俗世での生活
師父と別れて下山し、在来線で最寄駅まで
乗り代え数回から一本で下車。
「バス代勿体ないから歩くか‥」
最寄りから徒歩でも自宅まで15分も掛からないうえに自宅アパート前に薬局、付近に牛丼屋、コンビニ、ポストに郵便局、おまけにコインランドリー迄ある。
そんな便利な人里に俺は住んでいる。
仙人も今やハイブリッドで生きなくてはならなくなった。
山そのものにも人様の所有物となってから住む場所は借り、
こっそり山に入り修行とアパートを往き来しながらの生活である。
あ、今不法侵入だなんだ思ったでしょう?
全国各地の辺境に赴いて修行していると一週間くらい眼をつむってもらいたいね。
それに俺はまだ新人だから師父や多くの先輩方なんかの数年単位の全世界で修行する仙人達よりまだ可愛いらしいくらいだよ。
ベテランになると人の氣を察したら完璧に痕跡残らせず霧のように隠れ潜むから其方の方がある意味達悪いじゃあなかろうか‥。
「~♪」鼻歌交じりにそうこうしていたら築40年越え家賃はちょっと高い五万の2階建の古びた木造アパートに着く、
階段を上り、奥の御札が貼られたペラペラのアルミ製のドア、やや新しいドアノブの鍵を開ける。
「ただいま~」明け離れたドアから視界にはいる空酒瓶の山。
「回収は来週かあ‥」と呟き、軽くため息を吐きながらスタスタ歩を進める。
「風呂沸かしているうちに馬歩站椿しながら録画でも観よう」
馬に跨がったような姿勢を数分間保つ馬歩站椿、
丹田に氣を込めて行うこのトレーニングは体幹と普段は使わない筋をゆっくり鍛えてくれる。
それから俺は久々の風呂で身を浄めて浴槽で存分に湯船に浸かればあとはバスタオルで全身がさつに拭き、着替えたら冷蔵庫に一直線、
「やつ」はキンキンになりながらこの時を待っていたのだ。
「こいつがあるからどんな修行も乗り越えられる!」
俺が手にしたのはビール、キンキンに冷えてやがる500mlの缶ビール、開けると「プシュッ」といい音を鳴らすその缶ビールに一口つけるやいなやゴクゴクゴクゴクとのど越しのよいホップの効いた辛口の麦炭酸がスーッと五臓六腑にしみわたる。
「‥ゴクゴクプハーッ旨い!」
時刻は正午をまわった頃、こんな真っ昼間から酒を飲むのがまた良いものである。
一般的な社会人からすれば俺なんて社会のクズ呼ばわりされるであろう。
だがしかし!俺は俗世を捨てず人里で暮らす以上金が必要なのであるがどう生計経てているかだって?
俺は師父に出逢う前はアルバイトで生計を経てていたのだが、今はネットがあれば何でも売れる時代。
機械音痴のおれだがインターネットとにらめっこし悪戦苦闘しながらもなんとか経営のノウハウを叩き込んだ。
山で採れた漢方の材料や、木材や石を加工したアクセサリー、像やら販売している。
師父に教わった練丹術を用いて仙薬を調合したり御札も書いたりしている。
これらは依頼があればつくる。
仙薬はとてもデリケートで保存が利かないため、依頼があればその時作らねばならないため材料のストックは常に確保していないと大変である。
まあ、俺の元にくるお客様は基本訳有りな方々が多い。
身分がいらない、確実に病を治せる仙薬は重宝されるのである。
違法かと云われるとまあグレーであろう。
確実に病を治せるとは言ったが、万能でもない材料が足りなければ作れないし人によっては毒に等しい物を処方しているわけだし。
だが、見習いではあるが師父に教わり認められている仙人である。
調合に失敗はない、というか許されないのである。
そんな感じに俺はそこそこ蓄えられるくらい俗世でも活きていける。
「あり?もうない、、だと!?」
自分語りしていたらいつの間にストックしていた缶ビール1箱失くなっとるじゃあないか!
「‥‥‥‥‥‥‥‥寝よう」
後で買いに行こう、そう思いながら布団に飛び込みそのまま深く眠るのであった。