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1.転生先は見知らぬ世界、役職は大聖女

これから少しずつ投稿していきます。

よろしくお願いします。

なんてことない1日の終わりが、人生の終わりになるなんて誰が予想できる?


普通に学校に行って、友達と話して、帰ってきてテレビを見て、お風呂に入って、自分の布団で寝たんだ。


その日の夜に私は突然死を迎えた。

理由はよく覚えてない。多分自分でも死んだことが理解できないほど突然死んでしまったのだろう。

おそらく自分の葬式で、ただ漠然と、家族の声や、友達の声が、泣きながら私の名を呼んで、別れを惜しむ声が聞こえて、私は死んだんだと理解したんだ。

熱くも寒くもない、暗闇の中で、声を上げることができなかったから、さよならも言えなかった。

あっけない人生だった。


まだまだやりたいことも沢山あったのに。

こんなことなら、あれもこれもやっておけばよかった。

後悔先に立たずといえど死んでから後悔したってもう遅い。

未練を残す間もないまま、そのまま意識はどこか遠くへと飛んでいった。













だから目を覚まして、天蓋付きのベットから差し込む朝日を見た時に、『あぁこれは夢なんだ』とどこか他人事のように眺めていた。


さらりと揺れるカーテンが流れる風を捉えて形を変えている。それをおそらく窓を開けた人物であろう女性が抑えて、さっと纏めていた。女性は私よりずっと年上で所謂メイド服を着ている。


…メイド服、着てる人見るの初めてだなぁ。


夢を見てる気分の私はどこかずれた感想をいだきながらふと視線を移すと、私を覗き込む顔と目があった。隣に座り私を覗き込んでいた青年は、私を見て目を丸くしてる。


「あの…」


あまりにも見つめられるもので思わず声をあげれば、自分の口から出たとは思えないほど大人びた声。違和感がすごくて思わず喉に手をやると、青年は弾かれたように私の両手を取り、叫んだ。


「聖女様…!お目覚めになられたんですね!!!」


「…はい?」


私を聖女と呼んだその声に、疑問符を浮かべていれば続々とメイド達やらが集まってくる。一人二人の人数ではない。あっという間に私のベットを取り囲み、人だかりが出来ると、皆口々に言う。


あぁ、聖女様、お目覚めになられてよかったです、と。


なにが、どうして、私はなんで?ここはどこ?この人たちは何?全くもってさっぱり意味がわからない。私を目の前に泣き出す人もいる。何事か声をかけられた気もする。でももう限界だった。


「あ、悪夢だ…」


いろんなショックがいっぺんに襲いかかってきた私は、気を失った。











そして夢から目覚める、ということもなく。










再び目を覚まし、また天蓋付きのベットの天井を見つめ、ため息をついた。その僅かな呼吸の違いで私が目覚めたことに気づいたのか、その人は、私に声をかけてくる。


「お目覚めになられましたか?」


さっきも私の隣にいた青年だ。肩下まである黒い髪を襟元で結えていて、深海のように深い青色の瞳がじっと心配そうに私を見つめている。歳は20代くらいだろうか。その端正な顔は過去の記憶と照らし合わせても見覚えはない。そもそもこんなカッコいい知り合いがいたら忘れるはずもない。

まだ夢から覚めていない現実を目の当たりにして、若干頭を抱える。


その時、僅かに痛みが走った。

そうだ、私は、確か…。


「私は死んだはずじゃ…?」


その呟きを聞き、青年の表情が僅かに曇る。


「…覚えて、いないのですか?」


返答に困り言葉を詰まらせると、青年の表情は辛そうなものへと変わった。

なにか声をかけてあげたいけど、私はこの人の名前もわからない。


「…ごめんなさい」


彼を悲しませた罪悪感から自然と謝ってしまう。すると青年は弾かれたように顔を上げ、ぶんぶんと首を振った。


「いえ、いえ!謝らないでください!貴女様が謝るようなことではありません!むしろ…私の方こそ、謝らせてください」


そして深々と頭を下げられる。


「…私は貴女様の護衛騎士、アラン=シュラウドです。貴女様が記憶を失われた原因の一端は、私にあります」

「…どういうことですか」

「…全ては魔王軍との戦いに始まります」


「魔王」


聞き馴染みのないファンタジーな単語に思わず反応する。


「はい。我々は勇者のパーティに同行し魔王討伐の為魔王城へと向かいました。そこでの戦いは熾烈を極めました。あと一歩で魔王を討ち取れるところ、…私は瀕死の重傷を負いました。そして貴女様はそんな私を助けようと、自らの危険も顧みず…、………」


