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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
休憩中 第5回目
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指揮命令系統の徹底を。

このお話はいろいろな事柄や登場人物の年齢計さんなどの都合上、2020年のお話という設定になっています。

「冬沙さん」

 そこまで考え至って、冬季は冬沙を呼ぶ。

「な、なあに?」

 突然呼ばれて、冬沙は動揺しているらしい。

「今の、厩務員(きゅうむいん)住宅って、前も馬屋番の家だったんですよね?」

「そうよ。昭和初期からね。その前は南東の玉垣(たまがき)の外側だったらしいわ」

「母屋の、今の取水口って、いつ作られたんですか?」

 少し、思い出すような間が空いたが、冬沙は相談役候補として読んだ相談役の部屋の中にある膨大な資料の中身を口にする。

「大正の終わりから昭和にかけて大工事をしたのよ。水路と配管工事の完成が昭和六年、母屋を建てたのが七年。更に世情不安から村の防空壕を作る話が出て、南へ向けて水路を掘りぬいて拡張して防空壕にした。当初は防空壕、今は水路ね。南側の事務所なんかが使っているわ。そして、その村用の南側の防空壕を作った時に、北側の母屋向けの水路沿いにも神谷家用の防空壕を掘って、上に馬屋番の家を建てて、水路と防空壕を隠すことになった。母屋への水路は神殿下の東西水路に合わせて、深さ一.五メートルくらいで作ってあって、その側面の石積を利用して壁にしていたみたい。戦後は防空壕を上から掘り崩して地下室にしたのよ。見たことはないけれど、とても涼しいので夏の食品保管にも使われているそうよ。水路の上には石の板が置かれているんですって」

「火事が、あったわけですよね? その時、その水路は?」

「火事の消火には東西に流れている二本の水路の水を使ったはずよ。露出しているからね。ええと、厩務員住宅の建て替えの記録では、旧住宅の焼け跡を撤去したときに地下室の清掃もしたと書いてあったわ。水路は石の板を数枚外して点検したけれど、隙間はほぼなく、問題なかったので特に清掃には入らなかったみたい。水の勢いがあるし、取水口自体は網を張ってあるしこまめに掃除しているから、取水口から母屋までは昔のままじゃないかしら。母屋は建て替えに合わせて母屋の方は配管をやり直しているわ」

「つまり、冬光の家の下の水路は、火事の前と同じ状態、ということ?」

「そうね、点検で数枚蓋を外して戻しただけ」

「私は地下に入ったことあるわよ、夏場はよく使うからね」

 亜希が補足説明をしてくれる。

「年末大掃除の範囲に入っているから中は綺麗よ。今は厩務員住宅の南側が共用倉庫だから、そこに地下に行く階段が作ってあるの。一段が高いけど、七段あった。空間は幅は私が手を広げたくらい、深さは背の高い人でも立って歩けるわ。防空壕だったころは身を屈めないと動けなかったと思う。水路は側面の石積みが露出しているけど、下の方数十センチは土ね。石の蓋はあるんだってわかる程度。蓋の上の空間はほぼないわ。変だなあと思ってたんだけど、以前は床高があって、床下収納みたいに床が開いたのかしらね。で、その水路が、気になるのね。ピンポイントに冬光の家の下の水路が? 住宅側? 倉庫側?」

 冬季は、ただ頷く。

 これは、口に出していいのだろうか?

 母屋の水。飲み水も食堂の調理にも使われている。洗面やトイレにも。風呂だけは神殿下からの東西水路、子供の遊び場になる露出の水路から引いて沸かしている。

 飲食関係では、飲み水は一か所だけ、裏の崖からの清水を直接流している場所がある。母屋一階の、相談役の部屋付属の台所だ。

 相談役は長らく奈々谷津昌子が勤めていた。彼女は、冬光はずっと、冬生に話しかけながら暮らしていたと言っていた。冬生が生きていたころは、お乳を分けてやったこともあったという。そして彼女は、食堂には行かなかった。

 神宮と相談役、それと朝昼晩の当番の者の食事は、母屋の相談役の部屋にある台所で調理をする。相談役の部下たちもだ。その水は、裏の崖から清水を引いていた。相談役は、飲み物の湯などもそこで沸かしていた。

