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第三章:前編「居なくなった同期とサンドイッチマンの情熱」

入社から1カ月経たずに、同期の女子は辞めたらしい。

その翌日、俺と相方だった男子同期も「熱がある」とLINEで連絡後、音信不通になった。

それから退職届が郵送で届いたらしい。


らしい、ばっかりだけど社内じゃ誰も話題にすらしていないし、ある日ふと先輩に聞いた時も「そんな奴いたっけ…あー!ガムテ女か!?ていうか、女子は絶対辞めるんだから最初から雇わなかったらいいのにな?金食い虫だよなー」で話は終わった。


流石に同期内では話題になったが…


弊社では、営業職に関しては絶えず中途採用をしており、毎月数人の幅広い年代の人が入っては消えてを繰り返していた。


最初の頃は根性ねーな、と思っていたけど今思い返すと異常でしかないな。



それから俺は黙々と"種"撒きを続けた。

売り上げ? 半年間ずっと0円。


これも思い返すと理不尽でしか無い。

俺が引っ掛けた案件はゼロじゃないのに、接客は1秒もさせて貰えず、そんな状況で数字の積み上げが出来る訳ない。


あの当時の俺ははある種の"洗脳"に掛かっていたんだと思う。会社としても"兵隊"はいつでも補充可能だから、無駄に生き残られても給料という"固定費"は必要な訳で…


稼げそうにない奴は、さっさと消えてくれた方が好都合だったんだろうな。


ちなみに10人いた新卒入社組は、俺を含め半年後には男4人だけになった。



ある日先輩社員から俺に声が掛かる。


「お前、来週の○○日の日曜、○時から訪問査定行ってみるか?」


「えっ!?マジですか?俺が行って良いんですか?」


「もちろんだよ、その日、お客さんと大事な商談が入っちゃてさ。新卒で一番頑張ってるお前に行って欲しいんだよ!結果が駄目だったとしても文句は言わないからさ」


"ついに来た"と思った。

めちゃくちゃ嬉しかった。

俺の頑張りを認めて貰えたんだ…


実態はただの"擦りつけ"だった訳だが…



◆売り出し日に行動予定が無い◆


これは営業マンにとって死活問題である。

買いにしろ、売りにしろ、顧客とのアポが無い=売り上げ見込みが無いと同義である為、営業マンは期待値が低い案件でも何が何でも行動予定を埋めたい。


しかし、そうすると顧客との都合によっては、日時被りが発生する事がある。

今回のケースでは、主人公に渡された訪問査定予定は社内では有名なショボ案件であった。


○築50年の車庫なし木造2階建、土地15坪、非接道の為再建築不可


○販売価格は良くて400~500万円、それで売れても仲介料見込みは両手仲介で約40万円程


○社内でも有名なショボ案件扱い:「あれは“商談”じゃない、“修行”だ」


○先輩社員が何でも良いから予定を埋めなければ、という焦燥感から査定予定を取ったが、"熱い"案件の商談が入り、断り・リスケジュールの連絡すら面倒だったので、たまたま主人公に声を掛け"擦った"。



売却査定当日


俺は興奮とやる気で満ち溢れ出社した。

書類は何が必要か?

どんな風に話をすれば良いのか?

売却の流れ、係る諸費用は?


何も分からかった俺は、先輩達に教えて貰おうと質問したりしていたが、媒介書が○○フォルダに入ってるから印刷して持っていけば大丈夫。話はとにかく売れる様に頑張るって言っときゃ良いから。

