11."You don't say, “I get it,” do you?"
「あぁ、美人でモテそうな女子高生がこんなところにいるのおかしいって?
そう思ってもらえれば、私を探す人もここにはたどり着かないだろうなって思って。
まぁ、君みたいな『同類』には見つかっちゃうんだけどね」
辺りに響かないハスキーボイスで、彼女は言った。
「僕と『同類』……?」
「声、作らないでいいよ。
大体、心に抱えている傷が理由で逃げてきたんじゃない?
分かる、なんて言われたくはないだろうからそんなふうには言ってあげないけど……私は君と『同類』だからさ」
"あの日"についても、夏菜子にしか打ち明けられなかった"アレ"についても、今僕の大きな心の傷として僕を苦しめているのは間違いない。
そしてそれが"黒い感情"の元になっているのだろうというのは容易に想像がつく。
さらに、僕が一番嫌う言葉を理解している。
憩い村でらメンバーの心地良い居場所を理想とするため多くの縛りは設けないことにしたが、一つだけルールがあった。
『人を傷つけることは絶対にしない』
居場所を求めてやってきた苦しむ人にこれ以上の苦痛は与えない、というのが目的なのだが………明確にこれがだめという線引きはしていない。その人の抱える傷により何が嫌で何がいいのかは人それぞれだからだ。
しかしその中で、古参の中では暗黙の了解となっていた一つの禁忌がある。
『人が何か悩みを打ち明けた時、絶対に「分かる」という言葉を使うな』
人の抱える傷なんて計り知れない。
たとえ全く同じ立場で全く同じ事をされても人によって感じ方が違う。
全く同じ気持ちなんて誰にも味わえない。
僕たちが嫌うのは「もし自分がその立場だったら」「もし俺/私なら」という表現だ。
自分が、自分に対して攻撃を受けたから苦しんでる。
お前らなんかに分かるわけがない。
それが僕達の意見だ。
それを理解していて、しかも僕が逃げ出したい理由も理解していて、なんなら………僕が………今見せてる"小林隼人"が作り物の顔だと一瞬で見抜いた。
『同類』なのかどうかはわからない。
でも確実に、僕のような人種に理解がある人間だ。
僕が素を見せても問題ない人間だ。
「ハハ……声作ってるの、わかります?」
普段里香や和也、黒崎達と話す時に使う少し高いふざけた声ではなく、1人でいる時の力を抜いた低い声で話してみる。
「いや?私じゃないとわかんないと思うよ。
君は私と同じ匂いがするから、君の今の心に似合わない声に違和感を感じただけ」
彼女の言う『同類』が何を指すのかは、今の僕にはまだ分からない。
彼女も僕のように何か傷を抱えているのかもしれない。
「あ……そうだ、自己紹介してない……僕のーー」
「言わないでいい」
「へ?」
彼女は突然、拒絶するように僕の声を遮る。
「お互いのことは知らないほうがいい。
関係を築いて得る幸せよりも、関係を壊されたり、奪われた時の悲しみのほうが大きい。『同類』の君なら知ってるでしょ?」
「…………ッ」
あぁ、知ってる。それも痛いほどに。
憩い村という居場所を得たその時と、失った時では、感情への影響の差があまりにも違いすぎた。
彼女と知り合い、仲良くなりすぎた時、その関係が何かの弾みで壊れた時にお互い耐えられなくなるかもしれない。
「この部屋に居たいなら好きにしていいし、ここを君の居場所として提供することを私は嫌がらない。
話しかけるな、とまでは言わないけど……お互い深く干渉しすぎるのは良くないと思う」
確かに、合理的に考えるならそうなのだろう。
長い目で見れば今の幸福よりも今後の安泰を考えた方が良い。
ただ、僕は今それができる状態か?
"黒い感情"のコントロールをいつまでできるかわからない状態の僕は少しずつでも感情を吐き出せたほうがいい。
長い目で見て自分を失いぐらいなら本末転倒もいいところだ。
例え今後苦しむことになるとしても………僕は今出会えた『同類』と良好な関係を築きたい。
「正直、僕は今、長い目で見て今後の不幸を案じてる場合ではないです。
僕は居場所が欲しいんです。素の僕を見せられる居場所が。
分かりますよね?なんてクソみたいな言い方はしません。でも、知ってるんじゃないですか?『同類』なら。」
そう言うと彼女は面白そうに笑った。
「自分のこと、わかってるんだ。
確かに、そうだろうね。放っておけば半年もしないうちに君は潰れてさっきみたいに取り繕うなんてとてもできなくなるだろうね」
まるで、体験談かのように彼女は笑って話す。
僕はそれが少し、気に食わなかったのかもしれない。
『同類』なのか何なのか知らないが、知った口を利かれたのが嫌だったのかもしれない。
だが、それでも僕は彼女を憎みきれなかったのかもしれない。
だからこそ、彼女を知りたいと思えたのかもしれない。
彼女と親しくして彼女の人間性を知って、『同類』という言葉の意味を理解したかったのかもしれない。
「貴女が僕と親しくなりすぎたくないという言い分も理解はできるし、むしろそっちの意見のほうが合理的と言えると思います。
でも………お互い触れたくないとこには触れないにしろ、多少の交流はしましょうよ。『同類』として、そして奇遇にもこの部屋で出会えた仲間として!」
こんな部屋、探そうとして探せる場所ではない。
彼女がどうやってこの部屋を見つけたのかは知らないが普通に生活していてこんな場所に隠れようなんて思わないし、仮に旧校舎に入ろうと思っても裏にあるドアも、用務員室も、ロッカーも、すべてを突破してやっとここに来れるのだ。
「覚悟は………あるの?
私に見えるのは後から独りになって泣きじゃくる君だけど?」
それを頭で分かっていても、理性だけで行動できるほど僕はまだ心を捨てていない。
「僕が"僕"であれるうちは、僕が"何か"に押しつぶされるまでは、
この部屋っていう居場所があるなら、そこに甘えさせて欲しい!」
みっともないし、ダサい。
不器用だし、馬鹿げている。
弱々しいし、不安定。
そんな心を抱えている僕が、見つけたものを手放すのはあまりにも辛すぎる。
「だから……貴女の名前も、過去も、僕からは聞きませんし、詮索はしない。
でも、仲良くしませんか? せっかく見つけた『同類』なら、ただ会ってサヨナラはもったいなくないですか?」
「……いいね。それでこそ私の『同類』だ」
そう言うと彼女はこちらを向いて、手を差し出す。
「これからよろしく、後輩くん。」
第11話「『分かる』なんて言わないよな?」




