隠されていた事件がありました。
冬季は装束を確認するというので、先に羽生と資料を見させてもらった。
総死者数三十一人。
壮絶だ。
「津山殺し並みですね」
「同じじゃないのかな。確か、三十人殺しって言うし。本人入れれば三十一人」
大正時代の殺人事件で、身内を含む同じ村の者たち惨殺した事件だ。犠牲者には子供や妊婦もおり、犯人は自殺している。長らく最多犠牲者数の殺人事件だと言われていたのだが、同規模の事件が隠されていたということだ。
羽生と二人、ぱらぱらとみているうちに装束を確認した冬季が合流する。
「あの装束って、神職さんの?」
「そうです。まあたしかに、昨日は不審者扱いされましたからね、あれ着てれば、最初から関係者だってわかってもらえるかもしれません」
確かに、無駄に相手に威嚇されていた。それを見ていて、神宮が指示して来たのだろう。白の上下は、亡くなった彼らの大半が着ていたものと同じようだ。神宮も同じだった。
神主の袴は階級ごとに色が違うと聞いたことがあるが、そもそも彼らの神社で神主の資格を持つ親族は冬季だけらしいので、そこではそういうものなのだろう。本職の神主さんも敷地内に住んでいるという話だった。
「もし避難用のシューターで逃げるはめになったら邪魔ですけど。まあ、なんとかなるでしょう」
「ちなみに、スカートタイプ?」
「分かれてます。装束によってはスカート型の時もありますけどね。今回のは馬乗り型です」
シューターでも全部めくれることはないらしい。
資料に戻る。
写真は、生前の写真と、現場写真だった。
カメラが普及し始めた頃だったのだろう。フィルムから現像された写真が貼られている。かろうじてカラーらしく、白黒ではないがぼんやりと色がついている感じだ。火事現場は、ほぼ黒い。崩れ落ちた家の部材の下に、複数の黒い遺体らしきものが写っていた。
先に手書き資料をぱらぱらとめくっていた冬季が、解説をしてくれる。一通りは聞いたことがあるそうで、だいたい思い出したらしい。
今回の怨霊が死んだのは、五十一年前のことだという。名前は神谷冬光。事件を起こしたのは七年祭の前夜で、七縛りの寿命である六十三歳だったのだという。
昴の先祖でもある冬五郎の、妻、冬野の愛人。その子供が死んだのは戦後間もない八十年ほど前のこと。冬光は結婚しておらず、その子が唯一の子であったようだ。その子は七縛りとして生まれたが、その年のうちに死んでしまった。悲嘆に暮れているうちに、冬光は自身の洞に悪霊を入れてしまう。冬海・冬子の双子姉妹のうち、当時の神宮だった双子の妹の方が悪霊を追い出したが、冬光は神宮になれない七縛りとなってしまった。双子の妹の次に愛人の冬野、その次に双子の姉、と、冬光の実家の者が神宮になることがなくなった。冬光の実家では、その原因が冬光だと、彼を責め続けていたようだという。
そうして、三十年もの間、疎まれ続けた冬光は、自身最後の七年祭の前夜、自分の実家と兄妹たちの家を滅ぼした。更に、愛人だった冬野と無理心中をする。
「本家が八人、兄と妹と弟の家がそれぞれ七人ずつ。あとは無理心中で二人。合わせて三十一人の死者です」
手口は周到だった。家の構造は、兄・妹・弟一家、いずれも同じだった。一階は雨戸を開けられないように仕掛け、裏口も中からは出られないようにし、玄関も同様にした。本家も構造は違うが、一階は同様に封じている。冬光は前日に、保管されていた藁を干したいといって、馬屋から持ち出していた。神社に隣接する三軒に、夜露を避けるためだと、軒下に広げていたという。妹の家には、もともと藁で細工物をしていたために藁が積んであったらしい。その藁に油を撒きながら、四軒に次々と火をつけた。
その混乱の中、火を消そうと駆け付けてきた冬五郎の家の者たちの中から冬野をみつけて、当時冬光が住んでいた馬屋に連れ込んで刺し殺し、火をつけてから自身も首を切り裂いて死んだ。
当時は、難燃性の素材などは普及していなかった。全員が逃げることもできずに屋内で焼死。彼らが火にまかれている内に、冬光・冬野も死んだようだった。
