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私の恋が冷めるまで

作者:

 私は彼に恋をした。

彼と出会ったのは、高校への通学の電車内だった。初めて見かけたとき、もう私の心は彼のものだった。すらりと背が高く、柔らかそうなサラサラの髪をしていた。そして特に、切れ長の涼しい目元が印象的だった。彼は、県内でも有名な私立の進学校のブレザーを着ていて、いつも途中の駅で降りて行った。観察していると、彼は景色を眺める他に、本を読んでいることが多かった。それは誰でも知っているような文豪の小説ばかりで、余計に彼を素敵に見せた。物憂げな視線で、本や景色を眺めている彼を見るのが好きだった。更に私を夢中にさせたのは、彼の行動だった。彼は、妊婦や高齢者が近くに来ると、無言でさり気なく席を譲った。その押しつけがましくない親切に、私は彼の優しさを想像し、さらに思いを募らせるようになった。

 そんなある日、私はついに彼に告白しようと決意した。決行の日、私は彼と同じ駅で降りて、彼を呼び止めた。「話があります」と、駅のホームの端に彼を引っ張って行って、告白した。

「あの、私、毎日あなたと同じ電車に乗っていて。それで、あなたの事好きになってしまって。お友達だちからでいいので、仲良くしてもらえませんか」

彼は、その涼し気な目でじっと私を見つめた。心臓がバクバクして、汗が流れる。断られるかもしれない。こんなに格好よくて素敵な人だから、彼女だっているかもしれない。それでも、この人と少しでも仲良くなりたい。私は祈るような気持ちで俯いたまま、返事を待った。

「はあ、吾輩ですか」

相手の口から洩れた言葉に思考停止した私は、顔を上げた。

「それは吝かじゃありませんけどもね。ただ、お見受けしたところ、貴女とは全く面識がありません。ですから、貴女が一体吾輩のどこに懸想してくだすったのか、さっぱり分かりかねるわけです。吾輩の性行を一斑でもご承知ですか。もしも貴女が、吾輩の見た目だけで恋着していらっしゃるのであれば、お門違いです。それから……」

「あ、だいじょぶです。気のせいでした」

「はい?」

「あの、気のせいだったので大丈夫です。気にしないでください」

私はやってきた電車にでたらめに飛び込んだ。何なの? 吾輩って何なの?

「こんなことある? 一瞬で冷めちゃった…………」

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