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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十六巡 死者の主張
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第八十五話 亜希 水音

 仕事してた頃、同僚に聞いた話です。

 彼女が、中学二年の夏休みの時の話で、話し方からすると『思春期の美しい思い出』なんですけどね。どう聞いても、心霊体験なんですよ。

 八月半ば、お盆で部活も休みで、友達もあちこちに旅行に行ってしまって暇だった彼女は、 部屋で音楽を聴きながら、一人で本を読んでいた。

 そうしていたら、スピーカーから雑音が聴こえてきた。

 よく聴くと、ぽつーん、て、水滴が水面に落ちる音が、二、三分おきに入っていたんです。 

CDで聞いていたから、そんな音が紛れ込んでいるはずないんですよ。しかも、聴きなおしてみると前回と違うところで水音が入る。その時は、ラジカセが壊れたんだろうと思って音楽の音量を上げてみたところ聴こえなくなったので、すぐに忘れちゃったんだそうです。

 次は、同じ日、夕食の後、部屋に戻ろうとトイレの前を通り過ぎる時、中から水を流す音がした。

 たった今まで家族全員で食事をしていたんだから、誰もトイレにいないはずなのにです。それで、不思議に思って彼女がトイレを開けてみると、水は流れているけれど、誰もいない。

 変だなあと思ったけれど、それだけだった。彼女、幽霊とかって信じない人なんです。

 まだ同じ日。今度はお風呂に入っていたら、蛇口からぽつーん、と、水滴が落ちた。

 そういえば、CDから聴こえた音はこんなんだったなあと思いながら、彼女は蛇口をしっかりとしめなおした。

 それなのに、少しすると、また、ぽつーんと水滴が落ちる。これ以上彼女の力ではしめられないくらいきつくしても、また、少しすると、ぽつーんと落ちる。

 彼女は、蛇口が壊れたと考えて、親に報告した。あとは自分には無関係だと思って忘れた。

 で、更に、夜寝ていると、また、水滴が水面に落ちる音が聞こえてきた。

 やっぱりお風呂の蛇口が壊れてるんだと思って、そのまま寝た。自室にクーラーはなかったし、窓も扉も開けて寝ていたので、お風呂の音が聞こえてくることはおかしいことじゃなかったんだそうです。

 けど、翌朝お風呂をのぞいたら、お湯が抜いてあった。

 母親に聞くと、蛇口が壊れているのか確かめるために、夜、お湯を抜いておいたって言うんです。しかも、水音は響くから、蛇口の下に雑巾を置いておいた。それは朝、湿っていなかったので、壊れていないはずだと、母親に言われた。

 つまり、昨夜聴いたような水音が、お風呂から聞こえたはずはない。

 彼女は、今度はお風呂の水滴のことを気にしすぎて、夢を見たんだろうと考えた。

 ところが、その日の昼、学校の友達から部の先輩が川で行方不明になったという連絡が来た。

 テニス部で、その先輩は県大会でもベスト八まで勝ち進んで引退したばかり。部の女の子たちはみんなファンだった。もてる男だけど、ストイックにテニスに打ち込んでいたっていう、みんなの憧れの君だった。

 彼女もご多分に漏れず、バレンタインには手作りチョコをあげたり、引退試合で泣いたりしたクチだったそうです。

 そして、その日も、前日と同じようなことが続いた。

 お風呂や洗面所、台所の蛇口から水が落ちる、勝手にトイレの水が流れる、部屋にいると水滴の落ちる音が聴こえる。

 それは、三日続いて、突然やんだ。

 彼の遺体がみつかった話は、母親がご近所から聞いてきたそうで。水の中に沈んでいた間、彼女に水音という形で接触をもちに来ていたんだと、彼女は納得したんだそうだです。

 きっと、先輩は自分に好意をもってくれていて、それで、最後に会いに来てくれたんだろうって、彼女はなつかしそうに嬉しそうに話してくれました。どうも、都合のいい時は幽霊を信じるらしいです。

 その後、その先輩から残暑見舞いのハガキと、先輩の家から訃報を知らせるハガキが彼女のところに届いたそうです。自宅の勉強机の引き出しに、あとは投函するだけって状態で入っていたのでお送りしますって書いてあったんですって。

 親御さんは気づかなかったらしいけど、それは、前年のかもめーるだったんだそうです。年賀状みたいに夏用に毎年出てたくじ付きのやつね。今はあるんだっけ?

 彼女は、前の年から好きでいてくれたんだろうってぽやぽやしてたんですけど、単に去年の余ったハガキを後輩に使ったんじゃないかって考えたわたしは、夢がないのかしらねえ。乙女心には自信あるんだけれど。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


音楽好きでCDを山ほど持っているのですが、車を買ったらCDがプレイヤーがついていませんでした(泣)

もう少ししたら、今のレコードみたいな扱いになるんですかね。

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