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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十四巡 出るだけ
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第七十四話 冬太 沼の遊歩道

 子供が少し大きくなった頃から毎年、夏休みに信州に行くようになりました。毎年同じペンションに泊まっています。ペンションから沼、川、森とまわって一時間くらいの散歩道が作ってあって、毎年一~二回はそこを散歩しています。ペンションに近い沼のところは半周ほど板を渡した遊歩道になっていて、水生植物や両生類とかを観察できるので、散歩以外でも遊びに行っています。

 そこは板を渡してあるだけで手すりがあるわけではないので、子供だけで行ったり、夜行ったりはしないように言われていました。水深は子供の背くらいしかないのですが、ずぶずぶと潜って行ってしまうんですね。大人でもどうかすると溺死してしまうことがあるそうで、子連れだったのでペンションのオーナーには本当に口すっぱく注意されました。

 でも、絶対にそこに一人で子供を行かせるなんてことも、夜行くなんてこともする気にはなりませんよ。初めて行った年、五年前ですかね、その年に一回だけ、大人が慌てて飛び込むのに遭遇したことがありましたんでね。

 背丈の高い植物がない辺りだったし、泳げるほどきれいな水の層もないところだったからなのか、その人、飛び込んだままの姿勢で沈んでいっちゃって。勢いの割に板からさして離れていなかったので、なんとか手を伸ばして、妻子に反対側に手を引っ張ってもらって足首つかんで、ずるずる引き戻したことがありました。助けたあとにその人が言うには、子供が溺れていた、と。

 水の流れもほぼないし、水生植物がいろいろあるし、遊歩道からも沼のふちからも、そんな大人が飛び込む先の方、なんてところに子供がたどりつけるわけないんですよ。

 でも、その人がとにかく大騒ぎしたので、沼の底をさらうことになりました。

 そうしたら、その人の言ったところから、本当に子供の死体がみつかりました。裸で、底の方のどろどろになったところから出て来たんです。

 翌年聞いた話では、その子は十年以上前に亡くなっていたそうです。検診にも来ない、学校にも通ってこないし自宅訪問しても親が会わせてくれない、居住実態が把握できていない子供だったそうです。

 裸で、身元のわかるものは何も持っていなかったのに何故身元が割れたかというと、その子は沼の底で屍蝋化していたんですね。その顔と死亡推定年数などから近隣の行方不明者や居住実態が把握できていない子供を照合した結果、対象が絞られて、保育園の頃の写真もみつかって、親が捕まったそうです。

 虐待などは否認したそうですが、気づいたら死んでいたと。それで遺体をどうすればいいかわからず、裸にして山に行き、遊歩道から沼に投げ込んだ、とのことだったそうです。

 解剖したら、脳出血の痕跡や複数個所の骨折、更に胃から紙切れやおもちゃが出てきたそうで、最近、両親ともに有罪判決が出たそうですよ。

 そういえば、今思い出しましたけど、子供を助けに飛び込んで沈んだ人。近くのホテルでお見合い会かなんかに参加しに来たって警察に話してましたね。リゾート合コン? なんか、都会の人対地元の人みたいな。警察に事情聴かれたりで、解放されたの遅い時間だったみたいなので、多分、わざわざ来たのに不参加になったでしょうね。

 いいことしたのにねえ。

 

 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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