第八話 栄養教諭、その名は藤野風花
グオオオオン! ブウウウン! キキイッ!
「やっ、やっと着いたぁ! 足立主任! 生きてますよ、わたしたち!」
「も、もう緑チャンの運転には、乗らねぇぜぇ・・・・・・。命がいくつあっても足んねぇぜぇー」
緑は教育委員会が所有する八人乗りワゴン車を初めて運転した。普段彼女が乗っているのは、小さな軽自動車。それとは車両感覚がまったく異なるため、非常に危うい運転だったようだ。
柏沼市共同給食センターは、市役所から5キロほど南東に行ったところにある、教育委員会が管轄する出先機関的な部署。毎日、各小中学校や認定こども園の給食を大量調理し、配送している。
所長が一人で施設管理と事務全般を扱っており、栄養教諭は献立の作成や栄養管理、給食物資等の手配をしている。市で雇っている二十名ほどの調理員は、毎日早朝から給食調理に励んでいる。
緑たちがそこへ到着したと同時に、給食センター内から白衣を着た若い女性が出てきた。
「お。緑チャーン! あれが、栄養教諭の藤野先生だぜーぇ! 美人だなぁー。うひょー」
「あれが藤野先生かぁ。・・・・・・ん? あのー・・・・・・足立主任。先生の名前って・・・・・・」
「フルネームか? 藤野風花! 藤野風花先生ってんだぜぇ。女優みてぇな名前だぁー」
「え! やっぱり! 藤野風花先生って、わたし、知ってます!」
「なぁにーっ! な、なんでだぁ!」
「わたし、柏沼高校のオリエンテーションや部活関係で、藤野先輩に面倒見てもらったので!」
「な、なんだってーぇ! そりゃ、すげぇぜぇ! あ、おい。藤野先生が手招きしてんぞぉ!」
緑と足立は急いで車を降り、仁王立ちで手招きする藤野のもとへ駆けつけた。
「学教の紫前って新人から電話受けてさ。温田緑がこっち来るって聞いたから、待ってたよ!」
「やっぱり! 藤野先輩! 藤野先輩だぁ!」
緑は目を輝かせ、藤野の前で何度もバッタのように飛び跳ねる。
「ふ、藤野先生、チィーッス! 今日は、緑チャンのお供で、来たぜぇ」
「相変わらずチャラいなぁ足立主任! ちゃんとしなさい! 高校生や大学生じゃあるまいし!」
「ウ、ウース!」
藤野は、笑って足立を一喝。その威勢に呑まれた足立は、子犬のようにしゅんとしてしまった。
「お久しぶりです藤野先輩っ! 後輩の温田緑です。ほんと、ご無沙汰してます!」
「市職員になったんだね、緑ちゃん! おめでと! 学教は大変でしょ?」
「そーですね。それなりに、いろいろ大変です。でもわたし、一生懸命頑張ります!」
「あっはっはっは! 元気だね。高校生の頃からあまり変わってないな、そういうところ」
藤野は「まぁ入ってよ」と緑と足立をセンター内へ案内した。
給食センターの庭には、咲き始めのハナショウブとツツジが彩り豊かに咲き乱れている。




