第二章:前編「営業部・地獄小隊への配属」
出社初日はそれからの日々を考えると、なんて事は無かった。
8:50出社
カッコいいオフィスでの全体朝礼、新卒社員全員(男7人、女3人の合計10人)で全社員の前で自己紹介をした。
社長「これからよろしくね!頑張ってみんなで儲けようぜ~」
全社員「はい!儲けていきましょう!!」
その後に会議室にて営業部長から業務説明があった。
・明日は6時に出社する事
・出社と同時に私用携帯は会社が預かる事
・昼から早速、業務を開始する事
要点を言うとこれだけだった。
頭の中は?だったが、何も質問してはいけない雰囲気だった。
その後、業務用のスマートフォンを貸与された。
秘書姉さん
「壊すと買取りなので大切に使ってね」
⸻
12:00
昼食は弁当が用意されていて、新卒全員で会議室にて昼休憩となった。
話題は、
なんで明日は6時なんだろ?
私用携帯使えないの?
で持ちきりだった。
12:25
先輩社員が会議室に入って来た。
「お前らまだ食ってんのか?昼からチラシって言われてんだろ、早く来い」
新卒女子2人は途中にも関わらず、食べるのをやめて先輩社員についていく。
オフィスに出ると新卒全員にチラシの束が渡された。
新卒達
「チラシ?なになに?配るの?今から?」
「入社初日から仕事するなんて聞いてないよね?」
「昼休憩って13時までだよな?」
「さいあく~、私、お弁当まだ残ってるんだけど」
そんな疑問まみれの俺達に先輩社員は、
先輩社員
(無言でA4のコピー用紙に印刷された住宅地図と赤のボールペンを新卒達に渡す)
「とりあえずお前らペアになれ」
「よし、じゃあ行くぞー」
先輩社員がオフィス中に響く声量で叫ぶ
「今からっ!チラシ!行ってきます!」
オフィスからは何の返事も無い、というか誰もこちらを見てすらもいない。
新卒達は訳も分からずに何台かの車に押し込まれて、連行された。
13:10
先輩「到着、降りて。今からチラシ配りと地図の使い方教えるから行こうか」
連れて来られたのは戸建が立ち並ぶ住宅地だった。
「まずはチラシを配るエリアに着いたらこのアドレスに現在の位置情報と、チラシ配布開始します、ってメールを入れる」
と先輩はスマホの画面を俺達にも見せながら、説明する。
「これを絶対に忘れるなよ、すげー怒られるから」
「戸建住宅にチラシ配布をしていく、ポストにチラシを投函する」
の声と共に先輩はチラシを早足でドンドン配布していく。
俺ともう一人は着いて行くだけでも大変だ。
「おっ!あった。この家のポスト見てみ?郵便物もチラシもパンパンになってるだろ?」
確かにポストからは書類が溢れている。
「お前ら地図の見方はわかるよな?」
「この家、たぶん誰も住んでない、空き家なんだよ。こんな家を見つけたら地図に赤ペンでマークする。わかったか?」
どういう意味があるのかは分からないが、チラシを配布しつつ、人の住んでいない家を地図にマークする事だけはわかった。
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◆空き家調査◆
空き家を見つけ、ブルーマップ等を参照し地番(住所とは違い、登記簿に記録されている番号)を特定、法務局等にて登記簿謄本を取得し所有者へと売却を促すダイレクトメールを郵送する。
空き家は日本全体でも問題(相続未了で所有者が不明な物件など)になっているが、使用していない=売却する可能性も高い為、売却物件を獲得する為の行動となる。
ちなみに登記簿謄本は、誰でも取得出来、その目的としては、不動産の権利関係を明確にし、取引の安全性を確保するために設けられた制度となっています。
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「了解です!」
「ん、あー…了解ですじゃない、わかりました、だ」
「わかりました!」
「そう言う事だからチラシ全部配布出来たら連絡して。連絡先はそのスマホに全社員分入ってるから」
の声を最後に先輩社員は消えていった。
俺「…え?このチラシ全部無くなるまで?」
相「って言ったよな…」
俺「とりあえず早く終わらせよう!」
