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第7話

第7話

湖畔に佇む、陽光に輝く美しいログハウス。

朝から小鳥のさえずりが響く森の中に、轟音が鳴り響いた。

スルルル……

ドドドドドド。

「ん……」

俺が力を込めて引っ張っているのは、発電機のスターターハンドルだ。

オイルを入れて何度も引いているのだが、どうもうまく動いてくれない。

そうして数分間、発電機と格闘していると……。

ドドドドドドドド。

「やった!」

ようやく発電機を動かすことができた。

「これでようやく……」

家の中に入り、冷蔵庫を開けて手を突っ込んでみる。

冷たい冷気がじわりと流れ出てきた。

「よし!」

冷蔵庫の中に、コンビ∞から取り出したビール缶を全て詰め込んだ。

するとなんと、一段が全て埋まった。

「助かった……」

俺が冷蔵庫を買った理由は、まさにビールの存在だ。

人生に欠かせないものといえば、やはり酒。

涼しい夕暮れ時、湖を眺めながら椅子に腰掛け、キンと冷えたビールを一口。これぞ何物にも代えがたい至福のひとときというものだ。

「冷たいビールで出てきてくれたらよかったのにな……」

残念なことに、コンビ∞でビールを購入すると、いつもぬるい状態で出てくる。

会社の同僚の中には、冷たいビールよりぬるいビールを好む者もいたが、俺はぬるいビールでは「喉越しすっきりとした爽快感」が得られないため、あまり好まない。

「ビールは冷えてなきゃな!」

ガシャン!

残るは、冷蔵庫の中のビールがキンキンに冷えるのを待つばかり。

今日の豪華な夜のために、まだ準備すべきことは残っている。

外に出て、コンビ∞でバーベキューグリルと炭を購入した。

炭をグリルの中に放り込み、トーチとブタンガスも購入した。

ヒュウウウウ……

ゴオッ。

トーチをブタンガスに装着し、引き金を引くと、勢いよく炎が燃え上がった。

そして中の炭に火を近づけると、煙が出て徐々に赤く染まっていく。

その後、蓋を閉めてトーチを止め、家の裏側へ歩いていった。

「さて、始めるか……」

家の裏に積み上げられていたのは、イノシシの死体だ。

この土地を見つける前に現れたイノシシ以外にもいるかと思い、ボウガンを持って周辺を回ってみた。

案の定、以前捕らえた一頭だけではなかった。

今日半日かけて捕獲したイノシシは、合計5頭。

これを解体して得た肉は、冷蔵庫に入れておくつもりだ。

「これを全部短期間で食べきれるかは分からないが……」

どうしても食べきれなければ、他の誰かに分け与えればいいだけのこと。

いかに獣臭い肉だとしても、酒や胡椒で最大限に臭みを消して食べることもできるし、チャーハンや煮込み料理のような、できるだけ味の濃いものにして食べれば、それなりに食べられるだろう。

それでもどうしても無理なら、コンビ∞に入れて売ればいい。

コンビ∞から取り出した解体用のナイフを手に取り、まずは腹を裂いた。

今までやってきたことも初めてのことばかりだったが、なんとかこなすことができた。

しかし、食肉解体はまるで次元が違った。

内臓を破裂させないように腹を割く作業から、皮を剥ぎ、部位ごとに分ける作業まで。

相当な時間と労力が消費された。

「はぁ……」

イノシシの体もかなり大きかったため、一頭を解体するのに2時間ほどの時間がかかった。

「これをあと4回もやらなきゃならないのかな……」

コンビ∞に入れれば、部位別に解体されて入ってくるのではないかと思い試してみたが、コンビ∞に表示された文字は……。

【イノシシ(死体)】

「死体」という言葉はかなりぞっとするが、コンビ∞には腐敗時間がないようだから、残りは全てコンビ∞にしまい、最初に解体した一頭だけを部位別に分けて大きなステンレスボウルに入れ、グリルそばに持ってきた。

