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第4話

「独占契約?」

「ええ、独占契約です」


席から立ち上がったメガンさんが、ゆっくりと俺の背後に回り、両肩に手を置いた。


「石鹸は毎日50個、シャンプーは毎日100本ずつ私に納品してください。値段は昨日お支払いした価格から…」


メガンさんは指を2本広げて見せた。


「2倍でお支払いします」

「に…2倍ですか?」

「ええ。石鹸もそうですし、シャンプーも。私も安く仕入れて安く売りたいところですが、平均相場より安く売ると、周りの商人から牽制が入るんです」

「なるほど…」

「まだ牽制が入ったことはないでしょう?」

「はい、まだです」

「それは幸いでしたね。まあ、近いうちに知られることにはなるでしょうけれど」


メガンさんはニヤリと笑って、また自分の席に戻った。


「さあ、では契約書を作成しましょうか?」

「毎日納品しないといけないんですか?」

「ええ。契約期間は基本5年。5年以降は1年ごとの自動更新で。これくらいでいかがでしょう?」

「えっと…」


契約期間が長すぎる。

それだけでなく、1日に石鹸50個とシャンプー100本を引き渡すのも、俺にとっては無理だ。

石鹸は買えば済むが、シャンプーは小分けに詰め替えなければならない。そうすると、儲けよりも腰の治療費の方が高くつきそうだ。


「契約期間はまず3ヶ月にして、毎日ではなく週に一度だけ納品させていただきます」

「え?3ヶ月では…短すぎますし…それに週に一度だなんて!一週間分の在庫が売り切れてしまったら、他のお客さんが…」

「むしろ良いことじゃないですか?需要があるのに供給がないというのは、それだけ価格がさらに上がるという意味ですから」


需要が高く供給が少なければ、価格は上がるしかない。

どんなに良い製品でも、在庫が残った瞬間に問題が生じる。

まずは一日、あるいは一週間でどれだけ売れるか確認してみて、発注量を増やしても問題ないだろう。


「それはそうですが…」


メガンさんは涙を拭うそぶりを見せた。


「私の分を別に確保しておこうとしたのに…」


一体どれだけ溜め込んで暮らそうとしているんだ、この人は。1日に50個、100個ずつなんて。


「そもそも、そんなに発注されても供給できませんよ。何しろ手作業ですから」

「考えてみればそうですね。いいでしょう。提案を受け入れます」


メガンさんが手招きすると、ハンスさんが席を立ち、羊皮紙を持ってきた。

そして淀みなく文字を書き始めた。

やはり俺には読めない文字だ。


「契約期間は3ヶ月。週の発注量は石鹸150個、シャンプー300本とすることで。これでよろしいでしょうか?」


文字が読めないので、ただ読んでいるふりをして頷いた。


「はい、それでお願いします」


メガンさんが渡してきた羽根ペンで堂々とサインし、俺は再びメガンさんに羽根ペンを返した。


「ではこれはまず私が持っていくわね~」


メガンさんはテーブルの上に置いてあった石鹸とシャンプーを両手いっぱいに抱え、部屋へと入っていった。

ハンスさんはそんなメガンさんを見て深いため息をつくと、腰のベルトにぶら下げていた革の袋を開いた。


「あれで全部いくらになるんだ?」

「石鹸が1個60ブロンで、シャンプーが90ブロンですから…持っていたものを全部足すと5,490ブロンで、2倍で買うとおっしゃいましたから、合計で10,980ブロンですね」

「あ」


硬貨を取り出そうとしていたハンスさんの指が緩み、持っていた硬貨を落とした。


***


再び始まる居住地探し。


街の西側の地図に湖があったので、走って行ってみた。

西の森に入った時から地面が湿っていたので、だいたい察してはいたが、それでも奥は違うのではないかと思って行ってみたが、やはりそうだった。


というわけで今日は街の北側へ。


「ここは大丈夫だろう」


足を踏み入れた時に地面が固かったので、大丈夫そうだ。

もちろん、地面が良くても俺の望む場所でなければ期待外れだが。


「さてと…」


俺がいる場所から少し離れたところに湖が一つ見える。


「ここはそれでも期待できそうじゃないか?」


地面も固く、湖もあることから、ここが俺が探していた理想的な居住地である可能性もある。

ゆっくりと前へ進むこと数分。


「うーん…」


入ってどれほど経っただろうか、思わぬ事態が起きた。


ブヒーッ!


荒い鼻息。

口から突き出た牙。

獰猛な目つきと、今にも襲いかかりそうな蹄のついた足を地面に打ち付けるそいつ。


「イノシシ?!」


今まで森には鳥の鳴き声しか聞こえず、獣はいないと思っていたが、どうやら俺の勘違いだったようだ。


「(クソ…武器を買っておけばよかった…)」


日本の森にもイノシシがいるのだから、こんな広い森にいると予測しておくべきだったのに。

安全への意識の低さはだから問題なのだ。


「(今からでも…)」


イノシシに勝てる武器は何があるだろうか。

ナイフや短剣のような近接戦はダメだ。

ならば遠距離武器。

しかし、これまで俺は弓を使ったことがない。

かといって銃を買おうにも。


「(塞がれてる…?)」


購入ボタンが塞がれている。

そして横には小さく数字が書かれている。


「(この数字は何だ…)」


ブヒーッ!


俺がコンビ∞を見て手を動かしているのが気に入らないのか、そいつは俺を睨みつけ、飛びかかる準備をするかのように前足の蹄で地面を掻いた。

今はこんなことを気にしている場合じゃない。

とにかく先に武器を買わなければ。


「(俺が使える武器…何を買えばいいんだ?何を…)」


キィーッ!