「順番はこれじゃわからないですね。双子のおばあちゃんたちみたいに、まとめて一家ごとに相手するのがいいのかなあ」
冬季は独り言のように言う。
「お祭りの前日だったから、みんな早く寝ていたのかしらね。犯行は二時だから、準備で早起きする人だってまだ起きてないし。神社のすぐ横で、周りの集落からは離れているし、発見も遅れたのね」
村の地図や現場周辺図もついていた。
「四軒のうち三軒は、今の本家の位置に建ってたんですね。当時はあちらが総本家だった。神谷冬五郎の系統が少し離れて、冬光の妹が嫁に行っていて焼かれた家の近くに住んでいたようですね。どうも、妊婦がたくさんいて、そちらの安全確保が優先されて人手が出せなかったみたいです」
その年に、冬季の母や田中の母、後に怨霊に憑かれた冬治などが生まれているのだという。ついでに、地下で呪術の真っ最中である冬尚もその年に生まれたが、奈々谷津は当時別集落にいた。
「消火らしい消火もできず、ほぼ燃え尽きるのを待った感じですね。神社への延焼を避けるために人手を割いて。おかげで、神社の方は馬屋と垣根の被害だけで済んだ。消防車も来たけど、神社で行き止まりになる一本道です。外から来て一番手前の妹の家の火事現場で消防車が対処していて、それより奥は人力で消すしかなかった。神社とその居住区は水路が流れているので、水は豊富だったでしょうけど、油撒いてますし、駆け付けたときにはもう人力じゃどうにもならなかったんでしょう。結局、どの家も誰も助からなかった」
「水路は神社が上流?」
羽生が興味深そうに尋ねる。
「そうです、崖からの清水と神社の下から湧いてきている水ですね、二本に分けて流しています。神殿の下と、神殿と拝殿の間。神殿の下の水路が居住区で飲み水含む生活用水になっています。水路掃除って子供の夏の仕事なんですよ。母屋の子供は神殿下を通る方を遊びながら掃除するんです。居住区の方は神社の垣根のすぐわきに馬屋番の家があるんですけど、その下を通って水を取ってます。多分、取水工事の後に馬屋番の家を建てたんでしょうね。取水口って言っても人がぎりぎり入れるくらい大きいんですよね、石組みで。まあ、落ち葉とか入らないようにネットが張ってあるのでそっちまでは掃除しませんけど、神社脇から敷地内の水路ってなると五十メートルくらいあるんですよ。幅は二メートルくらい。深さは五、六十センチくらいしかなくて、多い時でも一メートルもないくらい。雨が降ってなければ夏中掃除してましたねえ」
「天然プールね。いいわね」
「泳ぐほど深くはないですけど、掃除と称して遊ぶにはちょうど良かったですよ。水温がすごい低いので、神社から離れた方が人気でしたね、ほどよく冷たくて。神社に近い方はスイカ冷やしたりね。神殿と拝殿の間の水路は関係者の住宅や関連会社の方で使ってますが、水屋は神殿下の方を引いてますね、母屋側の反対側にも取水口が同様にあるんです。関係者住宅は二本の水路の間にある感じですね。昔も同じでしょう、神殿と拝殿の間の水路は禊のために人が入りますからね。そっちは深いから、泳ぎたいときはそっちでした。深いから掃除は大人なので、大人も時々遊んでましたよ」
「いいなあ、プライベートプール」
「関係者多いので、プライベート感はないですよ。敷地内に寮も社宅もあるから、百人くらい住んでると思いますよ。母屋側は十人もいないですけどね。食堂と大風呂は母屋側にあります。各自にもありますけどね」
「それってもはや家って言わんだろう」
「まあ、口で言うとどっかの宗教団体の怪しい集団生活みたいですよね。食堂と大風呂は宣伝はしてませんけど有料で一般の人も使えるので、近くの公園でキャンプする人とかが来ますよ。風呂は鉱泉ってことでいろいろ効能ありますよ。なんせ神社を通ってきた水ですから、効能にあげてない効果もあるので、社務所なんかでは、いろいろくっつけてる人には寄っていけと声かけてるみたいです。沸かし湯ですけどね」
