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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十四巡 出るだけ
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第七十二話 昴 お化け屋敷

 若い頃、合コンで聞いた話です。看護師さんたちとの合コンだったんですけどね、医学部と看護学部の学祭の時の話だそうです。

 そこで、お化け屋敷をやってたんだそうです。

 話してくれた彼女は、高校時代からのつきあいだった彼氏との、久々のデートだった。お化け屋敷ときいて、彼氏の誘いでそこに入ったんだそうです。

 入ると、まず、真っ暗な通路。狭い室内を仕切ってあるから幅はあまりない。ほんのりとした明かりが暗幕の上の隙間からこぼれるだけで、隣りの彼氏の顔も輪郭しか見えない。とりあえず腕組んでまっすぐ歩き出して。途端に、べちゃって。まず、ビニール袋入りのこんにゃくの洗礼を受けた。

 看護師の卵の彼女は冷たいなあと思っただけだそうですが、彼氏の方がびっくりして「わっ」て声をあげちゃった。

 角を曲がって数歩進んだら、壁代わりの布が急に明るくなって、そこに人影がくっきりと。一瞬だけね。彼女は、中で人を挟んで ライトで照らして布に影を映しただけだって、即推理。彼氏の方はのけぞった。

 まあ、学祭のお化け屋敷じゃあこの程度よね、っと彼女は思いつつ、二人は更に進んだ。

次に曲がる先が、ぼんやりと青白く見える。その光を目指して角を曲がると、布越しに、青白い光。

 通路脇にあったのは、棺でした。

 若い女性が、白菊に埋もれて胸で指を組んで、納められていたんだそうです。

 蓋を開けた棺で、青白いライトが中に仕掛けられている。ほかに明かりはない。いたずら防止なのか、通路と棺の間には薄い布が下がっていて、その布のライトの光がうつって、その空間自体がうすぼんやり青白くなっていたそうです。

 さすが看護師の卵が演じているだけあって、うっすら開いた唇の加減とかメイクとか、ぴくりとも動かない表情がなかなか死人らしかったって関心してましたね。棺も授業用の本物だったそうです。

 ただでさえ狭い通路にそんなもんが置いてあるわけですからね、客は、脇をすり抜けるようにして通るしかないです。それで、びびっている彼氏を従えて、彼女はが先に脇を抜けて行ったんだそうです。じーっくり、呼吸する様を見てやれないかと観察しながらね。棺の頭を過ぎれば、もう、次の角です。角で彼女が振り返った途端。「ぎゃっ!」て。連れの男が悲鳴を上げて突っ走って体当たりしてそのまま突き飛ばしまくられて、そのまま通路駆け抜けて出口まで一気。

 お化け屋敷からそんな勢いで出てきた先は、女の園で。一様に鷹揚に笑われて、彼氏がキレちゃって、受付に抗議したんだと。心臓に悪すぎる! て。

 その話によれば、棺の横を通り過ぎようとしたところ、冷たい手に足首を捕まれたって言うんですね。棺は腰の高さにあったんだから、下に人が潜んでいたに決まってるわけ。それを大騒ぎで抗議してるんじゃ、百年の恋も冷めるよねえ。

 ぶっちゃけた話、その直後に二人は別れたそうですけど。

 笑いながら応対していた受付嬢が、ふいに、笑顔のまま固まって、呆れて見てた彼女は、その視線の方向を見てみた。

 そこには、ごく普通の、看護師の卵らしい女の人がいた。なんの騒ぎ? て感じで、受付の方に向かってきて。

「どうしたの?」と。

「お化けちゃん、出てたの?」

「うん、トイレ。戻るけど、大丈夫?」

「ね、代わりに誰か、入ってた?」

「ううん」

 受付の女の子は笑顔のまま、どんどん青ざめてったって話で。

 つまり、本当に、棺の下には人が潜んでて足首をつかむ役をしていたんだけど、彼氏がつかまれた時には担当者はトイレに行っていていなかったと。じゃあ、あれは誰だったんだ? ということで。

 話を聞いて棺の下を確認したけど、誰もいなかったそうです。中に控えていた全員がそんなことをしていなくて。あげく、棺の中の女性が、証言したんだそうですよ。

「お化けちゃんがトイレに行くって言っていなくなってから少ししたら、急に下から冷えてきて。男の人が悲鳴を上げていなくなった後、それが薄らいだ」

 て。

 まあ、感じとしては、原因はそのお化け屋敷じゃなく、男の方にありそうだよねえ。

 まあ、価値観の相違は分かれる原因の一番の理由だそうだから、分かれて正解だったんじゃないですかね。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。

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