相「そうだな。これ終わったら今日は帰れるかもだから早く終わらせようぜ!」
その後、俺は相方と必死でチラシ配りを頑張った。
17:50
俺「まだ半分ぐらいしか減ってないよな…」
相「もう終業時間になるから流石に連絡入れた方が良いんじゃね?」
俺達は先輩に連絡を入れる事にした。
先輩「もう終わったの?早いじゃん、迎えに行くから位置情報送ってくれ」
俺「いや!まだ半分ぐらい残ってるんですけど、もう終業時間なので連絡しました!」
先輩「は?何言ってんのお前、全部終わるまでって言ったよな?」
俺「えっ?でも終業時間が…」
先輩「だーかーらー!終わったら連絡してこいって!」…プープープー…
俺「聞こえてた?」
相「うん…」
俺達2人は訳が分からなかった、就活中の会社説明会の時も、面接の時も就業時間は9:00~18:00、昼休憩は12:00~13:00と説明されていたからだ。
結局、チラシを配布し終わったのは20:30頃だった。
俺「チラシ配布終わりました…どうしたらいいですか?」
「おつかれー、位置情報送ってくれ、迎えに行くから」
暫くしてから先輩が迎えに社用車で迎えに来て、会社に戻ったのは、21時過ぎだった。
オフィスには先輩社員達がPCに何かを打ち込んでいたり、お客さん?と電話している人、書類を見て唸っている人など、まだまだ沢山の人が働いていた。
「お疲れ様、じゃあお前ら、今日は帰っていいよ、明日は6時からだから遅刻すんなよ」
相方「あの…!なんで"明日"は6時からなんですか?」
「ん?仕事するからに決まってるんじゃん、お前らさっきから、しょうもない事言うんじゃねーよ、稼ぎたいんだろ?働く以外に何があんだよ」
「…明日だけですよね?」
先輩「お前、アホだろ。日本語聞こえてんのか?ていうか初日から仕事に対する意識低すぎ、周り見てみろよ、皆んなお前らが帰った後も仕事するんだぞ?俺も暇じゃないから早く帰ってくれ」
俺達「…了解です…」
「了解ですはやめろ、客の前でそんな言葉遣いするんじゃねーぞ、直せ、お疲れ」
「お疲れ様です…」
⸻
翌朝5:50
昨日は家に帰ってから、中々寝付けず、遅刻してはいけないというプレッシャーもあり会社には少し早めに着いたが、先輩社員達(2~3年目)の姿は既にあった。
「おはようございます」
「おう、お前元気ないな、もっと声出せよ?とりあえず朝のルーティンを教えるから一回で覚えろよ」
・ 輪転機にて売り物件募集のチラシ刷り
(一人1日、3000枚)、
・ 配布エリア決めと地図の印刷
・ 刷り終わったらオフィスと会社周辺、
社用車の掃除と洗車
・ 8:00から若手社員のみで朝礼、発声練習(新卒達は声が小さいと何度も何度も発声させられた)
・ 8:15チラシ配布へと先輩1名、新卒4名にて社用車で移動。ペアにて別の場所に投下され、配布開始メール後、だいたい11:30頃まで配布
・ 帰社後、昼飯をさっと終わらせて次の業務(新卒女子が食うのが遅いと注意されていた)
・ 午後からは電車で各人移動をし、地場の不動産業者への挨拶周り(名刺配り、「何か買わせて頂ける物件ありませんか!?」
)
どこに不動産業者があるんですか?の質問は、「携帯で調べろよ」で一蹴された。
帰社後には名刺の枚数チェックと先方業者の名刺もチェックされるので何が何でも名刺が欲しい、物件資料を持って帰って来れるとなお良い)
or
・戸建住宅への飛び込み営業、不動産売買でお手伝い出来る事はありませんか!?
リフォームのお考えはありませんか!?
(アポを取り付ける事が出来れば褒められる、基本的にはその後は、ベテラン社員が対応していく)
・17:00頃には一旦、帰社。
その後、午前中に配布しきれなかったチラシは先輩社員1名、新卒2名の3人で社用車に乗り、管理人が帰った後の分譲マンションへのチラシ配布(被らない様にエリア分けして)。配布完了は日付けを跨ぐ事も"ざら"にあった。
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「こうして俺の、“営業部・地獄小隊”への配属が完了した。
支給品は地図と赤ペン、名刺と3000枚のチラシ。
命令は“生き残れ”――ただそれだけだった。」