アランは言葉を詰まらせ、悲痛な表情を浮かべる。よほど辛かったんだ。


「…隙を見せた貴女様に魔王は襲いかかりました。そして心臓を…魂の核を…貴女様は破壊されました。魂の核は一度壊されれば元に戻すことはできません。すなわち、それは死を意味します」


「魔王は、大聖女である貴女様が2度とその力を使えないように、完膚なきまでに貴女様と言う存在を葬り去ろうとしたのです」


「……………」


私が大聖女?


理解は追いついている。けれどどれもこれも現実味がない。まるでファンタジー小説のあらすじを聞かされてる気分だ。


「…しかし、大聖女は神と精霊に愛された存在です。核がバラバラになってもなお、貴女様の体は朽ちることなく再生しました。それどころか、破壊の衝撃で大魔法を発動したんです。…完全回復の再生の魔法で私も勇者パーティも一命を取り留めました。しかし、聖女様なくして魔王軍に立ち向かえるはずがありません。我々は貴女様の身を守るため、撤退を余儀なくされました。…そして、貴女様は眠りにつかれ、目を醒さなかったのです、それが…」


アランは私の手を取り、握りしめた。その手は震えている。彼の青い瞳に涙が浮かぶのが見れた。


「…本当によかった…本当に…」


…私が眠っている間、ずっと自分を責め続けていたんだろうな。可哀想に。

励ますようなことを言ってあげたいけど、私は当の聖女様じゃない。つい最近まで普通の女子高生をしていた、漫画やアニメが好きな、至って普通のオタクだ。だった、はずなんだ。


これは最近流行りの異世界転生というやつ?


色々有名どころは押さえていたけど、こんな世界観の小説、ゲーム、漫画、どれも記憶の中にない。

ということは全く知らない世界に転生されたということだろうか。


こういうのは定石があって、転生時に世界のこととか記憶とかがぱっとあたまに浮かぶものじゃないの?あるいは物語の結末を知っててチートを使えるとか。


あぁ、全部ハズレっぽいなぁ。


どうやら私はこの全く知らない世界に転生して生きていかなければいけないらしい。

しかも聖女っていう訳わからん重要ポジションの役職付きだ。

これは何かに巻き込まれたりするのが確定してる。


…でも。


読みたかった漫画。小説の続き。来週のアニメ。

もう見れないのなら。


話したかったひと、会いたかったひと、大切な友人、両親。

もう会えないのなら。


もう2度と後悔しないように今を精一杯生きよう。やりたいことをやろう。

私らしく。


だってきっとその方が楽しい。

なんていったってここは魔法や精霊が当たり前に存在するファンタジーな世界。

私が大好きな創作の世界!


「私に何かできることはありますか?」


そうアランに声をかければ、涙を堪えていたアランの瞳と視線が交わる。青い瞳が溶けて落っこちてきそうだ。その涙を拭ってあげれば、アランは驚きの表情で見つめ返してくる。


そんなかっこいい付き人?もいるんだし。


「私には記憶がありません。けれど、私が出来ることがあれば、何とかしてあげたいんです」


魔王?勇者?冒険の要素もある!


「教えてください。この世界のこと。私のこと。…アランのこと」


私の胸は高鳴っていた。

まるで新しい本を買って読むときのように。

まだ見ぬ世界を知ることに、これ以上ないほどドキドキしていた。


それほどまでにこの世界は魅力的だった。


「…あぁ、聖女様…、貴女はやはり」


__やはり、聖女様だ。


アランが何か言いかけたところで、突然部屋の扉が開かれる。


「姫!」


そう叫びながら入ってきたのは、上等な衣服を身につけた、金髪の青年だった。




続く。

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