これで焼くだけの段階だ。

時間を見ると、ちょうど日が沈む頃合いだった。

グリルの蓋を開けると、煙が龍が昇るかのように上へと立ち昇った。

一部だけ赤かった炭は、いつの間にか全体が赤く染まっており、俺はグリルに切った肉を並べた。

ジュウウウウウ。

肉の焼ける音が響き渡る。

淡白な肉の香りが四方に広がり、見るだけでも生唾を飲み込むような姿に変わっていく。

「肉を盛る皿が……」

立って食べるテーブルと肉を盛る皿をコンビ∞で素早く購入し、傍らに置き、焼けた肉を皿に乗せた。

ステーキはフォークとナイフで切って食べるのが良いとは言え、養殖豚でもないこんなイノシシには寄生虫がいる可能性があるため、必ずウェルダンで焼いて食べなければならない。

そしてウェルダンならナイフよりやはりハサミだ。

ハサミで肉を切り、箸でつまんで食べた。

パサつきはあるが、赤身肉の淡白な味が口いっぱいに広がる。

次第に深まる夕焼けが映る湖の風景と、炭火の香り、噛むたびに溢れ出す肉汁と、グリルに乗せた肉が焼けていく音。

全てが一つに調和し、俺の五感を満たしていく。

「獣臭がしないな?」

イノシシだから獣臭は覚悟していたのに、全く感じられなかった。

俺の考えでは、臭みがないのではなく、この心地よい調和全てが俺の五感を満たしていて、感じ取れないだけなのだろう。

「ああ、ビール、ビールだ!」

家の中に入り、冷蔵庫から素早くビールを取り出した。

プシュッ。

キンキンに冷えたビールをごくごくと飲んだ。

刺激的な炭酸とともに、麦の濃厚な味と香りが肉の味を洗い流してくれる。

「くぅ~!やっぱりバーベキューにはビールだな!」

立て続けに肉を二切れつまんで食べ、ビールを一口飲むのを繰り返す。

一缶、また一缶と開けて飲むうちに、次第に酔いが回ってきた。

ガサガサッ。

突然聞こえた音に、振り返って音のする方向を見つめた。

匂いを嗅ぎつけて何かが来たのだろうか、茂みが揺れている。

コンビ∞からボウガンを取り出し、茂みが動く方へと狙いを定めた。

わずかな間、息を潜めてそいつが出てくるのを待っていると、何かが外へと足を踏み出した。

クン、クン。

「犬……?」

小さな子犬が一匹だった。

かなり飢えているのか、ひどく痩せた子犬は、足を怪我したのか前足を一本引きずりながら俺を見つめている。

周囲に他の気配が見当たらないところを見ると、足を怪我して捨てられたか、イノシシのような奴らに襲われて親が死んだかのどちらかだろう。

クルル……。

一応犬らしく警戒しているようにも見えるが、やがて食べられずに力尽きたのか、そいつはふにゃりと倒れてしまった。

俺は皿に焼いた肉を数切れ持って歩み寄り、その場に置いた。

すると、そいつは肉の匂いをクンクンと嗅ぎ、そのままガツガツと食べ始めた。

これでは喉に詰まらせそうだったので、水を汲んできて隣に置いてやった。

水もペロペロと懸命に飲むそいつ。

程なくして、お腹がパンパンになったそいつは、尻尾を振りながら俺に寄ってきて、頭を擦り付けてきた。

死にかけていたところに食べ物を与えられたからか、警戒する様子は全く見られない。

『俺が飼うか……』

ログハウスはあるものの、一人暮らしだと寂しさが全くないわけではない。

家族としてペットが一匹いれば、寂しさも紛れるだろうし。

「俺と一緒に暮らすか?」

そいつを抱き上げて尋ねると、理解したかのように「ワン!」と一声吠えた。

舌を出してハァハァと息をしながら、嬉しそうに笑うそいつ。

「お前の名前は今日からハルだ、ハル」

とりあえず地面に降ろして、俺は足を触ってみた。

そいつは「足を触るな」と言わんばかりにすぐに反応し、俺の指を弱く噛んだ。

罠にでもかかったのだろうか。

血の塊が固まった足に、骨まで見えているようだ。