 彼女は、師匠と同様、知っていたのだ。

 母屋への取水路に、赤ん坊が沈んでいることを。冬光が、遺体に呪いをかけ続けていたことを。

 母屋の飲み水や料理に使う水の通り道に、冬光の指と冬野の心臓を腹に詰め込まれた、屍蝋化した赤ん坊の遺体がある可能性が高い。

 その水で今現在生活している、冬沙と、亜希。冬太も、高校を卒業するまでは住んでいたはずだ。昴はまったく関係ないが。

「必要なら今すぐ、床を剥がして蓋を外させるわよ。どうする?」

 亜希が、無線機を片手に持つ。

「今日は祭りの準備をしながら大勢待機しているからね。あそこは陸奥(むつ)家の管轄だから、すぐやってくれるわよ。祭り準備で、隠居した前家長も来てる。八十過ぎの生き証人」

 ならば、昔の家の構造を知っているかもしれない。

「冬沙さん、もう一つ、教えて」

「なあに?」

「冬光は、なんで独身であの年までいたの? 家にいなかった?」

「そうよ、あとは戦争ね。昔は神谷の家から常に一人、修験道場に修業に出していたの。ユキちゃんも行ったでしょう? 冬光は十歳くらいに修業に出て、途中徴兵されて、戦後一~二年して戻ってきたのよ。国外に出ると、祭りの強制召喚は対象外みたい。それから、すぐに冬野さんと・・・・・・。同じ年の幼馴染だったのよね。修業にはその次に弟がやっぱり十歳で行ったのね。弟は七縛りじゃなかったから、一度も帰って来ていないわ。忠冬(ただふゆ)様も行っていたわよ、七歳から十四歳までだけど。徴兵は三家の者のうち海軍は冬光だけで、あとは陸軍に名ばかり所属しているか徴兵されなかったかね。当時の神宮は奈々谷津冬十郎様で、兄の冬五郎様と二人は神職として残れたそう」

 忠冬は田中の祖父。冬季を修業に行くよう指示し、師匠を紹介してきた。本人が行っていたとは初耳だが。

 なんにせよ、冬光には、知識があったのだ。その知識を持ったまま戦争に行った。すぐ戻れなかったということは終戦時海外の戦地にいて、捕虜となったのだろう。戦争と抑留という地獄を経験して、帰って来たのか。戻ったら、田舎でのんびり終戦を迎えた男たちがいたのだ。冬五郎が冬光に妻を奪われて放置したことの一因があるのかもしれない。

「冬光と冬野が死んでいた部屋の、南隣り。真ん中辺の真下」

 冬季は、覚悟を決める。

「そこに、呪物があるかもしれない。冬光が、母屋の人間を呪い続けるための呪物」

 赤ん坊の死体だとは、とりあえず言わない。

「自分の実家の者たちを呪い続けていたんだと思う。それを更に、自分が死ぬときに強化している。だから、今あそこに住んでいる人たちに、その呪いが引き継がれている」

 冬光の呪い。赤ん坊を放置し、医者も呼ばなかった家の者たちの場所に。

「もともとは、健康を損なうものだったと思う。実際、四十代で病死する人も多いし。昌子ばあちゃんは昔から母屋で働いていたから、冬春もあそこで育った。冬音さんも、冬治さんも。おそらく、火事の時に呪いを強化したことで、あそこで育った者には、冬光が憑りつきやすいんだと思う」

 あの敷地で育つ子供は、まとめて育てられる。昌子は若いころ、神宮たちの生活の世話係だったという。つまりは、相談役の部下だった。母屋では、唯一崖からの清水で調理される食事を、ずっと摂っていたのだ。

 しかし、息子の冬春は、母親の昌子とは別に、食堂の食事で育っているはずだ。

 そして、冬尚。地下で護摩を焚き霊を呼び集めているあの男。

 あの男は、冬春が結婚して家を出てから生まれている。火事の年に。建て替えた母屋に元は分家だった神谷冬五郎の一族が入り、七縛りを生んでいた昌子が相談役として住み着いたが、奈々谷津の家はそれを機に村から出ている。仕事や滞在用の家は敷地内に確保されているが、配管は神殿(した)水路の南側エリアだから、呪いは関係ない。

 しかし、ひかりは小さい頃は母屋の食堂に入り浸っていた。母親が生まれてすぐ死んでしまったため、昌子が母屋で育てるようにしたのだ。手がかからなくなった中学から、奈々谷津の屋敷に移った。ひかりはあの水で育っている。

