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25.お砂糖ちゃんと呼ばれた令嬢のお話

     ***


 初めて出会った時からずっとラファエル様を想い続けてきたのに、ある日いきなり、ロミルダ・ブランに横取りされてしまった。


 二人が毎日会っている様子を見せつけてくるものだから、来る日も来る日も不満と怒りが募るばかりで。

 その鬱憤を晴らすために買い物に出かけた宝飾品店で、偶然、ラファエル様とその同僚たちを見かけた。

 

「ラファエル様が宝飾品店で買い物なんて珍しいわね」


 これまでにラファエル様の噂をたくさん聞いたけれど、彼がこのような店を訪れた話は聞いたことがない。


 いったい何を買いに来たのだろうと、息を潜めて近づいてみると、ラファエル様は女性ものの首飾りを手に持っている。


(ま、まさか……贈り物?)

 

 悪い予想は当たり、ラファエル様と一緒に店に来ている同僚たちが、しきりに囃し立てている。

 聞こえてくる同僚たちの話によると、どうやらロミルダ・ブランへの贈り物らしい。


 耐え切れないほどの絶望感に押し流され、気づけば店から出てしまっていた。


 こんなにも惨めな気持ちのまま知り合いと顔を合わせたくなかった私は路地裏に身を隠した。


 静かな場所にいると、惨めな気持ちが次第に苛立ちへと変換されていく。


「ロミルダ・ブラン! 本当に許せないわ!」

 

 この私からラファエル様を奪っておいて、ただではおかないわ。

 

 私の方が先にラファエル様と出会っているのに。

 私は子どもの頃からずっとラファエル様をお慕い続けているのに。

 私ならラファエル様の隣に並んでも見栄えするのに。

 

「どうしてラファエル様はあんな不愛想な<鉄仮面>がいいの?!」


 ラファエル様とロミルダ・ブランが恋人だという噂を聞いたあの日から、何もかもが面白くない。


 初めは私と同じように不満を言っていた仲間がいたのに、ラファエル様がロミルダ・ブランを庇ってからは何も言わなくなってしまった。


(ラファエル様をお慕いしていると言っても、所詮はその程度の気持ちだったのね。でも、私は違うわ)


 初めてラファエル様に会ったその日から、ラファエル様に相応しい妻になるべく努力を重ねてきたのに、そう簡単に諦められない。


 だからもう一度ロミルダ・ブランに会ってラファエル様と別れるよう説得しようとしたのに、ロミルダ・ブランは私を見るなり、「お砂糖ちゃん」呼ばわりしてバカにしては、私の話に全く耳を貸さずに立ち去ってしまった。


「本当に腹立たしい! あの<鉄仮面>に一泡吹かせてやりたいわ!」


 恥をかかせ、痛い思いをさせて、身の程を知らしめてやりたい。

 私からラファエル様を奪っておいて幸せになるなんて許せないから。


(嫌がらせをしても全く手ごたえがないし、イライラするばっかりだから嫌になっちゃう)


 あの澄ました顔を思い出すと、その場で地団太を踏みたいくらいの悔しさと恨めしさがこみ上げてくる。


 扇子を持つ手に力を込めて耐えていると、扇子がミシミシと軋む音を上げた。

 

「――その<鉄仮面>について、教えていただけませんか?」

「え?」


 いつの間に現れたのか、黒髪の男性が私の隣にいて、話しかけてきた。

 

 端正な顔立ちのその男性は、艶やかな髪を撫でつけて整えており、上品に微笑んでいる。

 服装は濃紺の生地に銀糸で刺繍を施した三つ揃えで、貴族らしい身なりだ。

 

 これまでに何度もパーティーに行ったから大抵の貴族の子息の顔を知っているのに、この人は一度も見かけたことがない。

 

 得体のしれない相手に警戒して、一歩下がったのだけれど、運悪く建物の壁に背をぶつけてしまった。


 心臓が早鐘を打ち鳴らし始め、声が上ずる。

 

