第百七十五話 美食家と、にゃらぴっぴー
「わあっはっはっは! なかなかの店だ! うむ。沖縄産の最上級黒糖を使用しておる」
沖縄料理「さんせいる」に昼食を食べに来ている勝五郎は、女将の美鈴と話している。
「このカマボコ・・・・・・。沖縄南部産のアオブダイの身と、流下式製法の島塩を使っておるな?」
「ぜ、全部当たりさぁ! すごい、お客さん!」
「わぁっははは! 儂の舌はまだまだ隠居はせぬ。沖縄料理『さんせいる』か、覚えておこう!」
「にふぇーでーびる! お客さん、貫禄もすごいですね。お料理の先生とか、ですか?」
「なぁに、儂は美食を趣味としている、紫前勝五郎と申す者。元県議会議長だ」
「あ! そうなんですかぁ! うちのお店、気に入ってもらえて嬉しいさぁーっ!」
「女将よ、名は何と申す?」
「豊見城美鈴さぁ。・・・・・・ん? お客さんの紫前って姓、あたし、他にも知ってるなぁ」
「わっはっは! それはきっと、儂の孫だろう! 紫前亜美香ではないのか?」
「あ! そうです! 最近よく、二人で食べに来てくれるんです」
「二人?」
「はいー。紫前亜美香さんと、温田緑さん。あ、緑さんの妹さんも、最近よく来ますよ」
「なに? あの温田姉妹もか。そうか、そうか!」
「亜美香さんもいい人ですし、温田さん姉妹は、なんか、ほっこりする感じで大好きさぁー」
「あの者たちは、儂も気に入っておる。・・・・・・ところで、このラフティー、良い味だ」
・・・・・・がらり がらがらがらー・・・・・・
店の戸が開き、だらしない姿の男性客が一名入ってきた。足取りはフラフラしている。
「めんそーれぇ! お一人様ですかぁ?」
「・・・・・・ふひふひは・・・・・・しっこうゆうよ、にゃらぴっぴぃ。沖縄料理、はらぺここー」
「お一人様ですねー。ご注文はいかがなさいますか?」
「・・・・・・しりしりぽっぽの、みみぴっぴー・・・・・・。くすくすにゃんの、にゃらぴっぴー」
「はぁい。ニンジンシリシリに、ミミガー。あとクースー二杯。お待ち下さいねー」
美鈴はオーダーを取り、一度、厨房の奥へ入っていった。
厨房からは、炒め物の良い香りが漂ってくる。店主が鍋を振り、火の上を細切りニンジンがぶわりと舞う。勝五郎はそれを見て、「いい火力に鍋の動きだ!」と腕組みをして唸る。
もう一方の客は、その火を見て「うるとらふぁいやー」と喜んでいる。
「おや? ・・・・・・あれは・・・・・・」
勝五郎の視線の先には、この店内で撮った写真が飾られている。そこには、店主と美鈴を中心にして、これ以上ない笑顔で映る紫前と緑、右京、中谷の姿が写っていた。




