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第3話 朝、走る

ふう。宿題もなんとか終わったしもう寝よう。時計は10時を回っていた。


 夢、夢を見ている。真っ白な部屋の真ん中で僕はベッドから体を起こした。

「起きた?」

「えっと、あなたは」

 目の前には豊満な体つきでやたら薄着なお姉さんが立っていた。初めて会ったはずなのに、どこかで見たような違和感があった。

「私はリンネよ」

「リンネって、…あの快僕天で僕が楽しみにしているナースもののエッチな漫画を描いてるあの先生!?」

「ふふっ、そうよ」

 長い髪を手で掻き上げた後、リンネ先生の細長い指先が僕のあごを優しくなでた。これは夢か。きっと、夢なんだろう。それにしても、リンネ先生がこんなわがままボディで艶のある、女性だったとは。マンガから抜き出てきたような、大きな瞳でこちらをじっと見てくるので目をそらしてしまった。

「あの、それでこれは一体…」

 お母さん以外の女の人と二人っきりになるなんて初めてで、緊張してしまい言葉がうまく出てこない。下を向いてぼそぼそと口に出した。

「一体ってことはないんじゃない?あなたが私に会いたいっていう凄まじい念が私を生み出してここでしゃべっているんだから」

「そ、そうでしたか。っていうことは快僕天のあの続きを教えてくれるっていうことですか!?」

 リンネ先生の発言に驚いて振り向くと、ベッドに座っている僕に対して彼女は顔をじりじりと近づけていた。

「ふふっ、残念だけどそれはできないわ。簡単に見せない、触らせない、持たせないって決めてるの」

 僕のおでこをちょんとつついた。

「そんな…、じゃあなんでここに来たのさ」

「ちょっとしたご挨拶よ」

 僕の耳元でそう囁くとリンネ先生は煙のように消えてしまった。


 朝、まだ完全に明るくはなっていない5時ちょっと過ぎたころに目が覚めた。夢で見たリンネ先生を思い出しては心臓がドキドキしていた。まさかリンネ先生があんなナイスバディお色気お姉さんだったなんて。天は二物を与えたか。それにしても、こんな時間に目が覚めるとは、やっぱり昨日置かれた快僕天のことが気になって起きてしまったのだろうか。一度聖地のことが頭をよぎってしまったら二度寝どころではなくなってしまった。

 うーん、リンネ先生が夢で出るってことは何か神のお告げみたいなのでもあるのかなあ。

(気になるなら今から行っちゃえばいいじゃない)

 幻聴だろうか、リンネ先生の声が聞こえた気がした。ダメだここまで来たらもう、そのまま学校に行っても授業に集中できそうにない。

 そうときたら善は急げ、中学指定の真っ青なジャージに着替え、僕は家を出ようとした。

「あら、賢治。どこに行くの」

 朝食とお弁当を作るためにお母さんがもう台所で料理を行っていた。

「えっと、ジョギング。もうそろそろスポーツテストがあるんだ」

 スポーツテストがあるのは嘘ではないけれど、体育が苦手な僕が言うと不自然か?とドキドキしながら答えた。お母さんは「そうなの」とあまり不思議には思わなかったようで、疲れて学校で寝ないようにと釘だけ刺された。

 さて、今が6時で7時には朝ごはんが並ぶことを考えると、自由時間は一時間だ。そして普段自転車で通っている聖地へと歩きで行ったのでは往復で1時間以上かかってしまうのは間違いない。となると全力!全力で走るしかない。

 外の光を浴びて、爽やかな朝を感じたかったが、そんな余裕はない。一分一秒も無駄にできない。中学への入学祝いに親戚のおじさんが買ってくれた腕時計を確認して、全力疾走で聖地へと向かった。

 わき腹が痛い、肉体がさっそく止まれと僕に警告を発信してきた。僕は運動は得意ではない、体育の時間はどうにも苦手でつねに端っこで過ごしていた。サッカーでは、ディフェンダーとして棒立ち、バスケットではパス専門。休み時間は外で遊ぶこともなく、図書室で時間をつぶしていた。そしてその苦手意識がさらに僕を運動不足へ導いていた、悪循環だ。わかっていたけど、苦しい、だけどこのペースで行けば10分は読める!快僕天というニンジンを頭の中でちらつかせて気合いを入れなおした。犬の散歩をしているおじいさんを後ろからブチ抜き、森へと急いだ。進むんだ。前へ、前へ。


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