なんともいい環境なのに、それでも家を出ざるを得ないとは。家のなかではいろんなことがあるのだろう。
「まあ、話を戻しますけども。神社脇の関係者住宅の人たちと、冬五郎の家の人たちが神社と自分らの家を守って、妹一家の家の方は集落の方から来た人たちと消防車で消火したようですね」
冬季は、一通り読み終えて名前のメモづくりに取り掛かった。ほぼぱらぱらめくっただけなのだが、速読ができるのだろう。
三十一人分の家族構成と年齢、旧漢字や旧かなの者もいるようだが、それを正確にメモしていく。旧かなは、正確には少し発音が違うのだという。漢字名のふりがなは、捜査資料の方から拾っていた。
赤ん坊から年寄りまで。ひどいものだ。
「三十一人て、火葬場だって大変だったろうな、おまけに夏だし」
「当時は土葬ですね。冬音さんの事件まではそうだったって聞いてます。十年くらい前に土葬のエリアはまとめちゃったそうですよ。俺があの家出たあとなんでよく知りませんけど、骨が残ってなければ土とか石とかを替わりにして埋葬しなおしたそうです。古いエリアで赤子くらいの丸太が出て来たとか、人型の焼き物に名前が書かれて焼かれたのが出て来たとか、なんかの呪いの疑いがあるものはまとめて焼いたって言ってたかな。家の者がやったとは限らないんですよね、部外者も入れますからね、墓地とか森とか。すぐわきの鎮守の森は点検すると藁人形が結構みつかります。まあ、そんな感じで、三家と呼ばれる神社関係の神谷宮内外宮がまず改葬をやって、そのあとほかの集落の家も墓をまとめたって話でした」
冬季の作業が終わるころには、昴と羽生も大雑把には資料を眺め終わっていた。改めて、冬季が説明をしてくれる。
「うちの神社は、もともとはお洞さまと呼ばれる御霊を祀るための神社でした。千年ほど前に暴れた怨霊らしいですね。どこの誰だか俺は知りません。奥に置かれている記録には残っているそうで、神宮経験者のみ知っているらしいです。で、まあ神仏分離令とか、国家神道の流れで名も知れない御霊神社でいることができなくなって、普通に古事記や日本書紀に出てくる神様も祀るようになりました。社家の世襲もダメになったし、神宮様なんて、生き神様ですからね。戦時中に生き神様がうちにいるなんて言ったら大事です。幸い、うちは一族の七縛りが神宮になるってだけで、子供から親に引き継ぐとかもある。世襲の役じゃないし、男女も関係なかったので。一族の誰かが巫女として仕えてるんだって体裁で神宮様も守ってこれたんですね。お洞さまも、体裁で多少不敬があっても気にしないでくれたみたいですよ、うちの者には、一応」
一応という言い方が、少し怪しかった。深く追求しない方がよさそうだ。
「第二次大戦のころは奈々谷津冬十郎が神宮でした。まだ二十代。国の方に信奉者がいたようで、戦後は冬五郎と二人、兄弟で村を盛り上げていったんだって聞いています。兄の冬五郎は内から、冬十郎は神宮当時の人脈を生かして外からね。冬光の事件の頃には政財界にがっちり入り込んでいたようで、事件は村の火事というだけで報道を押さえたようです。ほかの大きなニュースを入れさせて、詳細が出る前に報道は鎮火させたようですよ。現場は村の奥だし、村の人間も外部の人間を入れないように徹底して、外にはほぼ知られずに済んだようですね。昨日送った冬五郎・冬十郎兄弟と憑依された奈々谷津冬春の時も、殺されたのは年寄りだけだったし犯人はすぐ死んでいるので、ほぼ知られていないと聞いています。政財界でひそかに大騒ぎだったらしいですが、まあ一部の動きですね。世間的には、冬音さんと冬治さんの事件だけが知られてる。興味を持ったジャーナリストはいたようですけど、ただの身内のごたごたによる大量殺人ネタと、自身と身内の安全を秤にかけさせたようで、手を引いたそうです」
まあ確かに、陰謀とかが隠されているわけではないので、天秤に載せても軽かったのだろう。政財界とのつながりも、暴くほどのものはなかったのか。それとも危なすぎたのか。
