表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

第2話 晩ごはん

「ただいま」

 家に帰ると、お父さんが晩ご飯を並べていた。

「おっ、おかえり。手洗ったら、賢治も準備手伝って」

 時計を見ると7時少し前だった。本があるか確認するだけのつもりだったのに、つい時間がかかってしまった。

「うん…分かった」

「なんだ、元気ないけど、何かあったのか」

「いや、そんなことないよ。うん、まあ手洗ってくるから待っててよ」

 少しぼんやりしていたのが、お父さんにバレるとは。ちょっと気持ちを落ち着けないといけないな。洗面台で手洗いうがいをして、気持ちを切り替えた。。


「いただきます」

 お父さん、お母さんがテーブルに着いて、三人手を合わせて唱和した。ごはん、お味噌汁、揚げたての唐揚げにパプリカやトマトで彩られたサラダが食卓に並んでいた。できたてのおいしいご飯をもりもりと口に運んでいった。

「最近、よく食べるようになったなあ。成長期か」

「ん、うん。なんか、お腹が良く減るんだよね」

 なんかと言ったが実際はお腹が減ってる理由は自分でもよく分かってる。最近、森に足繁く通う回数が圧倒的に増えているからだ。

「ご飯、おかわりもあるからしっかり食べとけよ。大きくなれる時になっとかないとなあ」

 口に唐揚げが入っているので、軽くうなずいて返事をした。お父さんはあまり勉強とかにはとやかく口を出さないけれど、よく食べてよく寝るということにだけやたらうるさい。僕はクラス内でも真ん中くらいの背の高さだし、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかとは思うけれど。

「それにしても…、ちょっと出遅れて入りにくいかもしれないけどせっかくだから部活に入ってみたらどうだ?足の骨折ももう大丈夫なんだろ」

「ん…うん、そうだね…」

 中学生になる前の春休み、僕はそのころ、裏山で修業をしていた。文字通りの修行で、空き缶に向けての射撃や木登り、森の探検をしていた。友達の家で見た外国映画で主人公がたくさんの敵を森の中でバッタバッタと倒すのがとても格好良く映り、僕もこうなりたいと強くあこがれた。ケガをしたあの日、僕は頭の中でたくさんの敵を描いてそれと戦っていた。伝説のソルジャーである僕を追って山狩りをする兵士たち、そいつらを右手に持ったコルトパイソンで撃退していった。最後の敵を木の上から狙撃した後、降りようとしたらちょうどいい太さのツタがそばにあり、これを使って降りようとしたのが良くなかった。飛び降りた瞬間ツタがブチっと切れて態勢を崩してしまい、足が変な角度のまま着地をしてしまった。

 その後は本当に最悪だった。痛い足を引きずり泣きながら家に帰ったが、親から何故けがをしたのか延々理由を聞かれた。森でケガをしたと言ったらそれまでだけど、『一人で』森の中、見えない敵と戦っていたっていうのがみっともないっていうことくらいさすがに分かる。無理矢理な嘘をついたけどごまかしきれたのかは未だにわからない。

 結局、右足を骨折してしまい、中学の入学式では変に目立ってしまった。それだけならまだしも貴重な仮入部期間をまっすぐ家に帰っていたせいでどこにも入れず、そのまま帰宅部に一直線してしまった。

「いいのよ。無理して部活なんて入らないで」

 お母さんがお父さんの勧めをやんわりと否定した。

「いや、でも折角だし」

「いいのよ!別に部活に入ったって意味ないでしょ!将来何の役にもたたないんだから。それにまたケガをしたらどうするのよ」

 お父さんが食い下がろうとするとお母さんの強い抗議に遭い、そこでこの話はおしまいになった。お父さんにしては珍しくお母さんを怒らせていた。止めておけばいいのにと思いながら僕はひたすら沈黙の中、ご飯を食べていた。ああ、こういう時テレビでも点いてれば気が楽なんだけどなあ。

 僕の家では食事中のテレビはご法度だ。テレビを見ながらの食事は行儀が悪いという理由だ。小学生のころクラスメイトにその話をしたら珍しいと驚かれた。それ以外にも変わっているところはあった。友達の家に行くと当然あるようなマンガもなければネットもない。ゲームなんてものももちろん存在しないという事だ。別に貧乏っていうわけではないと思うけれど、お母さんがそれらをすごく嫌っていて全く買ってくれなかった。小学生のころ友達が遊びに来た時、遊ぶものが全くなくてとても驚いていたのを覚えている。それ以来、家に呼ぶのは恥ずかしくて友達を誘うことはなくなっていった。

「ごちそうさま」

 沈黙が続く中、自分の食器を流しに片付けると自分の部屋へ戻っていった。

 宿題をやらないとお母さんはうるさい。ほかの家もそうなんだとは思うけど、たぶん家はより厳しいと思う。今までは気にしてなかったけど、毎回テストの成績を聞いてくる。そして少しでも悪い点数を取ると、すぐに塾に入れようとしてくるので、勉強だけはしっかりやらないといけない。まあ、勉強はやればやるだけ点数が上がるから嫌いではないけれど。

 ううむ。いつもより宿題の進みが遅い。宿題の数学が難しいとかではない、原因は分かっている。夕方の快僕天だ。新しい快僕天が置かれていたがそこには僕が気になっていたナースのお姉さんの話の続きがなかったのだ。

 ああっ畜生!足を骨折して入院した主人公とナースさんはあの後どうなったんだよ!くそっ、僕も入院してればあんなエッチな目に遭えたのか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