95.旅行初日 その四
「あら、二人ともすぐそこにいたわよ」
「お兄ちゃんっ、晃さん!」
「二人ともお待たせ!」
「待たせてしまって申し訳ないね」
着替えが済み、更衣室から出てすぐのところで待っていると声がかかる。
「いや、全然待ってないよ」
「ふふっ、ありがとっ」
「お兄ちゃん、どうかなどうかな?」
瑠璃はそう言って水着姿を見せてくる。我が妹ながらスタイルも良く、白のフリルのあるオフショルダーの水着が似合っていてとても可憐だ。
「あぁ、可愛らしいな」
「えへへ、ありがとう!」
「成実ももちろん似合っていてとても綺麗だよ」
「えっ! あ、ありがとう……」
瑠璃の方から成実へと視線の向きを変えると目が合った。先に瑠璃を褒めたが、彼女もとても綺麗だ。プールの時と同じ水着で、彼女の魅力を引き立てている。
「あはは、なら友也たちは相変わらずだね。なら私も……晃、私の水着姿はどうだろうか?」
「! あっ、あぁ、すごい似合ってるぞ!」
「ふふっ、そうか……ありがとう」
「おう……」
「青春ね〜……私がもう少し若かったり、友也くんがフリーなら狙ってたのになぁ」
「えっ!?」
「ふふっ、冗談よ成実ちゃん。それよりも、早速行きましょ? 人が結構いるからビーチで場所取りもしたいし」
「そ、そうですね! それじゃ、みんな行こっか!」
成実のかけ声に白雪は笑顔で、晃は未だに少し照れたまま、他三人は普通に返事をして海へと向かう。
「あ、そういえば友也くん。日焼け止めって塗った?」
「あー、塗ってないな。奥の方に入れてたから別にいいかなって車の荷物に入れっぱなしだ」
「ダメだよ? 肌焼けて痛くなっちゃうから。ちょっと待っててね!」
「お、おう……」
ビーチで場所取りをし、いくつか持ってきていた浮き輪に空気を入れている時に成実から注意をされる。そして彼女はそう言いながら自分の荷物を漁って何かを取り出す。
「それは、日焼け止めか?」
「うん! はい、手を出して」
「あぁ」
「顔と首はしっかり、あと腕とかお腹もヒリヒリすると痛いから塗っておいてね」
「あぁ、ありがとな」
彼女から日焼け止めを手のひらに貰い、塗っていく。
「それじゃ友也くん、背中を塗るから後ろ向いて。ちょっと冷たいけど我慢してね」
「おう、何から何まで悪いな」
「ううん、大丈夫だよっ。それじゃ失礼します……」
彼女の言われるがまま後ろを向く。そしてゆっくりと背中に彼女の小さい手が触れられる。
「っ! 冷たっ」
「あっ、ごめん!」
「い、いや、大丈夫だ。すまん、つい反射的に言っちゃっただけだから気にせずにやってくれ」
「う、うん。続き、やるよ……?」
「おう……」
一度離れた彼女の手が再び俺の背中に当たる。冷たさやこそばゆさも慣れれば大丈夫だ。
「……男の人の背中ってがっしりしてるんだね……」
「そ、そうだな……」
「……」
「……」
「は、はい! 終わったよ!」
「あ、あぁ、ありがとな」
「……あっ、もう浮き輪も終わったみたいだね!」
「あぁ、そうみたいだな」
みんな海に入る前に軽くストレッチをしている所だったのでそこに合流し、体を伸ばしておく。
「よし、全員準備終わったみたいだな! 海入るか!」
「あぁ、行こう!」
「私が一番乗り〜……きゃっ、冷たっ!」
「ははっ、さっきまで暑かったから海が気持ちね」
「そうだね! 冷たくて、でもそれが気持ちいいよ」
海に入ってテンションの上がっている俺たち五人。それを砂浜でビーチパラソルで作った陰の中で、いつの間にか海の家買ったであろうドリンクを飲みながら眺めている香織さん。聞けば少ししたら参加するとのことで。
そして途中から香織さんも参加したり、自由に浮き輪で浮いたり、泳ぎの競走なんかもしたりして楽しんでいるうちにあっという間に時間が進み、当初の予定の四時頃になっていた。
「名残惜しいけれど、明日もあるから今日はゆっくりと休みましょ? 初日から疲労困憊なんてのも良くないし」
「そうですね」
「だな! 姉ちゃん、軽くシャワー浴びてから着替えた後にさっき合流したところ集合でいいか?」
「えぇ、もちろんよ。それじゃまた後でね」
「おう!」
そのまま男女で分かれてから、諸々の準備を済ましてから出て、合流した。
「全員いるわね。それじゃ宿に向かうわね」
「「「「はーい」」」」
香織さんは途中参加かつ、こまめに休んでいたのは車でビーチから宿まで向かわなければならなかったからだろう。何だか申し訳ない気持ちに苛まれる。すると顔に出ていたのだろうか、運転席の香織さんから声をかけられる。
「ふふっ、友也くん。そんなに気にしなくていいわ。あなたはまだ若いんだから、若者らしく明るく元気にしてなさい。色々考えるのは大人の仕事よ」
「……はい、ありがとうございます」
GWに会った時は久しぶりに会ったからはしゃぎすぎだだけなのだろう。こんな大人っぽい所を見るとそう思える。
晃や白雪もそうだが、香織さんにも何だかんだ幼い頃から助けられてばかりな気がする。
「ふぅ、着いたわ! それじゃ、さっさと荷物を下ろして温泉入るわよ!」
「「温泉!」」
今さっきまでうとうとしていた瑠璃と成実の声が重なる。
「お兄ちゃんっ、急いで急いで!」
「急ぐから! そんなに慌てるなって」
片手にキャリーケース、片手に俺の手を握り、宿の中へと入る。外観も綺麗で大きいかったが、内観も負けず劣らずの美しさだ。
「俺たちが急いでも香織さんが来なきゃ結局入れないだろ?」
「そうだけど! でも旅行とかで普段と違う部屋に入れるのってわくわくするじゃん!」
「それは分かるけど……あ、香織さんたちも追いついたな」
「ふふっ、瑠璃ちゃん、お待たせしたわね」
そう言いながら香織さんは受付にチェックインをしに向かう。香織さんの名義で予約しているから彼女がいなければ入れない。
「――えぇ、ありがとうございます。……皆、鍵を貰ったわよ。行きましょう?」
「はーい!」
「おう!」
「ははっ、晃もすごいはしゃいでるね?」
「瑠璃ちゃんじゃあないけど、旅行の部屋っていくつになっても楽しみだろ?」
「そうだね。それじゃ、行こうか」
「友也くんくんも、行こっ?」
「あぁ、行こう」
エレベーターで部屋のある階へと上がり、予約していた部屋へと向かう。幸いにも香織さんの部屋とは斜め向いだったので、部屋の前までは一緒だった。