 ひかりの伯父にあたる、地下の冬尚は、祖母である昌子から話を聞いていたのだろう。彼は呪いを摂取していない。しかし、ひかりは摂取している。それが、今回のことを計画した理由なのだろう。

「わかった。床板を剥がして探してもらう。さわらない方がいい?」

 冬季はうなずく。

「見つけたら、神宮様に判断を仰いで」

「わかった。あとはしゃべらなくていいから、少し休みなさい」

 説明をしている最中にも、肺の方が苦しくて咳き込み、胃液が上がって来て咳き込み、とぎれとぎれに話していた。

 亜希が無線機で石井を呼ぶ。石井からひかりに伝達し、ひかりから神社の代表電話に亜希の指示を伝えるように説明している。合間に、昴と冬太に冬季を椅子に座らせろと指示を出す。急に行動しなくてはいけなくなる可能性があるので、自力で立ち上がれない状態より座っていた方が安全なので、座って寝ていろと。

 すぐ近くを師匠がふらふらしている。あったかい気配がして、眠くなる。

 冬季は眠りによる回復力が高い。これは寝るに限る。

 椅子に座らせてもらうと、師匠が目の前にやってきた。ほんわかとしたぬくもりが伝わってきて、そのまま抱えて寝たくなる。さわることはできないよな、と思いつつ、猫を抱くように手を伸ばすと、師匠が近づいてきた。

「え?」

「は?」

「あ?」

 冬季自身には、何が起きたのかよくわからなかったが、冬沙、冬太、亜希から三者三様の声が漏れる。昴はただ口を開けただけだ。

 師匠の光は、冬季の中に消えていった。特にふれた感じもない。ただ、完全に中に入って光が消えたあとから、ほんわりと、体の中心が温かくなっていった。

 ずたぼろ感があった洞に師匠が入ったのだと、苦しさが薄らいでいくことで理解する。

 冬季は、すぐに卓に突っ伏した。腕に頭をのせて寝ると、肩や腕の傷が突っ張って痛むので、長くても十五分くらいしか眠り続けられないのでちょうどいい。現状もそれくらいは持つだろう。

 師匠が来た。手伝ってくれるらしい。ならば、あの塊もなんとかできるかもしれない。

 とりあえず寝る。

 冬季は、二呼吸で、眠りについた。


「あ、もう寝た」

 気絶したのかもしれない。昴は近づいて冬季の様子をうかがってみる。呼吸は少し早めだし、喉でゴロゴロ音がしたりする。苦しそうだな、とみている間に、軽く咳き込む。安眠には程遠い。

 しかし、ふんわりと入っていった光のせいか、冬季自体がなんだかほんのり温かいような気がする。

 なんだか、冬季の近くにいるのは恐れ多い感じがする。冬季の態度からしても、あの光は、いわゆる神道の八百万(やおろず)の神様の一人なのではないだろうか?

 冬太と冬沙を見ると、神妙な顔で冬季を見ている。緊張して様子を見ている感じだが、警戒しているわけではないようだ。

「じゃあ、あとは待ちなんで、百物語の続きでもやる?」

 亜希が指示を終えて声を掛けてくる。

「いやいや、あれ、あの残りのでっかいの何!?」

 昴は、これまで我慢していた疑問を投げかける。

「え? でっかいの?」

 そうだった、亜希は視えないのだ。

「なんかまだいるのはわかったけど」

 冬沙が呆れたような勝ち誇ったような顔をする。

「残りは一人よ、ただ、五~六人分のサイズというだけね」

「だけ、て問題じゃないでしょ。あれ、自分の洞に入ると思います? 僕のには絶対無理ですよ」

 調子に乗っている冬沙に、冬太がダメ出しをする。

「私のも無理よ。ユキちゃんだって無理でしょう、質が違うわよ何より」

「そうですね、岩の塊みたい。あれにくらべたら、これまでのは風船かスライムみたいなもんですよね、狭くたって不定形に通り抜けようと思えばできなくもない。負担は大きいと思いますけど」

「ユキちゃんの洞、だいぶ痛んでるわよね、きっと。なんか、自分の洞が共鳴しているというか、なんか痛いというかしみるというか」

「そうですそうです。胃液に溶かされてるみたいな感じとか内臓を直に踏みにじられているような感じが、自分の洞でしてて。胃薬飲みたい感じ。こっちが腹を押さえたくなるのに、ユキ君はよく姿勢も勢いも保ったままやり切って・・・・・・。本人は軽く十倍はひどいことになってると思う。無事終わったら、ホールでケーキ買ってやりたい」