「どこまでやれるかわかりませんが、なんとかしようとは思います。まあそもそも、冬尚さんがどこまで引っ張ってくるかわからないし。ちゃんとコントロールできるのかも怪しいですけど」
「あっちは今どうなってるのかしら? 塔自体が結界のようになっているからここからはわからないけれど、おとといと昨日ではずいぶん差があったわ。今日も更に悪化しているはずよね?」
羽生は、昨日、自分は明日は高見の見物と言っていたが、本当に夜までいてくれるのだそうだ。
「そうですね。なんというか、最初は近場のが寄ってくる程度だったのに、勢いがついて、吸い込まれるようになってきた感じですかね」
冬季は、悩まし気に腕を組んでいる。
「ルートもご近所とか地理的なものだけじゃなくて、あちら側へのルートが少し開いてるみたいです。その辺でさまよっていたものももちろん混じってるわけですけど、あちら側のものまで強制的に引っ張ってきちゃってる。実際のところ、あれだけ事件の被害者がそろってるって、おかしいんですよ。全部が冬光の怨霊にとりこまれていたとは思えないんです。相川さんは完全に最初から全くつながってなかったようですけど、あれだけの人数いたら、全員さまよってるとかないし。全員とりこまれていることもない。冬尚さんの術で無理やり引っ張り寄せられた結果、怨霊に引っ張られてまとまってるんだと思うんです。亡くなった時に憑りつかれていた人は、死んだときからとりこまれてたんじゃないかとは思いますけど」
怨霊に憑依されていた冬音たちの抵抗は大きかった。最初の方で殺された年寄りたちは冬季に対抗していたが、おそらくはお偉いさんだったから若造が気に入らなかったのだろう。
「最初のうちは、つむじ風みたいなものだったんですよ、近隣のふらふらしてるのが寄ってきてるかなって。それが竜巻になってあっち側まで繋がって引っ張りだし始めたというか。あの塔自体が入り口はあっても出口がないので、集めたものはみんなあの中にいるわけです。弱いのは多分、地下一階で消えてしまっていると思いますし、一応狙って引っ張ってきてるんだと思いたいですけどね。それでも巻き添え食って閉じ込められたのが相当いるので・・・・・・何千いるのかな、万超えたかも。なんにせよ、多すぎるので、昨日は夕方までにそれまで集めた関係ないのは圧縮して地下にまとめてたんじゃないかと思います。今日はもう一階もぎゅうぎゅうでしょうね。可能性が高いのをエレベータールートに流してるみたいで。まあ、器用ですよね。そもそも今回の集め方からして大胆というか、はっきり言って無茶苦茶ですけど。まあ、目的は達成してるんだから誉めるしかないんでしょうけど。でもあっちから引っ張ってくるのって、寝た子を起こすもいいとこだし、必要あったと思えないし。自分では絶対やらない方法ですよ。こんな方法しかないならやらない選択しますよ、普通は」
まあ、実際、集めるだけ集めて、多少の選別はしてもあとは冬季に押し付けているのだ。無茶をするなら己だけで完結させろというのが冬季の意見だろう。そう昴が言うと、冬季はちょっと首を傾げた。
「まあ、確かに断りなく他人巻き込む計画は立てないと思いますけどね、自分は。でも、俺も今回は結局、神宮様に押し付けてるんで」
エレベーターのある方角にある三角部屋の角から穴までの距離は、ごちゃまぜになっているエレベーターの中身を全部流し込まないための安全な距離なのだそうだ。冬季はエレベーターと角の間で選別し、塊にして部屋に引っ張り込んでいたのだそうだ。そして、あれらを自力でなんとかするよりは、神社までの道を開く方が楽だったのだという。
「まあ、あれも無茶苦茶な技ですけどね。繋ぐ先が神社だったからなんとかできましたけど、生モノは通せません、俺には無理。空間繋ぐこと自体が無謀。俺は一応洞持ちなので、洞はお洞さまへの繋がりがあるんです。あの壁に貼ったお札はその洞を持ち出したようなものなんですよ。それに、巻き添え食ってちょっといろんな神様の一部が入ってきてたので、手伝ってもらいました。いうなれば、関西や九州や東北の人もいればアメリカ人もいればイタリア人もロシア人もいて、助けを求めるのにそれぞれの方言や言語で説明しなきゃいけなかったみたいな感じで、神様によって通じる言語が違ったり説明の仕方を変えたりしてあんな感じになったんですけど。今日はどんな神様が巻き添え食ってるかわからないし、行き当たりばったりですよ」
