4."The offered hand"
黒崎さんは先生に声を掛けると、僕の肩を叩き、袖を引っ張る。
来て、という意味なのだろう。
立ち上がった僕は黒崎さんに促されるまま外へ出る。
教室の外に出たらすぐ、僕は耳から手を離す。
教室の外に出て、ドアは閉まっているという何も関わらず教室から聞こえる騒がしい声。
これを中で聞いていたと考えるとかなりゾッとする。
ひとまず僕たちは、教室を出てちょっと歩いたところにあった階段に腰掛ける。
「黒崎さん……ありがと……」
声を絞り出すように、黒崎さんにお礼を言う。
黒崎さんが助けてくれなかったらおそらく誰も助けてくれなかっただろうし、黒崎さんが僕の様子に気づいてくれたのはかなり救いだ。
「とりあえず、保健室連れてくフリして外出たけど……
そういうしんどさじゃないんじゃない?」
「うん……あと数分休めばどうにかなるし……正直行く気力ないけど行ったほうがいいのかな?」
今、僕の頭が痛いのは教室の騒がしさやその他諸々のストレスが主な理由だろう。
あと数分もすれば痛みは和らぐはずだ。
だが建前がある以上、保健室に行ったほうがいいのかもしれないが正直そんな気力は今の僕はない。
「あ〜まぁそうだよね……体調悪くてとかじゃなくてああ言う空気が苦手で逃げてきたもんね」
黒崎さんは苦い笑みを浮かべながらこちらを見つめる。
仕方ないだろう。こんな状態になった人間の相手をする機会はなかなかないからどうしていいかもわからないだろうし困るだろう。
「無理なんだよね……いっぱい人いてがわちゃわちゃしてるの……だから時々周りの人に……迷惑かけたりするんだけどさ」
頭をよぎるトラウマが僕のストレスを肥大化させ、頭痛もよりひどくなる。
「わちゃわちゃ……?」
「わちゃわちゃって方言なのか………」
結局僕は、最後の最後まで教室に戻れることはなかった。
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「なんか……ごめん」
「いやいや、気にしないで?別に迷惑だなんて思ってないからさ!」
学級委員である黒崎さんを長く拘束して話し合いに参加できない状態にしてしまった。
本人は気にしていないにしても、やはり思う部分はある。
「あ、小林くん!体調大丈夫?」
「え?あぁ……まぁだいぶマシにはなったかな?」
教室に戻ってくるなり僕のことを心配して話しかけて来てくれたのはもう1人の学級委員、 清水慎太郎だ。
「とりあえず、出し物はフライドポテトを色々やる店になったんだけど細かいところはあんまり決まってないからまた今度決めてく感じになると思う」
どうやらマク●ナルドにあるような細長いポテトと、
ファミレスのハンバーグの横についてそうな太い皮付きのポテトと、
味付きの粉を入れて袋を振って後から自分で後から好きな味付けをするタイプのポテトと、
屋台でしか見たことないようなでっかいトルネードポテトと、
網状になっているポテトと、
ハッシュドポテトを作るのはほぼ決まっていて、
さらに子供向けに顔の形をしたポテトや、某音声ソフトをイメージ……丸パクリした重音ポテトなど、他の案も存在するらしく……
ポテトだけにスポットライトを当てたポテト専門店をやるらしい。
この学校の文化祭は2日構成になっていて、
1日目は家族や近隣住民などの立ち入りを許可しており、生徒以外も模擬店で売っている商品を購入することができる。
2日目は生徒と教員以外は学校に入れない。
生徒会主催の後夜祭なんかもあったりして、生徒だけで盛り上がる1日になる。
文化祭は土日に行われるため1日目は近隣の小学生や生徒の兄弟なんかが来たりして、子供向けのメニューも1日目は売れるらしい。
「何か………結構本格的に色々やるんだね」
今僕が聞いただけで7つの案が出ているということは………ポテトに対する情熱がすごい人でもいたのだろうか………
「まぁ、一緒に頑張ろう! 文化祭までもうすぐ1ヶ月だしあと1週間ちょいすれば準備も始まっていくしさ!」
じゃあまた明日、と言いながら清水くんは去っていった。
「文化祭、かぁ」
今まで中学校や小学校にはなかった行事だ。
どんなものかわからないが、楽しめたらいいな。
第4話「差し出された手」