と教わった。


先輩からすれば、"物"にならない案件で結果は分かりきっているのに、丁寧に教えても仕方無いと思っていたんだろう。


当時の俺は疑問すら持たなかったが、何もかもが不足している状態で顧客の元へ向かったのだ。



「こんにちは~!○時から約束させて貰ってた○○不動産の○○です!査定に来ました!」


「あ~、はいはい~」


とインターホン越しに会話し、ボロボロの木造住宅から出てきたのは、人の良さそうなおばあちゃんだった。


「どうぞ、家の中は散らかってるけどね、あがって下さい」


「失礼しますっ!」


挨拶での掴みはバッチリだ。

毎朝の発声練習がココで役に立つんだなと一人納得した。


テーブルに着くや否や俺は先輩に教わった通りに、直ぐに本題を切り出した。

「○○さん、僕が頑張って必ず売るので任せて下さい!」


「えらく性急なんだねえ、お茶を淹れるからちょっと待ってね」


おばあちゃんにはなんだかペースが乱されるな…と俺は思った。


おばあちゃんがお茶を用意してくれて、テーブルに着いたタイミングで再度俺は同じ様に切り出した。


「そうだねえ、いつもの人には元気なうちは頑張ってここに住み続けるって言ってたけど、最近、親戚が亡くなってねえ…」


という言葉から、おばあちゃんのこれまでの人生の話を1時間半程聞かされた。

話を聞いているうちに俺は田舎に居る自分の曽おばあちゃんを思い出していた。


「それで最近ね、親戚を亡くしてね…」


おばあちゃんは寂しそうに泣き始めてしまい、俺もこの頃にはすっかり感情移入していて自然と涙が溢れてきた。


「だからこの家は売ってしまって、まだ親戚がいる田舎に帰ろうと思うの…あなた凄く誠実そうだから、この家の事はあなたに任せるわね」


「はい…僕が頑張って、○○さんの家を必ず売ってみせます…早く田舎に引っ越し出来る様に…約束します!」



俺はおばあちゃんと口頭で約束を交わし、販売金額、売却対象不動産の確認、諸費用の説明、媒介契約の締結など、一切何もせずに会社へと戻った。


先輩社員

「ご苦労だったな、話だけ長くて最後は『元気な間は頑張ってここで生活する』だったろ?」


俺「話は長かったですけど、家を売るのは俺に任せると言って貰えました!」


「えぇっ!?お前すげーな!ちなみに金額はいくらで預かってきたんだ?」


「あ…金額決めてないです…」


「うわ、マジかよ…って事は媒介書の取り交わしもしてないの?」


「ばいかいしょ…」


「お前、査定行った意味ねーじゃん、アホ過ぎんだろ」


(いやいや、アホだのバカだの言われても…頑張って売ります!だけで良いって言ったのはお前だったろ)と内心思っていた時。


部長

「どうしたの?何か売却媒介取れそうな案件あるの?」


先輩

「いえいえ!いつもの"頑張るばあちゃん"の査定、こいつが引っ掛けたみたいで訪問した様なんですが、結果はいつも通りだったみたいです!」


(は?何言ってんだコイツ)

「…いやいや!売って田舎に帰りたいって、僕に販売を任せるって約束してきました!」


先輩が睨んできたがどうでも良い。

俺がおばあちゃんの家を売ってあげるんだよ。


部長

「そうなんだ、とりあえず君…○○君だっけ?話を聞くから来てくれる?」


「はい!」


相変わらず先輩は俺を睨んでいたが、部長には何も言えないようだった。



部長の個人部屋にて


「お疲れ様、それで?お客様から売却の依頼が貰えたのかな?販売依頼を頂いたのは初めて?」


「はい!初めての依頼を頂きました!販売は僕に任せると言って貰えました!」


「で、媒介書面の取り交わしが出来ていない状態、なのかな?」


「…すみません…書類が必要なのがよくわかっていなくて、何も出来ていないです」


「状況は把握出来ました。じゃあ次からは俺も一緒に付いて補助してあげるから、お客様とのアポ取りしてくれるかな?」


「わかりました!直ぐにアポ取りします!」


という事で、俺はその場でおばあちゃんへと電話を掛けた。


「明日のお昼以降なら何時でも良いですよ」


「ありがとうございます!でしたら13時ではどうでしょうか!?」


部長が俺を見て頷く。


「はい、そしたら待ってるわね、よろしくお願いします」


そして俺は部長に着いてきて貰い、再度おばあちゃんを訪ねる事になった。

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