なるほど。それで祝詞だったり真言だったりよくわからない音だったりなんだりいろいろだったのか。わかったからといって、マネできる人がほかにいるとも思えないのだが。
「八十年くらい前の怨霊の子供さん、毒殺疑惑があったって記載があるけれど、実際はどういわれていたの?」
羽生が、冬光と冬野の、生まれた年に死んでしまった子供について訊ねる。
「子供は、冬生といって、男の子だったようですね。二年前まで相談役だった昌子ばあちゃんが後に怨霊に憑かれた冬春さんを生んだのと同じ年に生まれた子だそうです。その、奈々谷津昌子ばあちゃんが、まあ、うちの生き字引きだったわけです。冬十郎の奥さんですね。事件当時、奈々谷津は端っこのほうの集落に住んでいたんで詳しくないとは言ってたんですけどね。当時、双子のおばあちゃんの妹の方の子供が同じ年でいたらしくて、赤ん坊が二人いたから、村のお母さん方が母乳を分けに行ってたらしいです。昌子ばあちゃんも分けてやったとか言ってましたよ。交代制の乳母ですね。双子のおばあちゃんの子供も、字は違うけど同じ名前だったんですよね、「お」は雄々しいの方でしたが、先々代の神宮です。冬光の子が急に死んだのは本当らしいですが、戦後間もないころのことですから、普通に赤ん坊のうちに急に死ぬことは、今よりもっと多かったわけです。昔は子供はすぐ死んだ、って、よく言ってましたから。昌子ばあちゃんが言うには、冬光がずっと、冬生に話しかけながら暮らしていたと。神社の端に厩舎があるんですよ、馬屋ですね。今も当時と同じように、神社とみんなが住んでいるエリアの間にあります。冬光はそこで馬の世話をして暮らしていたそうです。心配して見に行った誰も赤ん坊の幽霊は見ていないとの話でしたけどね。母親の冬野はそこに出入りしていたそうですけど、その子が死んで七年後に神宮になって、奥から出てきてからは冬光とは縁を切っていたようです」
「結局、死因はわからないってことね?」
「そうですね。父親が違っても、神谷の本家で育てていたそうですよ。ちなみに、冬野は十人以上生んでいるらしいです。七縛りじゃない者は全員小さいうちに死んでいて、七縛りのうち冬生だけが育たずに死んでいます。手のかけ方に、差はあったかもしれません」
毒殺の噂はそこから出ているということか。今となっては、本当にわからないのだろう。
「ユキ君、昨日のあの神社への通り道がその、ユキ君の中の神様が入る場所だって言ったよね?」
「そうです。洞と言われますが」
「その洞を、お洞さま以外の者が通過して大丈夫なの?」
「大丈夫、とは?」
「ほら、お洞さま以外のモノが入ると、お洞さまの器になれないとって聞いた気がするんだけど」
「ああ、その点は大丈夫じゃないですよ。冬光や冬治なんかと同じで、俺はこれから、神宮になれない七縛りです」
「え?」
「え?」
羽生と二人、ハモってしまった。
なんか当然のように言っているが、かなり重大なことだと思うのだが、お家にとっては。
「ほかに手段がなかったので。まあ、俺は構いませんよ。七年あそこに閉じ込められることがなくなったし。地元にいないから扱いが変わるのはどうでもいいし」
「えーと、人生、大きく変わっちゃった?」
「そんなに悪くないですよ。悪霊が入って暴れるわけでなく、解放されたと思えば」
気にしている様子は実際ないのだが。そんなに変わってそんなに淡々としていられるものなのだろうか。
「・・・・・・視えるものが、変わったのよね、私から視えるものが」
羽生が呟く。昴も、冬季も注視する。
