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第4話 学校

秘密基地に到着し左腕の時計を見ると、時刻は六時二十分。これは…かなり早いんじゃないか。ダラダラと自転車こいてる時よりも下手したら早いぞ、そんなことをふと思ったが、それよりも昨日の快僕天だ。

 ひょっとして昨日は暗くて見づらかったから気付かなかったのでは。もしくは作者休載みたいな記載が目次にあったのでは。それが僕の深層意識に実は焼き付いていてリンネ先生の夢を見てしまったのかと勝手に自分のことを分析していた。

頼む、あってくれ!リンネ先生の後編よ、あってくれともう一度快僕天を読み直した。しかし、やはりそこにはリンネ先生のリの字も見つからなかった。はあ、やっぱりないか。リンネ先生が見つからないのを諦めつつも他の先生たちの作品を読みふけっていた。

「そろそろかな」

時計を見ると六時四十分、走って帰らないと。快僕天を本棚にしまった時に気付いた。

「あれ…とんでる」

 今僕が読んでいた快僕天が7月号で、リンネ先生の前編が載っているのが5月号。6月号が存在しないではないか。そうか、そういうことだったのか。ここに定期的に素晴らしい本を置いていく人が6月号を忘れたのが問題だったのか。謎が解明すると頭のもやもやがスッキリして、爽快な気分で家へと駆けだした。


「た、ただいま」

 帰りの方が疲れてペースが遅くなるという簡単な事実をすっかり忘れていた。息が上がって、それ以外に何も言うことができなかった。

「おかえりなさいって、賢治、どれだけ走ってたの。すごい汗よ。シャワーさっさと浴びてきなさい」

「うん…、そう…する」

 シャワーで体をサッと洗ってから急いで朝食を食べて学校へ向かった。あまりのスムーズさにこれは30秒で支度できたのではないかと思ってしまった。早朝ランニングもそうだけど本気になった時の自分の才能が怖い。


 1年2組、自分の教室に入ると、いつも通り教室内は騒がしく昨日のテレビの話や部活の話、ネットの話で盛り上がっていた。

「針井、おはよー」

「おう、田中おはよう」

 席についてカバンの中身を机の中に入れていると、クラスメイトの田中があごの肉をタプタプと揺らしながらやってきた。

「早速だけど、針井!頼む数学の宿題を見せてくれないか」

「またか、別にいいけど、テストの時苦労するの自分だぞ」

「へへー、ありがとうございます。大丈夫、テストになったらその時また頑張るから!」

 田中は小学校の頃からの仲であるが、計画性がなく人生を勢いで生きてきたようなやつだ。毎年夏休みの最後には宿題が終わっていないと青い顔でやってくるけど、なんだかんだで憎めないやつだからついつい頼まれると許してしまう。

「針井君はいつも優しいねー」

「ん、ま、まあ田中とは長いからね」

 隣の席の篠田さんが笑顔で話しかけてきた。ツインテール(快僕天で覚えたワードだ)が似合う素敵な少女なんだけど、せっかく話しかけてくれても緊張してしまってうまく返すことができない。

「針井は勉強が得意だから仲良くなっとくとすげー頼りになるよ。宿題も見せてくれるし」

「バカ野郎、俺は何でも屋じゃないんだから自分で宿題やれよ。」

 そんな掛け合いをしていると篠田さんがくすくす笑いながら僕たちを見ていた。笑うとできるえくぼがとてもかわいらしく見ていて僕の体温が少し上がった。

ああ、今日はすごいいい日になりそうだ。


 給食を食べ終わって、5時間目の授業は社会だった。社会の先生は催眠光線をだすともっぱらの評判で今日もクラスメイトの半分が眠りこけていた。

 普段の僕だったら、その中でもしっかりノートを取っていたのだけれどお昼ご飯を食べた後だからか、それとも朝早く起きすぎたせいか、うとうととし始めていた。

「良かったわね、私がいない理由が分かって」

「あれ…リンネ先生…」

 目の前には早朝出会った時と同じく薄着のリンネ先生が立っていた。教室には不釣り合いな格好で、これは夢であるとすぐに分かった。僕とリンネ先生以外がいない教室で、リンネ先生は教壇からつかつかと僕の席へと向かってきた。

「こんなところにも来るの?」

「あなたが必要としてれば、いつでもどこでも出てくるわよ」

 そういうとリンネ先生は顔を僕の方へ近づけた。机に座る僕に対して前かがみになったものだからリンネ先生の胸がちらと見えていた。

「それで、どうするの?」

「へ、いったい何を?」

「多分、森の神は快僕天が一月飛ばしになってるの気付いてないんじゃないの」

 リンネ先生が素晴らしい本を置いていってくれる、ありがたやの存在を森の神と言ってのけた。そうか、あんなところに定期的に僕の好きなものを置いていってくれるんだから、もしかしたら神様の仕業かもしれないな。などとぼんやり考えた後、後半の言葉の意味に気付いた。

「言われてみればそうだ。あれ、ってことは…困るぞ。リンネ先生の話の続きが読めないじゃんか」

「そうなのよ。そこを分かってほしかったの。私も君に早く会いたいのよ。でも、中々気付いてくれないからびっくりしちゃったわよ。そんなに鈍感じゃあこれから苦労するわよ」

「鈍感って、そんなことないと思うけど。いや、そんなことよりもどうしよう…」

 どうすれば快僕天6月号に会えるんだ?いいアイデアが浮かばず、考え込んでしまった。どうすれば。


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