第十話 集中しすぎ
「いろいろ、忙しいところありがとうございました!」
「藤野先生、また、紅茶を飲ましてもらいに来るぜぇ! あと、いつか遊びに行こうぜぇ!」
緑と足立はワゴン車に乗り、窓を開けて藤野へ手を振る。
「また、来る時はいつでも連絡してよ。給食の試食にもおいでー」
「はい! 藤野先輩、ありがとうございます! また、よろしくお願いします!」
「右京ちゃんにも会ったら、よろしく言っといて。あと、足立主任と遊びには行けないねー」
「ええぇ! なんだよぉ。マジかよぉ!」
「あはは! 右京先輩にも、よろしく言っときまーす! じゃ、失礼しまーす!」
ブルルルン! ブロロロロロロロォ!
給食センターの前でぐるりと車を転回させ、危なっかしい運転で緑は市役所へ戻っていった。
車内では、足立がずっととめどなく緑へ話を振っているが、目を見開いて極度の緊張状態で運転している緑には、まったく耳に届いていなかった。
「・・・・・・――――ってわけなんだよー。すげえだろぉ? そんでよぉーっ――――・・・・・・」
「(集中! 集中! 運転に、集中!)」
「どうだぁ緑チャン! オイラ、他人の緊張をほぐしてやるのは達人なんだぜぇ!」
「(もう少しで、役所だ! 集中! 集中っと!)」
「・・・・・・――――でしょー? ひゃひゃ! これがまた、面白ぇんだ! でさ――――・・・・・・」
「(まっすぐ前見て、集中! 集中っと!)」
「・・・・・・――――ってことでよぉ! ひゃひゃひゃ! ・・・・・・って、ん! 過ぎてる?」
「(藤野先輩からのアドバイス。対応は、原理原則に基づいて、毅然と・・・・・・)」
「おい! 緑チャン! おい! 聞いてんのかよぉ、緑チャン! 過ぎてる! 過ぎてる!」
「(鬼島さんには、怖いけど、ダメなものはダメって言わないと・・・・・・)」
「おいいいぃ! 緑チャーンっ?」
「え! え? はっ! な、なんですか?」
「何ですかじゃなくってよぉ、オイラたち、役所に戻るんだべぇ?」
「そ、そうですよ? 何か、ありました?」
「いや、あのさぁ。とっくに役所、過ぎちまってんぜぇー?」
「ええええ! は、早く言ってくれてもよかったじゃないですかぁー」
「オ、オイラ、ずっと言ってたんだけどなぁ。・・・・・・すげぇ集中力だったぜぇ、緑チャン」
「とっ、とにかく戻らないと! えーと! ここをUターンして、と!」
緑の強引な運転により、助手席では足立がこの後、ものすごい車酔いになっていた。




