一人が理由を訊いたら、兄が地面の下にいたから、と言われたそうです。

 掘って掘って掘りまくって一息ついて下を見たら、自分の足と足の間に、兄の顔があった。びっくりした顔をしていた。こちらもびっくりしてよく見ようとしたら、消えてしまった。

 そのことがあってから、穴を掘る気がなくなったんだ、と。

 同級生たちは、穴を掘って元気に自慢する彼の笑顔が好きだったので、自分たちにもこんな穴が掘れたよと、言いたかったのだそうです。安全のために、深さも一メートル程度にした。けど、砂ってすごく重いんですよね。

 彼は頭から落ちてしまっていて、おしりと足の先は見えているのに、掘っても掘っても砂が崩れて彼のうえに落ちていく。引っ張っても砂が重くてびくともしない。彼らの足元もどんどん埋まって動けなくなって行く。

 通報でレスキューのサイレンが聞こえる中、彼らは一時、動きを止めました。

 同級生たちは、見たのだそうです。彼のおしりと足先の間に、男の子が、同級生たちも知っている彼の兄が、正座をしたまま砂を手でつかんで遊んでいるのを。サイレンが聞こえ始めた頃、現れた。何故か全員がその「顔」を見たそうです。囲い込むようにしていたのにね。彼の兄は、驚いたような顔をして、それからにんやりと笑い。弟のおしりに砂をかけて遊び出したのだそうです。

 そんな姿に悪態をつきながら、彼らは再び必死に掘ったんだそうですよ。

 レスキューが来て上に上がらされてから穴を見たら、男の子はにこにこしながら消えていったそうです。

 結局、レスキューの人たちが救出した時には落ちてから一時間近くが経っていて、落ちた彼は、病院で死亡が確認されたそうです。

 ちなみに、同級生たちは書類送検されて、民事では彼の親に損害賠償することになったそうです。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


この巡も、冬季回は別話が入ります。

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