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ハピエンな短編

気高く咲き誇る百合のように。

掲載日:2023/02/10

 

 

 

 私は今日、結婚する――――。

 

 オートクチュールの純白のドレスを身に纏い、麦藁色の髪はシニヨンにまとめられている。

 その上から百合の花冠をそっと乗せる。

 

 花嫁は、百合のように美しく、優しく、繊細であれ。

 百合の花冠は、夫への忠誠。

 

 夫になる男が、私に誠実でなくとも。

 

 

 

 私には恋人がいた。

 幼い頃から将来を誓いあった恋人、シャルル。

 彼は若くして騎士団に入り、順調に地位を築いていた。

 隊長格になったら結婚しよう。

 そう言いながら、照れくさそうに少しうねった濃い茶色の髪をかき混ぜていた事が、今でも瞼の裏に蘇る。


 この一年、とても忙しくて逢えていなかった。

 そんな折、父の事業が失敗し、多額の負債を抱えることになった。

 我が家に残された道、それは高利貸しからの支援の申し出を受ける事だった。


『支援するかわりに、娘を嫁に』


 とうに五十を過ぎているであろう高利貸しの男の後妻に。


『貴族の娘と縁続きになれば――――』

『気に入りの女は妾に。名前ばかりの妻にする』


 そんな薄汚い事情は隠されもせず、男が私のいる場で話していた。

 父母は泣いて謝った。

 弟たちを、一族を、使用人たちを、選んですまないと。


 私はあの男と結婚することを承諾した。

 シャルルには別れの手紙を書いた。

 届いた返事は、乱れた文字で了承とともに『それでも、私は愛している』と書かれていた。


 気高く咲き誇る白い百合のように、心だけは美しい人でいようと決めた。

 彼が愛してくれている私でありたいから。

 

 

 

 式までもうすぐ。

 準備はできてしまった。

 今までの思い出を、心の奥底の宝箱に閉じ込める。

 薄暗い部屋で上を向き、窓の外に広がる晴れ渡る青空を眺めた。

 真っ白な鳩たちが優雅に飛んでいた。

 この結婚式のために用意されている、愛の象徴の白い鳩。

 

 ――――愛なんて、欠片もないのに。

 

 コンコンと、控えめなノックの音。

 あの男ではない。

 あの男ならば、こちらの状況など気にもせず、無遠慮に扉を開くから。


「はい」


 ゆっくりと開いた扉から現れたのは、幼い頃から知っている人。

 少しうねった濃い茶色の髪が欠点だと思っている、愛しい人。


「アリア」

「……シャ、ルル?」

「遅くなってごめんね、助けに来たよ」

「っ!」


 彼の後ろには王国騎士団が何人もいた。

 更にその後ろの方には、騎士たちに拘束され、口から唾を飛ばしながら叫ぶあの男が見えた。

 

 あの男は、捕まった。

 あの男は、犯罪者だった。


 我が家が陥った危機に違和感を抱いたシャルルが、方々に手を尽くして突き止めた事実。

 すべてあの男が裏で手を回していたらしい。


「もう大丈夫だよ」


 ――――もう、大丈夫?

 

「シャルル……」


 いつの間にか逞しくなったシャルル。

 そんな彼に柔らかく抱きしめられ、私の心は甘く解れた。

 

「アリア、結婚するのなら、私にしてくれないか?」


 新緑の瞳を細め、首を傾げて、おどけたようにそんなことを言う。

 

「っ……ばか」

「それは、イエスでいいんだよね?」

「しらないっ」


 オートクチュールの純白のドレスを身に纏い、夫になるはずだった男とは別の男性に抱きしめられながら、深いキスをした。

 偽りの愛を誓うはずだった百合の花冠が、バサリと床に落ちる。


 私は本当に愛する人に愛される幸せを手に入れた。

 今度こそ、真実の愛を百合の花冠に誓おう。



 

 ── fin ──




閲覧ありがとうございます。


連載中の作品も、大量の短編もありますので、ぜひぜひそちらも(土下座)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王道ファンタジーいいですね! 前半、早く助けに来てー! と願ってたら、いいタイミングで登場! もうハーレクイン読んでる気分でした! [一言] 素敵な幸せ物語ありがとうございましたっ!…
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