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13.任務の進捗はすこぶる上々です

 翌日、陛下の執務室へ行くと、とびきり性格の悪そうな笑みを浮かべた陛下が私を待っていた。


「昨日は楽しい夜を過ごしたようだな」


 第一声がこれなのだから、本当にどうしようもない確信犯だ。


「おかげさまで、スリルに満ち溢れた夜を過ごしました」

「そのようだな。今朝はどこを歩いてもラファエルの求婚の話で持ちきりだったぞ」


 あれからまだ一日も経っていないのに、王都の一角で起こったことの噂が王城にまで広まっているなんて尋常ではない速さだ。

 噂の拡散力は侮れないわね。


「まさかこんなことになるなんて……」

「任務が順調に進んでいる証拠だ。素直に喜べ」


 私たちは大変な目に遭っているというのに、ことの元凶は高みから見物しているから恨めしい。

 

「あ~あ、私もあの店に行きたかったな。ぜひとも可愛い甥のラファエルが求婚している様子をその場で見たかったよ」

「お人が悪いですね。誰のせいで女性恐怖症のラファエルが求婚しなければならなくなったとお思いですか?」

 

 きっと今後も悪戯を思いついては、私とラファエルに仕掛けてくるのだろう。

 そして、翻弄されている私たちの様子を見ては高笑いしているに違いない。

 

 被害者側の気持ちを考えてほしいものだ。

 それなのに、私が咎めても陛下は悪びれもしなくて。

 

「私が大臣をけしかけずともラファエルはいずれ求婚していただろう。あれは公爵位を継承するためには結婚せねばならないからな」

「たとえそうだとしても、誰かさんのせいで場当たり的に私なんかに求婚しなければならなくなったんですから、ラファエルが可哀想です」

「ラファエルはロミルダなら怖くないと言っていたのだから、ちょうどいいではないか」

「陛下は結婚を軽く考えすぎです」

「私は真面目だ。ロミルダだって、もうじき結婚しなければ周囲から浮いて隠密ができなくなるのだから今が結婚する頃合いだろう」

「それは……そうですけど」

「だったら、私に感謝していいのだぞ?」


 むしろ恩着せがましい態度をとってくる。

 だから私は言い返す代わりに、大きなため息で応酬した。

 

「それならせめて、先にお父様と打ち合わせしてくださいよ。店の中でカンカンに怒っていて、大変だったんですから」

「盛大に怒っていたそうだな。やはりこの目でその現場を見たかったよ」


 そう言い、陛下は意味ありげにクスリと笑った。

 

「養父が怒っている様子を見て驚いたか?」

「ええ。お父様があんなにも反対するとは思いませんでしたから。お父様の家門もラファエルの家門も、別段仲が悪いというわけではありませんのに、どうして――」

「娘を嫁に出そうとしなかったのか、わからないと?」

「はい。ラファエルの実家――バルヒェット公爵家ほどの優良物件を、どうして頑なに拒もうとするのかわかりません」

「大臣はロミルダのことを、大切な娘と言っていただろう?」

「ええ。それがなにか?」

「それが全てだ。大臣はお前を大切に想っているから政略結婚の駒にするつもりはない」

「……どうして、ですか?」


 私は――ロミルダ・ブランは、元暗殺者としての手腕を陛下に買われて隠密侍女となった。

 陛下の侍女になるには貴族の身分が必要だからブラン伯爵家に迎え入れられたのだ。


 伯爵家の後継者は義兄だから、私はどこかの家門に嫁ぎ――家門同士の結びつきを強くするための駒になるべきなのに。

 

「私が孤児だったから同情しているのですか? それとも、陛下から託された子どもだからですか?」

「全てお前の見当違いだ」

「では、どうしてなのです?」

 

 昨夜、養父と話していた時のように、心が落ち着かなくなる。


 得体のしれない想いが胸を覆うのだ。

 自分の心であるはずなのに、なぜこのような気持ちになるのだろう。

 

 困惑する私に、陛下は答えを教えてくれなくて。

 

「大臣がお前に向ける想いは、簡単な言葉で説明できるものではない」


 ただ、疑問が深まるばかりだ。

 

「ロミルダ、お前は何でも卒なくこなせるが完璧ではない」

「……っ!」


 ――完璧ではない。


 その言葉を聞くと、堪らなく不安に駆られる。

 

「人から与えられた想いを受けとめられる練習をしろ。これも任務だ。ぬかりなく遂行せよ」

「……仰せのままに」


 返事をしたものの、どうすればいいのか、てんでわからなくて。

 途方に暮れつつ、陛下の執務室を後にした。

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