92.旅行初日 その一
当日の朝。一時間後の九時に晃の家の前に集合で、旅館の方のチェックイン時間は午後三時だ。
「お兄ちゃん、準備ちゃんとできた?」
「あぁ、何日も前から何度も確認してるよ。瑠璃の方は大丈夫か?」
「うん、もちろんっ」
そう言う瑠璃は元気で楽しみなのが伝わってくる顔をしているが、少し眠そうなのが気になった。
「なんだか眠そうだが大丈夫か?」
「あ、あはは……昨晩成実さんと電話でおしゃべりしててちょっと遅くなっちゃったんだ」
「そうか……。着くまで車でも寝れるだろうけど、今も少し休んどけ。少ししたら起こすからさ」
「ありがとう、お言葉に甘えてそうさせてもらうね〜」
楽しみなのは分かるし、電話で盛り上がって遅くなったのかもしれないが、寝不足で倒れられたり、熱中症にでもなったら大変だ。せっかくの旅行でそうなると自分も周りも辛いし悲しいだろう。
「瑠璃、そろそろ起きろ」
出発の少し前になり、ソファで仮眠している妹を揺する。
「……んっ、あ、おはようお兄ちゃん」
「おう、よく眠れたか?」
「うん……。んー……はぁ。よしっ、行こっか!」
一度大きく伸びをしてすぐに切り替える瑠璃。寝起きが悪い俺とは違って、すぐに起きられる妹が羨ましい。
今回の旅行で彼女にできる限りだらしない所を見られないようにしたいな。
そんなことを考えながら瑠璃と共に晃の家へと向かう。その途中で白雪の家と成実の家にも通りかかるので、二人と合流していく。
「おはよう、白雪」
「あぁ、おはよう友也、瑠璃」
「華さん、おはようっ」
「ふふっ、友也は相変わらずだけど、瑠璃は朝から元気だね」
「うんっ。久しぶりの旅行だからすごい楽しみだよ〜」
そんなことを話しながら次は成実の家へと向かう。
「おはよう、成実」
「成実さん、おはようっ」
「やぁ、成実。おはよう」
「友也くんも瑠璃ちゃんも華ちゃんも、おはよう!」
元気な様子だが、少し眠そうか?
瑠璃と昨晩電話していたようだし、移動中は眠っていて欲しいな。
そうして四人で、朝とはいえ八月の炎天下の中を歩いていく。成実の家から晃の家はそう離れていないためすぐに着いた。
「あっ、全員揃ってるわね!」
「おっ、みんなおはよう!」
「おう、おはよう晃、香織さん。今日はよろしくお願いします」
「えぇ、むしろついて行くことを許してくれてありがとね。それじゃ、全員車に乗って乗って!」
晃と香織さんは既に車に荷物を載せていたようなので、俺たちもすぐさま荷物を載せてから乗る。
六人乗りで順番に乗っていくと、最後に成実と俺が乗車する。前から運転席に香織さん、隣に晃。二列目に白雪と瑠璃。最後方に俺と成実が乗る形になった。
「結構長時間になると思うから各自酔わない程度に自由にしていてね。あ、晃は寝ちゃダメよ?」
「なんでだよ!?」
「だって話し相手が居なくなるじゃない? あと助手席の人が眠るとこっちまで眠くなるのよ」
「まぁ、できる限り寝ないようにするぞ……」
朝から振り回されている晃。まぁ、運転手は香織さん一人しかいないし、全員が眠るのは申し訳ない気がする。俺も極力起きてるようにしよう。
「それじゃ、出発〜」
そんな掛け声と共に車が動き始める。
「……っ」
「ん? 何か忘れ物でもしたか?」
「あ、ううん。そうじゃなくて、まだ出発したばかりなのにすっごく楽しみで……」
「ははっ、そうか。なんか分かるな、その気持ち。何日も前から準備していざ出発ってなったら誰でもソワソワすると思う」
「そうだよねっ。みんなで行けるんだとか、ようやく待ちに待った旅行だとか考えると凄いワクワクするよ!」
分かる。すごい分かる。久しぶりだからなのもあるだろうが、一番は今までのいつもの気の知れたメンバーに加えて、彼女がいるからだろう。そんな風に考えていると前から声がかかる。
「相変わらず二人は仲睦まじいね」
「お兄ちゃんすっごい笑顔だね〜」
そんなからかうような声。
「瑠璃、お前は寝不足なんだから寝とけ。着いてからバテるぞ」
「友也くんの言う通りよ。成実ちゃんも楽しみなのは分かるけど今のうちに寝ておいた方がいいわ」
「あっ、ありがとうございますっ」
「じゃあ俺も」
「晃は起きてなさい。というか昨日の夜もすぐに寝てたんだからこれくらい大丈夫でしょ」
「扱いが違いすぎる……」
頑張れ晃。
「まぁ、途中で一回サービスエリアで休み入れるから、少なくともそこまでは起きてて欲しいわね」
「分かった!」
そんなことを二人が話しつつも運転はしているので、車は既に高速を走っている。
「おや?」
白雪がふと、そんな声を漏らす。彼女の視線の方を見るとどうやら瑠璃が眠りに落ちたようだった。
「ふふっ、元気だったけど眠そうだったからね。少し静かにしようか」
「あぁ、分かった」
「そうね、そうしましょう」
瑠璃が眠り、車内の声のボリュームが下がったことで気付いたが、隣に座る成実も微睡んでいた。彼女も昨日遅かったはずなので、今はゆっくり休むのが良いだろう。
しばらくして肩に体重がかかったことに少し驚いたが、案の定成実も眠りについたようだった。
「おやすみ、成実」
可愛らしい寝顔で、小さく寝息を立てながら眠る彼女。目を閉じているからよく分かるが、睫毛も長く、とても整った顔立ちだ。
彼女を見ているとふふっ、と自然と笑顔になる。顔の距離は近いのに、不思議と傍にいると落ち着くし幸せな気持ちになれる。
「成実も寝たんだね」
「あぁ、ついさっきな」
しばらく彼女の顔を見つめていたが、白雪の声に我に返る。
というか寝顔をまじまじと見つめるのは良くなかったかもしれないな……
「すごい安心しきっている顔だね。それだけ友也を信頼してるってことが分かる」
「そうだといいな……」
「そうさ」
「まぁ、白雪が言うならそうかもな」
そのまま白雪や晃、香織さんと話をしながら到着を待つ。まだ旅行は始まったばかりだ。
いつも本文の冒頭にその話での書きたいことをメモしているんですけど、消し忘れたまま投稿しそうになりました……
それに焦って修正していたせいで投稿遅れましたし……
誠に申し訳ありません。
謝るのはここまでっ。旅行編何話か続きます!
それでは今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。




