薔薇騎士様の最愛
「ロミルダを俺にください!」
「ぐぬぬっ……」
養父がまた呻いた。歯を食いしばり、わなわなと震えていたが、やがて観念したかのように、ぐったりと力を抜いて項垂れた。
「確かにバルヒェット卿は約束を守りました。……だから私も守りましょう。ロミルダが承諾するなら、いいでしょう」
「ありがとうございます! お義父さん!」
「まだ貴殿の義父ではありません!」
「ひいっ! ごめんなさい!」
養父の怒号に驚いたラファエルは、寝台の上で大きく跳ねた。そして、寝台の外に転げ落ちてしまった。
その様子を見ていた国王陛下が、手を叩いて笑っている。私も思わず笑い声を零してしまった。
「あははっ、ラファエルったら、そんなに飛び跳ねたら傷に障りますよ」
周囲から、息を呑む声が聞こえてきた。見ると、国王陛下も養父も、そしてお兄様も大きく目を見開いて私を見ている。
「ロミルダもあんな風に笑うのだな」
「ええ……私も、ロミルダがあのように笑う姿を初めて見ました」
国王陛下と養父が口々に言うと、お兄様がそれに同意するように頷く。
まるで珍獣を見たかのような反応だ。
ラファエルはというと――床の上に転がったまま、片手で口元を覆い、潤んだ目で私を見つめている。
「ロミルダが大笑いした……! 可愛い……!」
ラファエルにそう言われた途端、自分の頬が熱くなるのを感じた。
可愛いと言われることに免疫がないせいで、どうしようもなく落ち着かない。
それに、国王陛下のニヤニヤした視線を感じ取ったせいで、いたたまれない気持ちになってしまった。
私は屈んで、ラファエルの背に手を添えて助け起こす。
「ありがとう、ロミルダ」
ふにゃりと笑ってみせてくれるラファエルのことが、ただただ愛おしい。
危険な任務で無茶をするのは止めてほしいけれど、私のために約束を果たすために全力で任務に挑んでくれたことは嬉しかった。
私は空いている方の手でラファエルの左手を掬い上げる。ラファエルはきょとんと首を傾げたけど、すぐに手を動かして、私の指に自分の指を絡ませると、嬉しそうに口元を綻ばせる。
ラファエルは私を可愛いと言ってくれたけど、私からすると、ラファエルの方が何百倍も可愛い気がする。
「ラファエル、心優しくてひたむきなあなたを愛しています。――私と結婚してくれますか?」
「――っ、もちろん!」
ラファエルは勢いよく答えた後で、「あっ」と小さく声を零す。
「今からプロポーズしようと思っていたのに、ロミルダに先を越されちゃった……」
「そうだったのですね。ラファエルがあまりにも愛おしい事ばかりするので、つい言ってしまいました」
「ロミルダ……」
ラファエルは頬を赤くして私を見つめると、繋いでいる手を持ち上げて、私の手の甲にキスをした。
「ロミルダに誓うよ。これからずっと、永遠に――ロミルダだけを愛して、ロミルダを幸せにする。だからずっと、そばにいてね?」
「望むところです」
私は目を閉じて、ラファエルに口づけをした。途端に、ラファエルは繋いでいた手を離して私を抱きしめてくる。片手を動かして私の頭にそっと手を添えてくると、まるで私を逃さないとでも言わんばかりに、ラファエルの唇が私の唇を食んだ。
「おのれバルヒェット卿、ロミルダを離さんか……!」
「まあまあ、二人の記念すべき日なのだから大目に見たまえ。フランツも、そのナイフをしまえ」
養父と国王陛下の声が聞こえてきたけれど、私たちは離れていた時間を補うように、離れなかった。
それから一年後、私とラファエルは、晴れて結婚した。
結婚式は、国王陛下と王妃殿下、そして養家族とお兄様とラファエルの父が張り切って準備をしたため、国王陛下と王妃殿下の結婚式並みに盛大なものとなった。
その後、ラファエルは美しく愛妻家の薔薇騎士様として、歴史に名を残した。
何年経っても、彼は毎日、美しい顔を蕩けさせて愛を囁いてくれた。
ラファエルの愛情のおかげで、かつて鉄仮面の侍女と呼ばれるほど笑わなかった私は、いつの間にか、微笑みの侍女と呼ばれるようになるほど、幸せな生活を送っている。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。そして、その後のお話をリクエストしていただき本当にありがとうございました!
ロミルダとラファエルの、でこぼこコンビのその後のお話をお楽しみいただけましたら嬉しいです。
それでは、新しい物語の世界でまたお会いしましょう!




