04:午後の『円卓』Ⅱ
――13時47分。
開戦予定時刻まであと13分と迫り、円卓は厳かな緊張感で満たされていた。
セコンドの席で私とトァザが待機しているところ、闘技場を挟んで向こう側、ラバニスの代表者が初めて姿を表した。
「随分待たせてくれるわね……」
私は背凭れから起き上がり、眼鏡のレンズを望遠に切り替え相手の姿を観察する。ブラウンのスーツに身を包んだ仮面姿の男性と、オレンジ色の長い髪を風に踊らせている純白のドレス姿の娘。まるで舞踏会に参加する貴族のようだ。ここがどこなのか分かってるのかと言いたいくらいに綺羅びやかで、場違いだ。
「やけにキラキラしてるな」
「ていうか……私と歳が変わらないんじゃない?」
ドレス姿の娘は円卓の審判に向かって歩み寄ると慣れた動作で裾を捌いて優雅にカーテシーを一つ。こちらまで声は届かないが、遅刻の非礼を詫びているようだ。ということは整備士資格保有者なのか。
後ろで待つ男は背を伸ばし胸を張って、杖に両手を重ねている。オフホワイトのシャツは袖を丁寧に折り、金色のサスペンダーでズボンを吊っている。瀟洒にまとめているがどこか嘘くさい物腰だ。襟元のボタンは留められておらず、荒くかき上げた白髪交じりの髪と仮面にあまり似合っていない。
その瞳がこちらを捉えていることに気付く。
「――っ!!」彼の視線が鋭く突き刺さる。私は反射的に望遠レンズを跳ね上げた。……瞳を技巧化している?
「驚いた……こんなの初めてだ」私は視線で射抜かれたことに面食らいながらも、気を取り直して再び望遠レンズを装着した。「でもまた見ちゃうもんね」
「行儀が悪いな……」隣に座るトァザはまたお小言をぶつくさ言っている。
「闘技士の方は首から名札下げてる。なになに……『アンダー・アーロン』」
「なんだと……!?」
トァザはその緋眼を凝らして見つめるが、目は技巧ではなく生来のものなのでこの距離では見えないだろう。
「アンダー・アーロンと言ったか!?」
トァザが珍しく取り乱して私の肩を掴んで揺さぶる。こんな顔をするのは初めてかもしれない。
「ちょっ……! そんなに驚くなんて、知ってる人なの?」
「……いや、……いい。……なんでもない……」
歯切れの悪い返事をして肩から手を離す。その表情は怒りを隠しきれていない。明らかになんでもなくないけれど、引き結んだ唇は話す気はなさそうだった。
ただ一つ、トァザは教えてくれた。
「あいつは絶対に闘技士じゃない。整備士だろう……」
「……」私は何も言えず目を見開いた。
トァザは何か知っているらしい。嘘を言っているとは思えない……なら、アンダー・アーロンは生体のまま自身の眼を技巧に取り替えたということになる。それは信じがたいことだ。
それに、彼が整備士ならば、闘技士は――
私は懐中時計を取り出して時刻を確認する。
「50分に両者挨拶。……とにかく、リングへ行きましょう」私はトァザの大きな手を取り立ち上がる。