85.七夕の息抜き
期末考査も一週間前に近づいたある日の放課後。今日は息抜きとして勉強会は休みだ。そして今は、学校近くの駅前商店街を彼女と二人で歩いていた。
「今日は七夕だったね!」
「そうだな。すっかり忘れてたよ」
商店街も七夕色に染まり、少し行ったところには大きな笹と短冊があったり、店前で回すタイプのくじ引きをしているところもある。
「くじ引き……」
「商店街で買い物をしたらできるみたいだな。夕食の買い物もしていこうか」
「そうしよっ!」
そうして商店街で軽く買い物をして、くじ引き券を二枚手に持って先程の場所へと戻ってくる。
「おっ、そこの兄ちゃんたちもやってくかい?」
「お願いします!」
「おう! 三等が商品券二万円分で二等が最新型ゲーム機、一等はネズミの国の年パスだ! あと特賞なんかもあるぞ!」
「おぉ、結構豪華なんだな……」
くじ引き券は手元に二枚あり、成実に譲られたので先に引くことにした。某ネズミの国は一度しか行ったことないし、デート場所としては良いと思う。どうせならばいいものを引きたい。
「ゲーム内では運悪いけど……どうだっ」
取手に手をかけ、勢いよく回す。中から飛び出してきたのは白い玉だった。
「あ〜、残念っ。六等だ!」
六等、まぁ、言ってしまえばハズレだ。ティッシュを一つ受け取って引き下がる。
「まぁ、そう簡単には当たらないよな」
「友也くん……もう一回やる?」
「いや、次は成実が引いてくれ」
「うん、分かったっ」
少なくとも彼女の方が俺よりは運がいい気がする。というか前に一緒にやってた銀の世界でもドロップ率が低すぎることで有名だったのに、彼女は結構レアアイテム引いてたよな……
そんなことを思い出しながら彼女の後ろ姿を見ている。
「それじゃ、行くよ!」
彼女はそんなかけ声と共に腕を回す。そした勢いよく出てきた玉の色は黒だった。
「えっと、黒は?」
「で! 出ましたぁ! 特賞、温泉旅行券です!!」
「「旅行券!?」」
おじさんが興奮しながらカランカランとハンドベルを鳴らす。つい、俺も成実も驚いて声を出してしまい、おじさんのベルの音と相まって周囲の注目を集めてしまう。
「すげぇな嬢ちゃん! これが景品だ。五人までなら一緒に行けるぜ。期限は夏だけだが、海もあっていいとこだぞ!」
「あ、ありがとうございます!」
「す、凄いな成実。まさか特賞を引き当てるとは……」
「たまたま運が良かったんだよ! それにしても四人まで……」
彼女の引き当てた物なのだからこれは彼女の物だ。白雪や瑠璃、香織さんを誘っての女子だけの四人旅行とかも良いだろう。
「友也くんっ、一緒に行かない?」
「えっ……?」
「あ、あとは華ちゃんと和泉くんに瑠璃ちゃんも誘おっ……つって、香織さんを置いてく訳には行かないよ……!」
そう言って悩み始める彼女。そうだよな、一瞬でも二人だけかと思ってしまった自分が恥ずかしい。
「おーい、特賞当てた兄ちゃんたち。ついでにこの先にある短冊も書いて行ったらどうだ?」
「あ、そうします! 友也くん、行こっか!」
「あ、あぁ、そうだな」
俺たち二人はくじ引きのおじさんからの提案で、少し歩いた先にあった大きな笹の前まで来た。商店街に入った時から見えていたが、いざ近くで見るとかなりでかいし、短冊も沢山飾られていた。
「んー、何を書こうかな」
「願い事か……」
『これからも彼女と共に幸せでいられますように』
悩んだ末にそう書き込み、ペンを置く。隣にいた彼女も同じタイミングで書き終えたようだった。
「あっ、友也くんも書けた?」
「ちょうど書き終えたところだよ」
「どんなお願い事か聞いてもいい?」
「あぁ、いいぞ」
そう言って彼女に短冊を見せる。少し恥ずかしくもあるが、別に隠す内容でもないと思った。
「……」
「ん、どうした?」
無言のまま笑顔で短冊を眺める彼女。どうしたのだろうか。
「あっ、ううん。嬉しくてね!」
「ははっ、そういう事か。ちなみに成実はどんな願い事だ?」
「私も同じような感じだよ」
そう言って彼女の短冊を見せてくれる。
『ずっと友也くんと一緒にいられますように』
あぁ、そういう事か。確かに普段から言葉にはしてるつもりだが、こういう場で願い事として書かれると嬉しく思う。
「……ありがとう」
「私の方こそありがとっ」
「おう。まぁ、願い事が叶うようにこれからも頑張るよ」
「うん、こちらこそだよ!」
そうして二人で短冊を笹に括りつけ、商店街を後にする。
前の誕生日会の時に晃の姉の香織さん含むみんなで、夏にどこかに行きたいと話していたが、成実はこの券でみんなを誘うかもしれない。
夏休みもそうだが、その前に期末考査もあるので、引き続き勉強もやっていこうと思ったのだった。




