12.”the elder”
「……いいね。それでこそ私の『同類』だ」
そう言うと彼女はこちらを向いて、手を差し出す。
「これからよろしく、後輩くん」
と、嬉しそうに……でもどこか憂鬱そうに笑った。
「あ、僕後輩なんですか?
あぁ……まぁ同い年か先輩かしかいないからそりゃそうか」
「まぁ、やっぱり1年だよね〜
じゃなけりゃ私のこととかも……ま、いっか」
「僕が後輩くんなら……先輩は"先輩"でいいか……」
"先輩"がいたことに気を取られてあまり部屋を見ていなかったが、この部屋はなかなかにめちゃくちゃな気がする。
職員室にありそうな大きめの灰色の机にはなぜかSwit●hが置いてある。
もちろんあのクルクル回る椅子もある。
大きな灰色の……恐らく業務用の棚には大量のマンガとラノベが詰められていて、
そして……
「この部屋、何の部屋なんです?」
用務員室のロッカーに隠すようにして作られているこの部屋だが用途が謎すぎる。
「君が思った通り、謎なんだよ。
だから私は"謎部屋"と読んでるけど、もっといい案があれば募集中だよ」
じゃあ謎部屋で、と返すと謎部屋を改めて見渡す。
「なんで他は何もないんですか?」
動くのかわからないエアコンをカウントするかどうかは悩むが、机とクルクル回る椅子と棚以外に何も無い簡素な空間。
教室一つ分あるのにこの空間の無駄遣い感。
用務員室の道具を使っているのだろうか………メチャクチャ綺麗に掃除されてはいる。
「ちなみにここ、エアコン動くから夏も冬も安心の設計だよ。
まだ私がここでサボってるのはバレてないから君も安心してここにいていいんだけど………」
この部屋の快適性を連ねるように述べる"先輩"が言葉を詰まらせた。
次の瞬間、"先輩"は一気に顔を青ざめて僕に掴みかかるように問いかける。
「後輩くん!!君どっから入ってきたの!?」
「えっと……旧校舎の裏口?っていうか……一階より下のところにあるドアのとこから用務員室入ってーー」
「鍵閉め忘れてたーー!!」
途中まで聞いて理解できたのだろうが、せめて最後まで聞いてほしかった。
これで勘違いすることはないだろうが、侵入経路を聞き出すためならこれが間違っていては大惨事だろう。
「明日からは、後輩くんが来たらすぐカギを閉めて入ってきて………
裏口と、用務員室の鍵両方ね……」
その日はしばらく喋ったら黒崎から「青山先生にバレる前にそろそろ帰っておいで」とメッセージが飛んできたので、ここにはまた明日来ることにした。
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文化祭準備4日目。
"先輩"に言われた通り鍵を閉めながら謎部屋に向かい、ロッカーを開ける。
「"先輩"、こんにちは……っえ!?」
謎部屋の中にあった机と椅子と棚、それは昨日の時点では1つずつしかなかったはずだ。
ただ……2つずつに増えている。
椅子はまぁいいとして、明らかに教師用のその机とその棚はどこから運んできたかは知らないがとても“先輩”が1人で運べるようなものでは………いや、ていうかそもそもどこから持ってきたんだ?
「そこの後輩くん用のセットをどうやって持ってきたかって?
椅子はそのまま持って来れたけど流石に机と棚はしんどかったから一回分解してから持ってきて組み立て直したんだよ。棚はそもそもロッカー通らなそうだしね。」
「暇なんですか?」
正直、驚きを通り越して呆れが勝ってしまった。
まぁそこまでして持ってきてくれたのはありがたいが……謎部屋とどこかを行き来していたにしろ確実に休み時間だけでは終わらない量……つまり“先輩”は授業をサボっていた事になる。
まぁそれに関してはここにいる理由になる深い事情もありそうだし詮索しないでおく。
「で、これどっから持ってきたんですか?こんなもの簡単には手に入らないんじゃないですか?」
空き教室に行けば生徒用の椅子や机は手に入るだろう。
あの椅子や机はいくらでもあるので1つや2つ持っていったところでバレないだろうが教師用のあの机はそうはいかないだろう。
空き教室にもある教卓と違い、職員室にしかなさそうなあの机を運ぼうものなら一発でバレるだろう。
「旧校舎の職員室から盗んできたんだけどね〜?あと10個はあるからいくらでも……まぁいらないけど」
確か地下から旧校舎に行くための扉は鍵が閉まっていて入れなかったが………旧校舎の職員室に出入りしているということはまさか……
「”先輩”もしかして旧校舎の鍵持ってるんですか⁉︎」
「言ってなかったっけ?持ってるよ。それもマスターキーを。」
とんでもないが嬉しすぎる大誤算だ。
旧校舎はかなり大きい。
しかも職員室から机を盗んでもバレていない上、マスターキーが生徒の手に落ちている状態を放置している事に気づかないほどということはもちろんだが基本的に人の出入りはないと見て問題ない。
エアコンが動く、と言っていたことから電気は来ているし電気代なんかの請求に気づいている様子もない。
実質的に、旧校舎は“先輩”のもの(金は全て学校の奢り)という状態が成立している。
この“先輩“なら頼めばきっと大抵の設備は使わせてくれるだろう。
「って、昨日の段階で言い出さなかったのはそういうことか」
「サラッと心の声読まないでください!? 一応まだ何も言ってないですよ!?」
『同類』というだけで思考を全て読まれているのは本当に意味が分からないが彼女はニヤニヤしながらこちらに鍵を投げる。
「案内したげるよ、おっきい旧校舎の中を。
なかなか無いよ〜? こんな美人な先輩に誰も来ない旧校舎を案内してもらえるなんて。感謝しなよ?」
第12話「“先輩”」




