おはようございます
僕や希が通っている高校は全寮制だ。
僕らの高校はそれなりに有名らしく、遠くの地方からこの高校にわざわざ入学しに来る人も多いらしい。
だから校舎もグラウンドも、その他設備も充実していて……当然、僕らの寮もかなり満足出来るモノになっている。
これがマンモス校の特権というやつなのだろうか。
寮内の時計を見て時刻を確かめてみると、時計は今丁度9時を刺していた。
「……流石に誰もいないね……」
男子寮内をさ迷いながら、僕は密かに安堵する。
世間は今夏休み。
つまり寮生も殆どが実家に帰っている為、いくら夏祭り後とはいえこんな夜遅くに寮内を出歩く生徒はいない。
……僕と希は、いわゆる"家庭内事情"というやつで夏休み中も寮で過ごしている。
僕らはルームメイト同士だから、つまり僕らの部屋に入りさえすればもう安心。
「……なぁ、今思ったんだが……今の俺ら怪しくね……?」
「何十分も前から怪しかったから今更だよ……」
とりあえず健全な青少年は意識不明の女の子を自分の部屋に連れ込んだりしないからね……。
微妙に憂鬱になった頃、ようやく僕らは自分達の部屋までたどり着いたのだった。
「さて寝るか。」
「寝るの!?てゆーか寝れるのこの状況で!?」
寮の僕らの部屋に帰ってすぐ、ごく普通に希はベッドへと倒れ込んでしまう。
よくもまぁ見知らぬ女の子が部屋の中にいる状況で寝ようと思えるよ……。
少女は僕のベッドに寝かせている為、とりあえず僕は寝れそうにない。
「つっても今日は遊び疲れたし~。後はクロに任せたぜ。」
「この状況で寝れるのホント神経どうかしてると思うよ...。」
僕の必死の訴えが通じたのか、希はベッドから上体だけをムクっと起こした。
そして僕をジーっと見据え、面倒臭さそうにため息を吐く。
「別に死んでるわけじゃあるまいし、放っておいても大丈夫だよ。」
そう言った希はまたベッドに体を預け、そう言われた僕はまた嫌なことを思い出してしまった。
――私、幽霊なんです
その少女が僕に言った言葉が、どうも気味が悪くて……それだけに、気掛かりだ。
……生きてる、よね……この少女は……。
確かに今ここに実在しているし、触れることだって出来るし、因みに僕に霊感なんかないわけだし……。
それにあんなにも直球カミングアウトする幽霊の存在なんか、僕の17年の人生で一度も聞いたことないし。
……生きてる……よね……。
「……希……この子さ、生きてるよね……?」
何バカなことを聞いてるんだ僕は。
でも、どうしても、どうしても気になってしまう。
僕にそんな意味不明な質問をされた希は、ベッドからまたも上体を起こした。
そして怪訝そうな目で僕を見る。
「……え?死んでんのか?」
「いや死んでないけど……そういう意味じゃなくて……」
希は僕を見て首を傾げる。
このおバカな希に伝えるには、ハッキリと言ってやらないとダメなのか……。
あえて口に出さなかったそれを、吐き出した。
「……幽霊じゃ……ないよね……?」
……時間が凍った。
いや、実際時間が止まってるわけじゃあないけど……
でも少なくとも、希の脳内コンピュータは僕の発言によりフリーズしてしまったようだった。
「……はは……はっはっは……いやいや、んなわけないだろ……」
無理に笑いながら希は渇いた声で否定をする。当然だ。
希は……"そういう話"が大の苦手なのだから。
「この娘さ……"自分は幽霊だ"って、言ってたんだよ……」
トーンの低い声で僕はそう言い、未だにベッドで気を失っている少女を見る。
……健全な少年少女は普通、あんなこと言わないよね……。
「……おいクロ、結構マジで勘弁してくれ。お前の持てる力を駆使して全力で話題を変えてくれ。」
僕の全力をもってしても不可能だよ希さん。
そうして何となくお互い何も言えなくなり……僕と希の視線は、自然とベッドで眠っている少女へと移っていた。
……今日は……不思議な事が沢山起こった。
とにかく、この少女は普通ではない気がする。
……もし本当に―――
ギシ っと、ベッドが音を立てた。
それと同時に、ベッドで眠っていた少女がムクっと上体を起こして目を覚ます。
そのあまりに唐突な少女の目覚めに、僕と希はポカンとしたまま対応が出来ず……その少女は寝ぼけたような目でこの部屋を見回し、やがてその視線は僕ら二人の下へ注がれる。
「…………わぁお!?」
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!?」
「うわぁぁっ!?」
三人一斉にアホみたいな悲鳴を上げたのだった。
少女は僕ら二人を見て驚き、
希は少女が悲鳴を上げた事に驚き、
僕は希のガチな悲鳴に驚いた。
で、三人ともその状態のまま硬直。
「え…っと……ぼ、僕らは別に怪しい者じゃないよ……」
色々と思考した挙げ句、一番最初に口にしたのは身の潔白の主張。
怪しい者じゃない、って……今の僕らは間違いなく"怪しい者"に分類されるじゃないか……!
少女はそんな僕をまじまじと見詰め、そして、少女は口を開き……
「……おはようございます。」
1番どうでもいい挨拶を僕らに噛ましてきたのだった。
とにかく、この少女に誤解をされては困るから、僕はここまでに至る経緯を少女に教えてあげた。
別に最初から僕らのことを怪しい者と思ってなかったのか、少女は割とすんなりその話を信じてくれる。
「なるほど。では私はあなた方に助けられたんですね。」
少女は"ありがとうございます"と言って僕ら二人に頭を下げる。
お礼を言われても正直困るけど、まぁ今はとりあえず気にしないでおこう。
……さて、少女はこの部屋へ連れ込まれた理由について納得してくれた。
じゃあ次は、僕らを納得させてほしい。
僕は少し大袈裟に深い深呼吸をしてから、本題に入ることにした。
「君は……その……気を失う前のこと、覚えてる……?」
恐る恐る、というヘタレさが滲み出てるような言い方になってしまった。
けど、まずはそこから聞き出す。
僕は真剣な目で少女を見据える。
そんな割と真面目な雰囲気醸しだしてる僕とは正反対に、少女はポケ~っと気の抜けた表情だった。
何この温度差。
「覚えていますよ。神様とお話していました。」
そんな気の抜けた表情のまま、少女はそう僕に告げる。
覚えていたんなら話は早いと、僕はちょっと胸を撫で下ろす。
撫で下ろしてから、その発言に"ん?"っと
目を点にする。
「……今、何て?」
苦笑いを浮かべながら、僕は少女にさっきの発言をもう一度促す。
少女は得に躊躇うことなく、むしろニコっと笑いながら、
「ですから、神様とお話をしていました」
「………………。」
……OKもう分かった、つまり僕には理解出来ない電波を発信しているんだこの少女は。
成る程、幽霊とかそういうのじゃなくてただ単に頭の中ネバーランドなだけなんだこの少女は。
「神様が私に色々親切してくれたんですよ!」
少女はそれはそれは嬉しそうに、腕をブンブン上下させて興奮してきた。
その興奮とは対照的に、徐々に馬鹿馬鹿しく冷めていく僕の脳みそ。