4."overwork and unwork"
「え? いや、午前がっていうかこの紙に最初から3時までって……」
「…………え? どういうこと?」
僕が紙を見せた瞬間黒崎の顔と声色が変わり、その場の空気の圧が一気に重くなる。
労働時間についてかと最初は思ったが黒崎はこの紙の存在をまるで知らないような目で見ている、
そして、僕はこの状況からすべてを察した。
この紙が渡されたのは昨日、前日準備が終わって帰る直前だった。
ということはその2日前に彼らの怒り(というか逆恨み)を買った僕はカモにされていたわけだ。
里香と僕とではクラスが違うため労働条件が多少違ったところで和也や祥子が怪しむことはまずない。
そして僕みたいな陰キャに友達はそんなに多くない。
黒崎ともいつ働いているのかなんて確認はしていなかった。
原田もしっかり考えていたわけだ。
ただ、午前もと黒崎が言っていたところから考えるに午前、午後①、午後②というふうにでも分けているのだろうか………?とにかく僕が多めに働かされてることぐらいは頭の悪い僕にも理解はできる。
「なんで隼人くんだけみんなの倍働いてるの?
私、シフト表では隼人くん今は休みになってたはずだよ?
あれ、原田は……?いないじゃん!」
そんな表があったのか……黒崎が持っていて僕はもらってないってことは清水と黒崎の2人がもらってるって感じか……
いや……違う!
「隼人くんシフト表見せて」
「え……そんなの僕持ってない……」
「ねぇ隼人くん、原田殴ってきてもいい?」
僕が必死に取り押さえてどうにかなったが……黒崎も相当お怒りのようだ。
きっとみんなで回る時間を合わせやすいようにシフト表があり全員に配られていたのだろう。その紙を僕だけもらっていない。
黒崎が僕のことを気にかけるなんて想定していなかった原田はこうなることに気づけなかった。
「……その紙、そういうことなんだ。隼人くん……気づけなくてごめん。とりあえず仕事はここにいる人に任せていいから一旦外出よ」
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「多分、Tシャツの時だよね? 隼人くんが恨まれる理由になったの」
「どうなんだろう……里香と幼馴染ってのも妬まれる理由にはなるし……ほら、里香はあんなんだけど結構モテてるし………
でも、Tシャツの件はかなり大きいとは思う」
僕は今、黒崎のささやかな心配りのおかげで、人混みを避けてほとんど人の通らない屋上への階段に腰掛けている。
「隼人くん……怒らないの? さっきも私を必死に止めてたけど、隼人くんの方が不快なんじゃないの?」
「……僕、小学校も中学校もいじめられててさ。
悪口も嫌がらせも冤罪も色々味わってきたから……。
それに今回、準備はほとんど手伝えなかったから…………ここで働けるならって……」
こんな陰湿な嫌がらせは山ほど知ってる。
それに僕は今、どんな感情もほとんど起伏がない。一応演技はしているが……
なので僕は今不快とすら感じていない。
だから……"悟の時"とは違い僕が傷つくだけなら……
「もっと、自分を大事にしなよ。隼人くん」
「……自分を大事に、か」
トラウマも、苦しみも、全部抱え込んだ結果今の自分に成り果ててると考えれば自分を大事にするべきだったと本当に思うだろう。
でも……もう無理だ。
例えば、雑に扱いすぎてボロボロになってしまったカバンがあったとしよう。
今から大事にコイツを使おう。と考えてもボロボロのそのカバンは底が抜けたりいろんなところが剥がれたりしてしまう。
一度そこまで来てしまった時点でもうどうやっても同じなのだ。
僕の脳が何かを理解した瞬間、僕の中の何かが壊れた。
突然、僕の目から涙がこぼれ落ちる。
「自分を大事に……ねぇ……出来ないよ……今までそんな生き方してなかったんだからさ……」
黒崎は、僕が泣き止むまで背中を擦って横にいてくれた。
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僕の感情も少し落ち着いてきた頃、黒崎がにしては珍しく少しモジモジしながら口を開く。
「私さ、もう少ししたら教室戻らないといけなくて……今日は一緒に回れないんだけど……」
「え?あ……ごめん結構時間使わせちゃったね……」
「あぁ、いやそういうことじゃなくて……それは別にいいんだけど」
黒崎は大きく息を吸い込み、決心したように言った。
「明日、私も仕事ないからさ。2人で一緒に回らない?
明日は後夜祭もあるでしょ? 私に1日、隼人くんの時間をちょうだい」
「いいよ。どうせ1人で回る予定しかなかったし、後夜祭なんて1人だとつまんなすぎるだろうしさ」
恋愛に興味がなさすぎる僕が、これがデートのお誘いだったと気づくのはかなり先の話になる。
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高校で初めて、"黒い感情"を出してしまった。
不意に出てきたこれを僕は抑えられなかった。
いつか………これを制御できなくなってしまうのだろうか。
そう考えると怖くなってしまった。
第4話「過労と無労」