「あなた、誰?」

「私はベルファス王国の外交官補佐のフィリベール・アダンと申します。お嬢様の美貌に惹かれてしまい、声をかけてしまいましたことをお許しください」

「あら、そうでしたの。それなら構わなくてよ」

 

 相手の正体がわかって胸を撫で下ろした。

 異国の貴族なら顔を知らなくても当然だ。

 

「貴族なの?」

「はい。父は辺境伯をしております。私は三男ですので、兄が後を継ぐ予定です」

「そうなのね」

 

 どうりで見るからに高級そうな仕立ての服を着ているわけね。

 それに、こんなにも綺麗な顔をしているのだから、平民であるはずがないわね。

 

 彼の銀色の瞳はこの国ではなかなか見かけない色彩だから、思わず視線が向いてしまう。

 

(ラファエル様には及ばないけれど、なかなかの美男子ね)


 観察していると、フィリベール様はもう一度ロミルダ・ブランについておしえてほしいと催促してきた。


 彼もまたロミルダ・ブランに魅了されているようで、内心むしゃくしゃする。


「財務大臣の娘で、国王陛下付きの侍女ですわ」

「ふむ。国王専属の侍女となると、優秀な方なのですね。ぜひとも我が国に迎え入れたいものです」

「魔法人形のように動く不愛想な人よ」

「仕事ができるのなら愛想がなくても構いません。我が国は実力主義ですから」

「あら、そう。この国では<鉄仮面>と呼ばれて周囲から浮いている彼女にとっては、あなたの国の方が過ごしやすいかもしれませんわね」

 

 ロミルダ・ブランばかりが評価されている状況が気に食わなくて嫌味を零してしまったけれど、フィリベール様は少しも不快さを見せなくて。

 それどころか、私の嫌味に同意するように頷いた。


「なるほど。よろしければ、私がベルファス王国に彼女を連れて帰りましょうか?」

「ど、どうやって?」

「ロミルダ・ブランを私と引き合わせてください。私が彼女に交渉して、我が国に招きましょう。そうすれば、あなたは意中の相手を手に入れられるのではないでしょうか?」

「そう簡単にはいかないわよ。だって、国王陛下付きの侍女がすぐに辞められるわけがないでしょう?」

「正攻法を使えば難しいですけど、私はその道に長けているのでご心配なく。誰にも気づかれずに彼女を国外に連れ出せます」

「ず、随分と物騒な方ですのね」

「ベルファス王国は弱肉強食の世界ですから、誠実で弱い者は生きてはいけません」

「……!」

 

 彼の言葉に動揺して、足が小刻みに震え始めた。

 正直に言うと、フィリベール様のことが怖くなってきたわ。


(もしかすると、ロミルダ・ブランを誘拐する可能性もあるわよね?)

 

 それでもいいのかもしれない。

 彼がどのような手段を取ったとしても、ロミルダ・ブランとラファエル様を引き離せるのなら。


(むしろ好都合だわ)


 あの澄ました顔が崩れる様を想像するだけで胸の内がすっと軽くなり、口元が緩む。

 

「その話、乗るわ」

「ありがとうございます。それでは、明日のベルファス王国歓迎パーティーの間に、彼女を人気がない場所に連れ出してください」

「わかりましたわ。王宮の庭園に、今は使われていない物置小屋がありますからそこに来てくださいませ」

「それでは、彼女をそこに連れてきてくださいね?」

「必ず連れてきますから楽しみにしてくださいませ」

 

 いとも簡単に目の上のたん瘤をかたづけられるなんて運がいい。


(ロミルダ・ブランが失踪して、落ち込んでいるラファエル様を慰めて差しあげなきゃいけないわね)

 

 そうして今度こそ、ラファエル様を私のものにしよう。

 明るい未来を想像すると、鬱憤が全て消え去ってくれた。

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