「最初、神谷さんの顔って見えなかったのよ。私は人の、いわゆるオーラというものが視えるのだけれど。いつも視てるわけじゃないわ、視ようと思えば視える。けど、意識しなくても視えちゃう相手もいるのね。パワーが強すぎる人。神谷さんは、白銀に光ってて顔が視えなかった。色もパワーもとんでもなかったわ。それが、昨夜の、神社に霊を通した後から顔が視えるようになったの。見慣れたか、神谷さんが力を使いすぎてパワーが落ちたせいだと思っていたけど、違ったみたい。さっきの冬太さんも光って顔が視えなかった。色合いは緑色だったけれど。真里亜ちゃんも時々視えないことがある。あの子は藍色。神社の、神宮様は、それこそあの空間みっちりってくらい光り輝いていたわ。まぶしすぎて私が視る力を落として、なんとかあの状況を見届けたけれど。あの色合いは神谷さんの最初の色と同じだった。今は、なんか、透明なのよね」
冬季が、首を傾げる。
「顔は視えるわ。うっすら白銀の色も残っているけれど、透明に光ってるっていうか。光自体は強くなっているのにちゃんと顔が視えるのよ。変化の途中なのかもしれないけれど、こんなのは初めて視るわ」
「なんにせよ、変わったってことかあ」
昴には全く視えない。冬季は、しばらく、羽生も言ったことをかみしめているような様子だった。
「洞自体は、何が入っても残るんです。それがあると、祭りの時に引っ張られるんですよ、神社にいなくても強制的に。だから多分、今日も昨日と同じ手段は使えると思います。昨日も、水路のラインで繋がってました。水路は、神殿と拝殿の間にあるんです。神宮は、その中から、祭り以外は出られません。一種の結界です。だから神宮様に会うには、原則その水路を通って全身清めないといけないんですけどね」
関係ないけど、と、冬季が追加で説明する。
「去年、二年前の事件の時に三人が引っ張ってこられたってことを確認するために、警察と検察で実証実験をやったんです。ひかりさんと、俺と、冬一さんで。ひかりさんは自分の家で、俺は姉のマンション管轄の警察署の中で、冬一さんが冬子さんが消えた防波堤で。ちゃんと時間どおりに跳ばされたんですけどね。俺も跳ばされたのは初めてでしたけど、来るな、て感じはありました。洞が繋がろうとしてるって感じ。多分それで、冬子さんは慌ててテトラポットに移動したんですよね。それくらいの時間はありました。で、急に、一瞬で自分の洞に閉じ込められる感覚があって、そこから放り出される感じで神社の水路の、水中に放出されたんですよ。事件現場になったので警察とかいろんな道具持って入りましたけど、そういうときは最低限ってことで、手を水路で洗ってもらって、ちょっとだけ頭に水かけるとかして、道具にもビニールシートかけて上にちょろっと水かける。ご利益は一切受けられませんけど入るだけならできるので。でも、ごく稀に、壁にあたって一歩も入れない人がいます。数年に一人くらいいるらしいです。お洞さまが拒否する人。二年前の事件の時も、警察の人が一人だけ入れなく一騒ぎだったそうですよ」
理由は全くわかっていないのだという。もしかしたら、お洞さまが人間だったころに因縁がある家系なのかもしれないが、入れなかった人間の横のつながりはみつかっていない。何せ、お洞さまは千年前の人物らしい。千年前の因縁など、拒絶された本人もわからないだろう。
「あ、それじゃあさ」
昴は、急に思いついて言う。
「例の、冬沙さん? その人に神宮になれない七縛りになったって教えてあげたら、しつこくされることないんじゃないの?」
「え?」
冬季は気づいていなかったらしい。
「だって、冬太とか、親が怨霊に憑かれただけでダメなんでしょ?」
「冬太さんは神宮になれますよ。二代開くとダメと言われてますから、冬太さんがなれないとお子さんはなれませんが。冬沙さんは本家で立場の上がりそうな人が好みみたいです。冬太さんは婿に出たし、冬尚さんは奈々谷津なので」
「ユキ君はこれから上がりそうなの? 神宮になれなくても」
ちょっと、考える様子を見せる。頭でいろいろつながったのか、ぽんと手を叩いた。
「そうですね、神宮にならないと家長にはなれませんし、外に婿にも行けるようになります。試してみますね」
よっぽど嫌なようだ。