「子供ならともかく、そんなに甘いもの好きかしら?」

「食が細いからなあ、何がいいかわからないなあ」

 冬太のお父さんな発言に冬沙が乗り、亜希もご褒美を考え出した。いやいやそんなのんきな場合か? 俺が変なのか? と昴は仲間外れ感を味わった。

「えっと、あと、あの光は?」

「ん? ユキちゃんが平伏してた相手? なんかあったかいの」

「そうそれそれ」

 あれほどの光も、普通は見えないものなのか。

「なんか『新鮮な神様』って感じがしましたけど?」

 冬太が言うのに、冬沙も頷く。

「視える神々では、久しぶりに強い神様にお目にかかりました、ね」

 二人は、冬季の方をうかがう。

「いずれにしろ、御前(おんまえ)にては不敬ですので」

「ユキさんのお味方になってくださっているようですし、ここまでで」

 二人は、話題の打ち切りを願う。確かに、相手が人であっても本人の前で「あれ誰?」は失礼極まりない。神様だということは理解したので、昴はそれ以上尋ねることは諦めた。

「とりあえず、百物語進めましょう? 一人なら残りの大岩は冬光ってことよね? だからこれ以上霊を呼ぶ必要はないと思うけどさあ、どうせ時間あるし、完遂しないとなんか癪にさわるのよね。まあ、いますぐ逃げる手もあるけど」

 亜希が言う。一応、意見を聞いてくれているらしい。

「まあ、ここまでやったから、終わらせたいとも思うけども。どっちみち、あの大岩をどうにかしないといけないんでしょう? ユキ君が。できるんですかね?」

 昴が弱気に言っても、亜希は強気だ。

「無理なら神宮様からなんかしらの指示が来ると思うのよね。なかったから、継続せよという意向だと思うわ。無視して逃げても怒られはしないって話よ」

「ユキさんの負担は気になるけれど、癪にさわるのはわかるわ。やりましょう」

「僕は余裕があるうちに逃げる方を薦めたいけども。でも、あの大岩を放置したらどうなるのかわからないから、できることからやるしかないのかなとも思います。それに、話している間はおとなしいんですよね、何故か」

 確かに。昨日も思ったが、休憩に入ると活性化し始めるのだ。怪談を話し続けるだけで平和な時間を維持できるというのも、変な話だが。

「そうそう。時間稼ぎには話していた方が安全かも。じゃ、再開しましょ。ユキちゃん飛ばしで順番はそのまま。なんらかの動きがあれば中断。あとは休憩なし。逃げるときは非常はしごから。使う順番は私、ユータさん、昴さん、ユサさん。私はその吹き抜けから上に置いて来たロープおろすからそれまでユサさんはユキちゃんについていて。昴さんは外に出る必要があるならシューター準備、ユータさんはロープ引っ張る準備。私が降りたらユサさんははしごにダッシュ。オーケー?」

 全員、了解を示す。吹き抜けから冬季をロープで引っ張り上げるのか、と、昴は上を見上げる。確かに、冬季の力では非常ばしごは登れないのだ。亜希はリュックを背負って来ていた。それを、上の吹き抜けのところに置いていた。元自衛隊員の本領発揮か。

「まあ、どんな状況になるかわからないけど、基本的に指示は私が出します。指揮命令系統が崩れるとろくなことはないので、私がしゃべれるうちは、行動については私の指示に従ってください。安全面でユキちゃんが緊急で何か言うならそれは従って。あと、私は視えないからね、その点のサポートはユータさんお願い」

「わかりました」

「じゃ、始めましょう」

 冬季を寝かせたまま、四人は自席についた。

 照明がすうっと落とされていく。

 照明は、誰が調整しているのだろうか。石井か、ひかりか。

 残る十九本の蝋燭のみの明るさとなる。

 冬季は、変わらず時々咳き込みながら眠り続けている。

 外の状況がわからないため、南瓜は室内に残された。おやつで満足したのか、冬太の膝のうえで丸くなったらしい。


 残るお題は『⑯死者の主張』『⑰なか』の二つ。本来終わるはずだった十七巡までしか課題はないので、残りは、フリーだ。



  百物語、第十六巡に入る。


次から、百物語を再開します。

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