『とりあえず消毒薬と軟膏から塗ってみるか……』

まだ発展途上であるこの世界に、果たして動物病院というものが存在するのだろうか。

せいぜい運搬に必要な馬や牛などを治療する程度で、このような犬科の動物を治療することはないだろう。

コンビ∞で消毒薬と軟膏、包帯を購入し、傷ついた部位を消毒し、軟膏を塗った。

苦しいのかしきりに「キャンキャン」と鳴くそいつは、包帯を巻かれてから自分の傷口を見ては舐めていた。

「もう大丈夫だ」

再び尻尾を振るそいつ。

俺はそいつを抱えたまま、テーブルの上に置いてあった残りのビールを持って、湖畔の椅子へと歩いて座った。

座るやいなや、かすかに残っていた光さえも消え去り、空には闇が広がった。

空を明るく照らす無数の星々。

それを眺めながら、俺は膝に座らせた犬を撫でた。

そいつは眠いのか、目を閉じた。

「これぞまさに、仙人の遊びってやつだな~」

いつまでも今日のような日が続いてほしい。

やっぱり徹夜続きで金を稼ぐより、こんな森の中でのスローライフが最高だ。

ワン、ワン!

ハルが周りの人々を眺めてしきりに吠えている。

何人かの子供がハルを見て近づき、撫でまわしており、ハルもその子供たちの手つきが嫌ではないらしく、嬉しそうにハァハァと息をしている。

「この子、名前は何ていうの?」

「ハルだ」

「ハル?」

ワン!

子供が名前を呼ぶと、ハルがワンと吠えた。

そうして笑いながら子供たちが遊ぶ様子を見守っていると、一人の人物が店先に歩いてきた。

「おや?」

頭には茶色のベレー帽。

短い茶色のショートパンツとレザーベスト。

両側に編み込んだ髪を結んだ、大きなリュックを背負った少女が、俺の露店にある品々を興味深そうに眺めている。

「これ、ペティナイフですね?」

「ええ、そうです」

中央市場の品物を見ると、果物がかなり多い。

だから取り出したカードが、まさにペティナイフというわけだ。

俺はペティナイフで、露店の上に置いてあったリンゴを剥いた。

「これ、かなり品質の良いペティナイフなんですよ。果物をよく召し上がるなら、一度剥いて食べてみてください。味がまた違いますからね」

「それは知ってますよ~、でも……」

何かおかしな点でもあるのだろうか。

少女が顎を撫でながら、ペティナイフを見つめる。

「これ、誰が作ったんですか?」

「これですか?それは……」

俺も知らないな。

ただコンビ∞で購入すればすぐに届くのに、誰が作ったかなんて俺が知る由もない。

「ああ、私ったら!そんなのも商人の稼ぎ頭なのに!お金をあげなきゃ!」

少女は自分の頭をポンと叩いてから、俺を見つめた。

「あの、おじさん」

「はい?」

「ここに『ミーガンのビューティーショップ』っていう場所があったんですけど、どこにあるんですか?」

旅行者だとは思っていたが、どうやらシャンプーを買いにミーガンさんに会いに来たようだ。

『シャンプー、残ってるかな……』

たぶん今頃、シャンプーは全部売れてしまっているはずだ。

残っているのは、ミーガンさんが自分で使うために残しておいたものだけだろう。

「あそこの宿屋が見えますか?そのすぐ隣にありますよ」

「ありがとうございます~!」

少女は鼻歌を口ずさみながら歩いていく。

情報を提供したお礼に、ペティナイフの一つでも買ってくれたらよかったのだが。

子供相手に強引に売るわけにもいかない。

「お前たち。そうするとハルが噛むぞ」

ワン、ワン!

「ハルも噛むの?」

「そりゃあな。ハルも犬なんだから、当然噛むさ!」

俺の言葉に子供たちは笑いながら後ろに下がり、ハルは尻尾を振りながら子供たちの後を追った。

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