昼食後、仮眠を取ると言って、冬季は部屋に引っ込んでしまった。昼食も、事前に断っていたようで、昴の半分程度の量を用意されていた。メイドのおばちゃんが別皿を勧めていたが、断っていた。デザートも別腹ではないらしい。札も作ったし、ずいぶんと話をしていたから、もう少し食べてもいいと思うのだが。
おばちゃんが言うには、四時ごろにアフタヌーンティーを用意してくれるという。
羽生が、長い夜になるかもしれないから、寝られるなら寝ておいた方がいいと勧めてきたので、昴も部屋に戻る。しかし、昼寝習慣もなく、毎日きちんと眠っているので昼寝は無理だ。資料は冬季が保管すると持っていってしまったし、おとなしく、部屋でテレビを観て時間をつぶした。三時頃に新メンバーが来るというので二時半頃に休憩室に戻る。
そこには、羽生と、ゴスロリひかり社長、そして岩田がいた。
「こんにちはー」
岩田が、へにゃ、とした笑顔であいさつをしてくる。なんか和む。
岩田の前にはパソコンがある。どうやら、今日の仕事の説明らしい。
なんでも、すでにAIで二日分の百物語は文章化されているという。そのチェックが今日の岩田の仕事だ。
「じゃあ、あーとかうーとかそんなのはカットしていいんですね」
「ええ。文章で読むとうざいとこはカットしていただきたいのですが、さほどいじらなくて大丈夫です。あくまで、動画や音声チェックが嫌だという人用ですから。新企画ですし、いろいろな人が絡むものですから。気になるところは直さずにコメントを入れておいてください」
「了解しました」
「仕事は六時から九時までです。休憩は適宜とってください。終わらなければ終わらないでいいですよ」
「あはは、あの怖いとこ行かないですむならなんでもやりますよー」
怖いとこ。またそこに行かねばならない自分はどうなる。
「森山さん、頑張ってね。ごめんなさいね、途中離脱で」
「いえいえ。俺はもうユキ君頼りです。ただの頭数です。恐怖と戦いながら語ります」
ゴスロリは何も言わない。メイドのおばちゃんがコーヒーを入れてくれた。
「早かったね、岩田さん」
「おいしいお酒いただいたしねー。今日来る人にもお詫び言いたいし。田中少年はこないように言ったよ。予備校って本当は夜九時までなんだって。昼にちょっと通話したけど、昨夜、お父さんとお話できたって言ってた。早めにお夕飯会しようねってことになってる」
「夕飯会ね。岩田さん飲むでしょ? 俺も飲むけど」
「羽生さんどうする? そんなにいいとこは行けないと思うけど」
「どこでも構いません、参加します。日程調整は早めにお願いします、ねじ込みますので。お酒も飲みます」
「おや食い気味」
岩田が嬉しそうに反応する。
「仲間ですから」
デレモードの羽生が言う。ひかりは、静かに席を立った。
「では、私は別の仕事に戻ります。また戻ってきますが、新メンバーへの説明などはお願いしますね、森山さん」
「あ、はい」
いつの間にか繋ぎ役に任命されていたらしい。本日も見事なゴスロリ社長は、エレベーターに吸い込まれて行った。多忙らしい。
三人が店の相談をしていると、エレベーターが上がってくる。
扉が開くと、三人の人物が吐き出されて来た。
津山事件は大正時代から長らく最多被害者数の殺人事件だったそうですが、今は京アニ事件が最多だそうです。
火事は怖いです。みなさま、火の始末やモバイルバッテリーの管理など、十分に気を付けてください。昔、アロマキャンドルを可燃性の衣装ケースの上で使って火事になった記事を読んだことがあります。
火の回りに可燃物を置かないことを徹底してください。
ちなみに、身内が模様替えで鏡を動かして一時カバーを外したままにしておいたら、太陽の光が反射してソファーの一部が溶けました。鏡やペットボトルなども注意です!
話が長くなっております。二日目の後などは大幅カットして半分くらいにしたのですが、三日目始めはほぼカットなしでお送りしております(削れ~)。設定作り込み過ぎると長くなる病。ごめんなさい、次も長いままです。




