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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十四巡 出るだけ
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第七十五話 冬季 浮かぶ帽子

 大学入る前辺りから二~三年の間に、叔父がよく旅行に連れて行ってくれたんです。

 叔父は、関西ならここ、東北ならここ、と宿を決めていて。そこを拠点にして観光したりするんですね。そのうちの、東北拠点になっていたホテルでのことです。

 ちなみに、私の勤め先とは関係ないとこですよ。

 東北は叔父のお気に入りだったので、五回くらい行きましたね。

 そこには、いつも、帽子が浮かんでいたんです。

 ぐるっとつばがあって、てっぺんがへこんでる黒い帽子。中折れ帽ってやつですね。

 だいたい、行くとまずロビーにいるんです。

 背は低めですね、百五十センチくらいの人がかぶってる高さです。ソファーに座った位置にいることもあります。

 透明人間がかぶっていたらこんな感じかな、という動きをするんですよ。

何故か、ホテルにいる間は、部屋の中以外ではたいてい近くをうろうろしています。

 エレベーターに一緒に乗って降りることもあるし、食事処や風呂にもついて来るんですね。エレベーターの中はともかく、それ以外はそんなに近くにはいません。でも、探すと必ずいる。風呂場は脱衣所までです。

 それは、叔父にも視えました。

 叔父が言うには、ほかの人には実体も視えるらしいと。よく観察してみると、確かに、ほかの人はちゃんと帽子を認識して全く気にせずに避けて歩いているんです。まるで、そこに背の低めなおじさんが歩いているかのように。

 普段と逆なんです。叔父や私に視えてほかの人に視えないというのはよくあることなんですが、その人は、ほかの人には視えて、叔父と私には帽子しか視えないんです。

 多分風呂では、帽子を脱衣所に置いて入っているんでしょうけど、そうなると私たちには完全に透明人間ですから、どこにいるかわかりません。気配もない。視えないし感じない人が、そこにいるぞって言われたらこんな感じなのかなというのを経験できます。

 気にしないように気にしないようにって思っても、あれは結構怖いですね。害はないんですけど。昔は大風呂って結構好きで、叔父を部屋に置いて一人で入りに行ったりしてたんですけど、あのホテルの大風呂だけは、一人じゃ行かなかったです。

 あと、一人でエレベーターに乗った時についてきたときは逃げました。なのに、何回チャレンジしても中に先に乗っていて、諦めて階段上って行ったら廊下にいるし。ちょうどなかなか私が帰ってこないからって叔父が部屋から出てきて、今度は意図せず挟みうちですよ。帽子があっち向いてこっち向いて。あげくに壁に寄ったので、脇を走り抜けて部屋に飛び込みましたよ。

 叔父の常宿だったから行ってましたけどね、あそこには二度と行きたくないです。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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