表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/35

06.手を繋ぐだけの困難な授業です

あけましておめでとうございます!

本年もよろしくお願いします!

 私はラファエルを連れて、王宮の外れにある人気のない宮殿の近くへ行く。


 ここは昔、現王の姉君が使っていた宮殿だ。

 以前は絵画の中に迷い込んだかのように美しい場所だったが、主がいない今はすっかり寂れている。


 周囲に人影がないのを確認してから、掴んでいたラファエルの腕を放した。

 

「ラファエル先生。授業の前に、私に言う事がありますよね?」

「遅れて申し訳ございませんでした……」


 ラファエルはいつになくしおらしく、俯いて謝罪の言葉を口にした。

 

(なんだ。意外と罪悪感を感じているのね)


 てっきり軽い調子で心のこもっていない謝罪をするだろうと思っていたから拍子抜けした。


「次からは時間通りに来てください。あなたが望んでいなくても、これも任務なのですから」

「え、ええと……俺は……その……」


 気乗りしないでいる事がバレて気まずいのか、ラファエルは口籠る。


 ハッキリと言わなくても、彼の気持ちはわかる。


 せっかく花のような女性たちに囲まれているのに、わざわざ<鉄仮面>の恋人役に集中しなければならないなんて苦痛だろう。

 

「こんな<鉄仮面>と恋人ごっこをするのが嫌ならさっさと終わらせましょう。それがこの関係を最短で終わらせる方法ですから」

「い、嫌だとは思っていないから!」

「まぁ! <鉄仮面>にも気遣ってくださるなんて、騎士様はお優しいですね」

 

 いっそのこと、嫌ならそうだと言ってくれた方が気が楽だ。


 変に気を遣われていると、かえって惨めで割り切れない気持ちになるから。


「それでは、時間がないのでさっさと授業を始めてください」

「ひえっ!」

 

 内心毒づきながらラファエルの手に触れると、ラファエルの肩が跳ねる。


(飛び上がるほど苦手なくせに、どこが「嫌だと思っていない」のよ?!)

 

 ギロリと睨みつけると、ラファエルは笑顔を取り繕って私の手を握り返す。


 しかし触れている手は、不自然に力が入っている。おまけに逃げ腰だ。


「……ラファエル。いつも女性たちに触れている時と同じようにしてください」

「いつもは触れたりしないよ」

「騎士様、嘘は良くありません」

「本当だよ~! 俺からは女の子たちに触れていないからね?」

「あんなにも笑顔で囲まれているのに触れていないなんて、俄には信じられないのですが?」

「そ、それは……! 抜け出したくても抜け出せなくてね」

「御託は結構です」


 ただ手を握るだけでいいのに、どうしてこんなにも上手くいかないのだろう。


 これでは恋人を演じるなんて、到底無理な話だ。

 

 想像以上に厄介な事態に、溜息をつきたくなる。


「気が乗らないのであれば、この<鉄仮面>を魔法で他の顔に変えるようにしますけど、どうします?」

「え?! 絶っっっっ対に変えないで! ロミルダの顔がいい。ロミルダの顔以外は絶対無理!」

「……は?」


 ラファエルの勢いに押されてしまい、言葉が続かなかった。


 彼はごくりと唾を飲み込むと、両手を使い、仰々しいほど丁寧に私の手に触れる。


「ロミルダの手……滑らかい。綺麗……細い……」

「いちいち分析して声に出されると気持ちが悪いので止めてください」

「あ、ご、ごめん……」


 指摘すると、頬を微かに染めて眉尻を下げる。


 なんでラファエルの方が乙女みたいな顔をしているのかわからない。


「それに、これでは手を繋いでいるとは言い難いと思います。しいて言うなら、手を触られているだけだと思うのですが?」

「えっ……そ、そうだね! じゃあ、手を繋ごうか!」

 

 慌ててパッと手を離したラファエルにもう一度手を差し出すと、彼の大きな手に繋がれる。


 しかしその繋ぎ方は子ども同士がするようなもので、恋人同士がするものとは言い難い。


(この男、まさかどの女性に対しても、このような初々しさを演じてみせているの?)


 とんだ策士だなと軽蔑しつつ、ラファエルの指に私の指を絡ませると、ラファエルが「ひえっ」とまた情けない声を上げる。

 

(どうして、まるで私に襲われているかのような悲鳴を上げるのかなぁ……)

 

 ハッキリ言って、ラファエルは女性なら誰とでもどんな事でもできる奴だと思っていただけに肩透かしを食らった気分だ。

 

 これからどうするべきかと手をこまねいていると、陛下の憎たらしい笑い声が聞こえてきた。


「おやおや、こんなところでイチャついているとは、二人揃って仕事熱心だな」

「いいえ。私が城内で観察してきた恋人たちとは比べものにらないイチャつきようです」


 皮肉たっぷりに言い返すと、陛下はますます上機嫌になる。


 この人は本当に、性格が悪い。


「いい事を思いついた。二人で舞踏会に参加しろ。そうする方が効率良く恋人らしさを演出できる」

「しかし……舞踏会はいつも隠密としての任務があるので参加できません」

「私がいいと言っているのだから遠慮するな。もし参加せずに隠密の仕事をするのであれば、不届き者として騎士たちに捕らえさせるぞ」

「暴君め」

「心外だな。これも王国の平和の為だ」


 な~にが王国の平和の為だ、と毒づいてみせたが、陛下の意思が固く……。

 私とラファエルは今度王宮で開かれる舞踏会に一緒に参加することになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あけましておめでとうございます! 国王ポジ、楽しそうですね(*´Д`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