イノシシが俺に向かって駆けてくる。

体を投げ出してそいつの突進を避け、俺は木の後ろからひたすらコンビ∞を見ていた。

そうして慌ててリストを上にスクロールし、見つけた武器が一つ。


「(そうだ、これなら俺にも使える!)」


購入ボタンを押すや否や、俺の手に現れたのは石弓とボルト。


ブヒィッ!


俺が石弓を掴むや否や、木にぶつかってよろめいていたイノシシが我に返り、再び襲いかかってきた。


「よし…」


俺は深呼吸をして石弓を構え、突進してくるイノシシに向けて引き金を引いた。


ヒューッ!


石弓から発射されたボルトが素早く飛んでいく。

しかし、どんなに運が良くても、初めて使う石弓を一度で命中させられる者はいないだろう。


「クソッ!」


ボルトがイノシシの顔をかすめ、イノシシは血走った目で俺に向かって突進し、体を投げ出してきた。


ドンッ!


かろうじて体を投げ出してイノシシの攻撃を避けた。

イノシシは速度を緩めて止まり、向きを変えて再び俺に向かって足を鳴らす。


「これ、どうしてこうも上手くいかないんだ?!」


動かない装填レバーをあれこれと数秒間触ってみる。


ブヒィッ!


再び襲い来るイノシシに、結局装填を諦めて走り出した。

武器が使えない今、逃げるのが最善の策だ。

しかし、突進する四足動物から人間が逃れるのは難しいと悟った。


ドンッ!


「はぁ…はぁ…」


まっすぐ走っていた俺が木の陰に隠れると、そいつは木に頭を突っ込んだ。

かなり強い衝撃を受けたのか、そいつはよろめきながら頭を振っている。


チャンスは今しかない。


俺は素早く弦を引いた。

弦がそのままグッと引かれ。


「よしっ!」


俺はすぐにボルトを装填し、そいつを狙った。

残るは、よろめいているそいつを射るだけだ!


長く息を吐き、最大限に緊張を解き、そいつの頭を狙った。

震える腕。

周りに聞こえるのは、鳥と風に揺れる木の葉の音だけ。

息を呑み込み、そのまま引き金を引いた。


ヒューッ!


素早く飛んでいったボルトが、イノシシの頭のど真ん中に突き刺さる。


キュイイイッ!


悲鳴のようなうめき声を上げるそいつ。

そいつの体が横に傾き、そのまま地面に倒れ込んで身悶えする。


「はぁ…はぁ…」


堪えていた息を吐き出した。

頭だけでなく、全身が汗でぐっしょりだ。


「うわ、本当に危なかったな」


一撃で死ななかったらどうしようかと思ったが、幸いにも頭のど真ん中に当たって倒れたようだ。

俺はイノシシのところへ歩み寄った。

まだ息があるようで、目を開けたまま足を動かしている。


「早く楽にしてやらないと」


このまま死ぬのを待つわけにはいかない。

苦痛を感じさせないように早く終わらせてやるのが、人間としての務めだ。


コンビ∞で狩猟用ナイフを購入し、手に持ったまま、そのままそいつの首に振り下ろした。

ほどなくして、身悶えしていたそいつが息を引き取った。


「はぁ…」


首に刺したナイフを抜き、その場にへたり込んだ。


「本当にとんでもない経験ばかりしてるな」


これからこの世界で生きていくには、こんなことが数えきれないほど起こるだろう。

その時に備えて、石弓だけは自由自在に使えるように訓練しなければならないようだ。


「はぁ…居住地探しに来て、これかよ」


その場から立ち上がり、首に刺さったナイフを抜いた。


ザブン。


その瞬間、水の音が聞こえた。

ゆっくりと首を回し、後ろを振り返った。


「おお…」


暖かく降り注ぐ太陽。

それほど大きくはないが、一人で座って釣りができるくらいの小さな湖。


俺が思い描いていた完璧な居住地。


「やったー!」


ついに見つけた。

探し求めていた理想的な場所。

俺のスローライフを約束してくれる完璧な場所を!


***


チュンチュンと鳴く鳥の声。

時折、湖面から顔を出す魚のザブンという音。

暖かい太陽が明るく降り注ぐこの場所。


「はぁ…」


俺はテントを張り、キャンプ椅子に座ってじっと湖を眺めていた。

テント暮らしも悪くないとは思っているが、いくらテントが良いと言っても、人が暮らすためにはテントではなく家が必要だ。


この場所を見つけた日、ハンスさんには街の外で暮らすと宣言した状態だ。

変な奴扱いされたが、スローライフは都会で叶えるものではなく、こうした自然の中でこそ叶えられるものだ。

まさに自然人。


「さて、と…」


コンビ∞を開いて建築資材を見てみた。

木材、鉄筋、レンガだけでなく、セメントや強化ガラスのようなものもリストに載っている。


「本当に何でもあるんだな」


一番良いのはセメントで家を建てることだが、専門的に建築を学んだわけではないので、専門的な建築資材を使うのは難しいし、お金ももったいない。


「結局、小屋か…」


今のところ簡単に作れるのは、木材を使った小屋だ。

しかし、木材で作るのは良いが、構造をどうすればいいのか見当がつかない。


「せめて教えてくれる人がいればいいんだけどな…」


先生を雇うのがいいか。

それともいっそお金を払って人夫を雇うのが…


「いや、ダメだ。お金がたくさんあるからといって、こんな風に使いまくったら、すぐに底をついてしまうだろう…」


この世界では、できるだけ仕事から離れて過ごしたい。


「(完成した家そのものを売っているものはいないだろうか…)」


そう思いながら、期待せずにコンビ∞で「家」を検索してみた。

ところが、家があった。


「何だこれ、なんでこんなものが?」

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