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第二章:後編「サンドイッチマン、アポが取れるまで帰れま10(テン)」

土曜、日曜、祝日。

不動産屋にとっての"売り出し日"、俺達は平日とは違う行動を取る。



◆不動産営業の主な業務は大別すると2つ。◆


◯買い行動(物件に客と共に内覧や商談)

◯売り行動【売主より販売依頼の獲得(売却媒介契約)、買取再販物件の仕入れ】


主に主人公達、新卒社員は商談の為の知識よりも兎に角、"行動量"。

買い行動・売り行動に繋げる為の種まきを軍隊並みの規律により徹底されている。



日曜日


5:48 出社


いつも通り私用スマホは、出社時に共用デスクの透明プラケースへ"隔離"。


8:00までのルーティンは平日と殆ど変わらないが、チラシは準備しておくだけ。(土日祝は夕方~深夜の分譲マンションへの配布のみになる)


「今日の"弾薬"も準備完了…」


8:15 朝礼終了


8:18 行動開始


今日は自社で分譲中の新築戸建現場で"営業活動"だ。

看板と物件チラシを持って先輩の駆る社用車へと、いつもの様に押し込まれて、新築現場の最寄り駅の交差点へと投下された。



今日の俺の営業は"広告塔"になる事。

体の前後を広告で"サンド"され駅前交差点で叫ぶ。


サンドイッチマン俺

「家買いませんかっー!?!?」

「弊社売主につき仲介手数料無料ですっ!!」

「月々〇万円から持ち家が手に入りますよっー!!」


教えて貰った営業マンの"決め台詞"は幾つかあるが、こんな感じのフレーズで営業を行う。


通行人は俺を見ない。

避けるように通り過ぎる。

小さな子どもに笑われ、おばちゃんに「あら頑張ってるわね」と哀れまれる。


汗でベタつくスーツの下、ストラップが肩に食い込む。

それでも、俺は叫ぶ。


「お家を!お探しの方いませんかー!家買いませんかーっ!!」



一方、ペアの相方は販売チラシを手に通行人へ声を掛けまくる。

ターゲット優先度順は、

子連れの主婦>女性>ファミリー

男性のみには声を掛けない。


女性を中心に声を掛けるのも何か"戦略"らしいが…俺には分からない。


「すみません、すぐ近くに新築物件があって…見てくださるだけで結構なので!」

笑顔、笑顔、とにかく笑顔。


断られても、舌打ちされても、構わず声を掛ける。

それが、俺たちの“営業活動”。


たまに、見るだけならという事になる人もいる。

その際は分譲現場に待機している、先輩へと引き継ぐ事になる。

俺?もちろん、"サンドイッチマン"を継続する。

とにかく今出来る"営業"を頑張るんだ。



陽が落ちた後に帰社。

大体、18時前後


待っているのは「過去客の掘り起こし」。

要は"テレアポ"だ。

アポが21時までに取れなければ、チラシ1000枚の追加ペナルティ。


課長

「おまえさっきから何で1本も架電しないの?モニター見てても何も始まらないぞ?」


俺が過去客から何回「結構です」と言われたか曖昧になってきた頃、そんな課長の詰問する声が聞こえてきた。


詰問されていたのは、同期の女子だった。いつも細かい事で注意され、俺達だけのタイミングになると、よく愚痴っていた女の子だ。


同期女子

「すみません…でも繋がっても"要らない"とか"考えてない"って言われるだけだし、これ意味無くないですか?」


俺(うわっ、言いやがった!でも大丈夫か?)


俺は気になってチラチラ様子を見ていたが、課長が声を荒げるような事もなく、何処かに消えていったので、呆れられたのか…ぐらいに思っていた。


数分後…


同期女子

「えっ?ちょっと、なんですか…」


という声が聞こえてきた。


課長

「なんですかって、アポが取れるまで手伝ってやるんだよ」


様子を伺うと課長が同期女子の手と受話器をガムテープ?でグルグル巻きにしていた。


同期女子

「…こんなの許される…わけ…ない…」


課長

「何が許されるわけないんだよ、許されないのは売り上げもない癖に給料は貰います、でも電話はしたくありません、の方がよっぽどオカシイと思うけど?」


同期女子は泣き始めた。


課長

「お前泣いたら、金が稼げると思ってんのか?いいか?ココは仕事をする所なんだわ、無能の代わりに金を稼いでくれてる上司に泣きつく場所じゃないの。ましてや、文句垂れるとか、何様なんだよ」


俺は静かに詰問する課長、すすり泣く女という状況に震えた。


課長

「早く何でもいいから早くアポ取れよ、せっかく受話器を"置けない"様にしてやったんだからよ」


という言葉と共に課長は消えていった。

同期女子はその後マンションへのチラシ配布の時間まですすり泣いていた…。



ちなみにこの"過去客の掘り起こし"でアポが取れてもその後の接客は先輩社員達が行う事になる。


俺たち新卒は“種”を撒くだけ。

“芽が出たら”先輩にバトンが渡る。


不動産知識?そんなんもん要らねえ。

動いて、配って、電話する――それが、俺たちの"仕事"だった。



翌日、同期の女子は会社に出社して来なかった。

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