08.恋人役の恋
更新お待たせしました!
ヘタレ系残念なイケメンことラファエル視点のお話です!
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陛下のせいで舞踏会に参加することになってしまい、憂鬱な気持ちで会場へ行った。
幸いにもロミルダの恋人役に集中していると、俺に話しかけようと虎視眈々と機会を狙っている女の子たちからの視線に、なんとか耐えられたのだが――。
(ロミルダとのダンスが終わった瞬間に集まってくるなんて聞いていない……!)
あっという間に取り囲まれてしまい、ロミルダとは離れ、完全に逃げ場を失ってしまった。
「ラファエル様が舞踏会に参加してくださって嬉しいですわ! 次はわたくしと踊ってくださいませ!」
「いいえ、わたくしとですわ!」
「抜け駆けは許しませんわ!」
四面を取り囲む女の子たちの手が体に触れてくるものだから、冷や汗が背を伝う。
視界を占める色とりどりのドレスや、化粧品や香水の匂い、そして絶え間なく聞こえてくるダンスを誘う声。
全てに恐怖を感じ、微笑みを崩さずに立っている事がやっとの危機的状況。
(……はぁ。こうなるとわかっていたから舞踏会なんて参加したくなかったのに)
とはいえ陛下に命令されると従うしかない。
宮仕えはとは辛いものだ。
やがて陛下に助け出されて別室に逃げ込むと――陛下から俺の過去を聞いたロミルダが同情して、泣いている俺の為に水を手配してくれた。
女の子たちに取り囲まれて緊張しきっていたせいで、喉がカラカラだったからありがたい。
(ううっ……ロミルダが女神のように見えてきた)
ロミルダは一見冷たいけれど、さりげなく気遣ってくれる、不器用で心優しい人だ。
俺を嫌っている一方で、俺が体調を崩している時はそれとなく声をかけてくれるから。
(他の人が誰も気づかなくても、ロミルダだけは俺の体調の変化に気づいてくれるんだよな)
俺の地位にも容姿にも職業にも関心を示さないが、相棒として気にかけてくれている存在。
そんなロミルダが隠密の相棒で本当に良かった。
(俺が唯一心穏やかに接する事ができる女の子だもんなぁ)
もしロミルダが結婚して隠密を辞めてしまったらどうしよう、なんてぼんやりと考えていると、グラスを手渡すときにロミルダの手が触れた。
俺の女性恐怖症を気にしたロミルダが謝ってくれたが、不思議と恐怖心を感じなかった。
(手を繋ぐ練習やダンスを練習するときは少し怖かったけれど……今は全く怖くなかった……)
それどころか、もっと触れたいとさえ思う。
そのような事をロミルダに言うと、やはり軟派だと言って嫌われそうだから、言えないけれど。
(ロミルダにもっと触れたいという事はつまり……俺は、ロミルダを好いているからなのか?)
騎士団の遠征中に聞いた部下たちの会話を思い出す。
彼らは確か、好きな人にはずっと触れていたくなると言っていた。
(あの時は彼らの気持ちを理解できなかったが……今ならわかる)
俺は目の前にあるロミルダの手を見た。
色が白くて指が長く、爪を綺麗に切り揃えている手。
女性らしいしなやさがあるものの、武器を扱ったり侍女の仕事をしているためか、引き締まっている。
その手にどうしても触れたくて、失礼と分かっていながら彼女の手を取った。
一本ずつ指を絡ませて繋ぐと、心が温かなもので満たされる。
(あ、ロミルダが驚いている)
ロミルダが繋がれている自分の手を見て瞠目している。
いつもは冷静なロミルダが驚くなんて珍しい。
今までに見た事がないその表情があまりにも可愛いくて、頬が緩む。
(すごく可愛い。他の表情も見てみたい)
ロミルダが俺の手と顔を見比べて眉を下げている。
俺の手をどうするべきか悩んでいるようだ。
次はどんな表情を見せてくれるのだろうかと思うと、ロミルダから視線を外せない。
恐らく俺は自分が想像している以上にロミルダに惹かれている。
女性恐怖症の俺が恋に浮かれる日が来るとは思ってもみなかった。
(恋人役ではなく、本当に恋人に――いや、妻になってくれたらいいのに……)
そんな熱を込めて、ロミルダを見つめた。




