表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みどりは太陽に向かってのびてゆく  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第2章 青葉若葉と藤の花
13/176

第十三話  緑 VS 鬼島! ラウンド2!

   ぽたり  ぽたり・・・・・・


 黒く艶やかな緑の襟髪から、汗が数滴、ぽたりと落ちた。


「(やっばいなぁ! どうする、わたし! 鬼島岩子が現れた。緑はどうする!)」

「おめぇが温田って女か! 給食費、さげんの決まったんだよな!」

「(逃げる。・・・・・・いや、逃げられない。・・・・・・道具。・・・・・・何を使うっていうの?)」

「おい温田ァ! 聞いてんのかこのやろう! どうなんだよッ!」

「(防御。・・・・・・いや、やられるな。・・・・・・スーパー緑に変身。・・・・・・何よそれ)」

「去年までの担当者より頼りねぇ感じだな! どうなんだ、給食費!」

「(どうしよう。・・・・・・いや! 藤野先輩に教えてもらったことを、活かすしかないっ!)」


 鬼島と目を合わせずに緑は黙って頭を下げていたが、一気にかっと瞳を見開き、顔を上げて目の前の相手と向かい合った。


「お! やっと顔上げやがった! がはは! さげんだよな、給食費!」

「鬼島さん! 申し訳ありませんが、それはできませんっ!」

「あ? あんっだとぉコラァ! てめぇ、話が違うだろぉが!」


 鬼島はカウンターをばしんと強く手で叩き、緑へぐいっと顔を寄せ、威嚇する。


「話が違うも何も、わたしは最初から、鬼島さん宅の給食費を下げることは言ってません!」

「言ったろうが! おめぇ確かに『わかりました』って言ったろうが!」

「何度も申しますが、わたし、了承はしてません」

「こんっのやろう! ウチの子はあんな不味ぃ給食、食えねぇの!」

「申し訳ないですけど、それも鬼島さんの主観じゃないですか。ですから、対応はできません!」

「だったら差別になるよな! ウチの子だけ給食を食えねぇなら差別だ」

「差別ではありません。わたしは、なぜ鬼島さんのお子さんが給食を食べないのかは・・・・・・」

「なめんな温田ァ! ウチの子はじゃあ、別メニューにしろ!」

「で、できません!」

「なんだと! 嫌いなモン食って死んだら、責任とれんのか!」

「だ、大丈夫です! アレルギーならともかく、好き嫌いだけで死ぬことはほぼないです!」

「ふざけんなッ! 調子こいてんじゃねぇぞクソ女! あぁ?」

「ふ、ふざけてません! 鬼島さん。これ以上理不尽な要求は、こちら側は一切聞けません!」

「てんめぇッ! 『給食費をさげる担当』って電話で言ってたろ!」

「へ? わたし、いくらなんでもそんなこと絶対に言ってないです!」

「おい温田ァ! 自分で言ってたんだよ! 温田です、ってなァ!」

「そんな! 言ってませんってば! 鬼島さん。いい加減にして下さいっ!」

「いい加減にしてほしいのはこっちだこのやろう! 言ったくせに!」

「(ど、どういうことなの? この人、何言ってんだろう? えーい・・・・・・)」


 緑は、奥歯をぎりっと噛んでから、軽く深呼吸した。


「鬼島さん。とにかく、お宅だけ特別扱いでということはできないんです! ご了承下さい!」

「詐欺師女がッ!」

「詐欺じゃないです。どう言われても、要求される給食費の対応はできません!」

「ふっざけんじゃねぇッ! 話になんねぇ!」

「申し訳ございませんが、無理なものは無理なんです!」


 緑はとにかく、気圧されそうなほどの圧力を放つ鬼島に、毅然とした態度で立ち向かった。

 鬼島はしばらく大声で緑を罵倒したが、エネルギーが切れたのか「もう帰る」と言ってカウンターを最後に一発ばしんと叩いて帰っていった。

 そのやりとりが窓口でされていた後ろでは、紫前がカチャカチャとパソコンのキーボードを叩きながら、真顔でディスプレイを見つめていた。


「ふ、ふうぅー。・・・・・・な、なんとか、しのいだぁーっ!」


 緑は大きく息を吐き、鬼島との激論バトルを終えた疲れで、カウンターに突っ伏した。隣の係欄にいる男性若手職員は、緑へ細やかな拍手を贈っている。


「し、紫前さんー。・・・・・・なんとかわたし、鬼島さんの猛攻に耐えたよぉ!」

「そう。よかったね温田さん。終始、給食費は下げないことに意見を曲げず、戦ってたわね」

「だって、わたし本当に、了承したなんてひとっことも言ってないもん!」

「よく頑張ってたじゃない」

「ま、まぁ何とかねー。ところでさぁ、あの人、ちょっと大丈夫なんかなぁ?」

「え? なにが?」

「わたしが『給食費をさげる担当』って、電話で言ったんだって。言ってないよ、そんなこと」

「まぁー、よくある勘違いとかなんじゃないかしら?」

「勝手な思い込みってやつー? あー。迷惑だよ本当にそういうのー・・・・・・」


   RRRRRRR!  RRRRRRR! ・・・・・・ガチャ!


「はいっ! 柏沼市学校教育課、温田です! ・・・・・・え! あ! 藤野先輩ぃー・・・・・・」

「〔金沢補佐に用事なんだけど。・・・・・・って、緑ちゃん、声がだいぶ疲れてんね? どしたの?〕」

「藤野先輩にいただいたアドバイス、さーっそく、役に立ちましたぁ。わたし、毅然と・・・・・・」


 緑は藤野へ鬼島との内容を簡潔に伝えた。それを聞いた藤野は、電話越しに笑って「今日は祝杯だね」と緑の健闘を讃えていた。

 紫前は真顔でパソコンのディスプレイを見つめ、緑の電話は気にせずに業務に集中している。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] クレーマー対応は、新入職員でなくても頭の痛い問題ですよね。 新境地の小説、期待しています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