86.期末考査とお誘い
七夕の日の息抜きからしばらくが経って、今日から期末が始まる。今日までに放課後に勉強会をしてきて、今回こそはトップの二人に勝ちたいと思っている。壁は低くはないが、負け続けるのは少し悔しい思いがある。
「それでは試験開始!」
試験監督の教師の声で生徒たちがペンを走らせる。カリカリという音の中、自らも手と思考をフルに働かせて問題を解いていった。
「ふぅ、お疲れ様〜」
「あぁ、お疲れ様」
そしてあっという間に期末考査も最終日を終え、今は四人で集まり互いを労っている。
「今回はどうなるかな……」
「ふふっ、簡単には負けないよっ?」
「あぁ、私もだ。それにそろそろ成実にも勝ちたいね」
「勝負だね! っていってもあとは結果を待つだけだけどね」
「終業式の時が楽しみだよ」
そんな風に語り合う。晃も今回は苦手科目も手応えがあるそうなので、俺もミスが多ければ足元をすくわれているかもしれない。終業式が少し待ち遠しく思う。
「それで成実から何か話があるって?」
「うんっ。まず明日からの試験休みで華ちゃんと和泉くんの空いてる日ってあるかな?」
期末後の数日間は採点や成績付けを行うため試験休みというものがある。成実と相談してそこで晃たちを誘って、お菓子パーティーを開こうかということになった。
二人も甘いものが嫌いではないし、体育祭の時に手料理が食べたいなんてことも言っていた。
それに彼女からも何か二人にお礼のようなものをしたいと言っていたので良い機会ではないだろうか。
「俺の方は特に予定は入ってないぞ?」
「あぁ、私も大丈夫だよ」
「そっか! あの、良かったらなんだけど試験休みのどこかでお菓子パーティーしないかなっ?」
という訳で早速明日の昼過ぎに成実の家に集まることになった。彼女の家には夏休み前は母親も仕事で留守にしており、自由にできるそうだ。
「それともう一つあるんだけど……」
「なんだい?」
「七夕の日に友也くんと駅前の方に行ったら、これをくじ引きで当てたの」
そう言って彼女が取り出したのは例の旅行券。温泉付きでかつ、近くには海もある宿のものだ。
案の定、彼女は五人で行きたいと言ってくれたため、事前に瑠璃にも話をし、父さんにも話を通している。
「こ、これは、結構いい所のじゃないか?」
「うん。良かったら四人と瑠璃ちゃんも誘って行かないかなって思って!」
「いいのかい? 私や晃も行って」
「うん! もちろんだよ!」
満面の笑みでそう答える彼女。何も無くても逆に白雪たちの方から誘っていただろう。中学生の頃もよく旅行なんかに行ったものだ。
「保護者とかはいいのか?」
晃が真っ当な疑問を浮かべる。
「一応高校生だけでも親の許可があれば良いらしいけどな」
その点も事前に調べ、親の同意書なんかがあれば大丈夫だそうだ。しかし親無しで行くのは初めてだから色々と困ることもあるかもしれないので下調べはもっとしていくつもりだ。
「んー、なら姉ちゃんも誘うか?」
「「え?」」
白雪は、あーと納得したような表情をしているが、俺と成実はよく分かっていない。元々誘おうかとは思ったが、券で行けなくなるし、自腹を切らせるのも申し訳なかったしな。
「多分このことを伝えたら着いてくるって言うし、それなら姉ちゃんの車で一緒に行った方がいいかなってな! それに俺たちはこのメンバーで旅行もよく行ってたけど、神崎さんの親は保護者役がいた方が安心だろ?」
「それは、確かにそうかも……」
「決まりだな!」
「あ、ありがと!」
「おう!」
晃の提案でトントン拍子で香織さんも一緒なこと、それから交通手段まで確保してしまった。香織さんさえ良いのなら、予定を合わせて一緒に行くことになるだろう。
本人には晃から伝えてくれるそうなので、こちらは返事を待つだけだ。
「ははっ、にしても友也と神崎さんのお菓子かぁ!」
「あぁ、今から楽しみだね」
「二人が楽しみにしてくれるならこっちも頑張らないとな」
「だね!」
そうしてそのまま晃たちとは別れ、俺は成実と共に材料の調達に向かった。
最終日の試験数は二つと少なかったため、まだ昼前だ。今から買い物をしても家に着くのはお昼時になるだろう。
事前に彼女と話をしており、作るお菓子なんかは決まっている。それに断られたら断られたでもメニューを変えて二人で作るつもりだった。
「夏の果実を贅沢に使ったお菓子! 私も今から作るのが楽しみだよ!」
「あぁ、そうだな!」
彼女と共にいつものスーパーへと到着し、材料をカゴへと詰めていく。
結局今回は瑠璃も含めた五人でとなった。晃たちも来るならば行くと瑠璃は言っていた。
五人ならば幾つものメニューを作っても食べられるだろう。それにクッキー類ならば持ち帰ってもいい。まぁ、俺も成実も甘いものは大好物だからいくらでも食べれるが……
ちなみに今回作るものだが、夏の旬な果物をふんだんに使ったフルーツタルト、さくらんぼで作るパンナコッタ、シンプルなびわゼリー、あとはクッキーやカップケーキなど。それぞれを小さめで作り、様々な種類を作るつもりだ。
元々成実へのお礼として一緒にお菓子作りをするのも目的なため、複数種類ある方が手間暇はかかるが良いと思う。
まぁ、売られている果物は旬で美味しいが、値段も値段なため少し作る予定のものを削ったり、酒類も使ってみたいとは思ったが未成年なため控えた結果だ。
ふと横を見るとこちらを微笑みを湛えて見ている彼女がいた。
「ん、どうかしたか?」
「友也くんと一緒にまた買い物に来たなぁって思ってね。それに前はここで香織さんとも会ったよね」
「あぁ、そうだったな……」
彼女と二人きりになる機会は最近だと放課後にデートに行ったり、七夕の日くらいか。普通のカップルがどれくらいの頻度でデートに行ったりするのかは分からないが、二人の時間はもう少し欲しかったりなんて思う。
「二人きりか……」
「えっ? あ、誘っちゃったけど実は二人の方が良かったっ?」
「あ、いや、そうじゃなくてさ……夏の間にも二人の時間も少し欲しいなって思ってな」
「少しだけでいいの……?」
「ッ! いや、たくさん、かな」
「えへへっ、私もっ!」
いきなり袖を掴んで、寂しそうな求めるような表情をするのは反則だろう……
その後の満開の笑顔も眩しすぎる。
「それで、良かったらなんだけど……今度二人で、プールに行かないかな?」
「プール……? 海も行くが泳ぐのが好きなのか?」
「あ、えっと、うぅ……」
少し俯いて黙り込んでしまう彼女。彼女の願いなら何でも叶えるが、理由も少し気になる。しかし言いづらそうな表情だかもしかして……
「……泳げない?」
「あっ、その、泳げないというか、実は海に行ったことがなくて……。だから泳ぎ方とかを教えて欲しいなって!」
「あぁ、そういう事か。俺でよければいくらでも付き合うぞ」
「本当! ありがとう友也くんっ!」
俺の場合は母親を亡くした後も晃たちと海に行く機会があったが、彼女の場合はそういうこともなかっただろう。それに二人でいる時間がもっと欲しいと思ってたのもある。
「とりあえず買い物を済ませようか」
「そうだね!」
そうして夏の楽しみな予定が少しずつ埋まっていき、心も暖かい気持ちで満ち溢れていった。
だがまずは目先のお菓子パーティーを成功させよう。そう心に思い、彼女と荷物を家まで送り届けた。




