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81.放課後デート


 その日は俺も隣の彼女も、少しだけ落ち着きがなかった気がする。


 それもそのはず、普段は帰りは校門で別れていたが、今日は二人で放課後に駅前へと行くことになっている。要するに放課後デートだ。しかも以前に約束したご褒美もある。



 そして授業も終わり、気づけば放課後になっていた。


「それじゃ、行くか」

「そ、そうだねっ」


 今まで何度もデートに行っているが、どうにも待ち合わせや、当日は楽しみなのと同時に緊張もしてしまう。



 お互い無言のまま教室を出て靴を履き替え、校門を過ぎても隣に彼女がいる。周囲にまばらだが生徒もいるため、手は繋いでいない。


「こうして学校を出ても一緒にいるのって初めてだな」

「うん、家の方向も違くて、今までは付き合ってたことも隠してたしね」

「その件は申し訳ない……」

「あっ、責めてるわけじゃないよ! だから謝らないで。私も納得してたし、過ぎたことだからいいのっ」

「あぁ。ありがとな」

「うん!」


 そうして普通に雑談ができるくらいに緊張も緩んできた。


「にしてもカラオケか……」

「もしかして、本当は嫌だった?」

「そうじゃないが、歌うこと自体最近してなかったなと思ってさ」

「あ、音楽も選択授業だからね〜。私もカラオケ行ったことないし、音楽選択じゃないから同じだよ」

「まぁ、お互い無理せず楽しもうか」

「そうだね!」



 そうして話しているうちに目的地へと着いた。


「あれ? カラオケって思ってたけど、ゲームセンター?」

「カラオケはここの地下フロアだよ。ちなみにここの上にはボーリング場もあるな」

「そうなんだ……駅前にこんなところがあったなんて知らなかった」

「まぁ、去年できたばかりだしな。それじゃ、行こうか」

「うん!」



 彼女と共に店へと足を踏み入れ、エレベーターで地下に降りる。部屋はいくつか空いていたので、二人が入ってもゆったりできる空間がある部屋に決めた。また、どれくらい滞在するかは未定なので、フリータイムのドリンクバー付きにした。



「あっ、部屋も広くて綺麗なんだね」

「確かにそうだな。まぁ、まずは先にドリンクを取ってこようか」

「了解っ」


 それぞれで好きなドリンクをコップに注ぎ、再び部屋へと向かう。


「それじゃ、早速歌おう!」

「おうっ」



 最初こそ緊張して固くなっていたものの、俺も彼女もゲームで遊んだりアニメを見たりするので、互いの知ってる歌をデュオで歌ったりして結構盛り上がった。


「にしても成実って歌も上手いな」

「そうかな? 友也くんも上手だったよ」


 彼女と違い、俺の方は何度か来たことがあるため、トップバッターとして無難な有名曲を歌ったのだが、本当に先に歌ってよかったと思う。

 それくらい初めて来たとは思えないほどに、透き通る声でリズムも音程も乱さずに彼女は歌唱した。

 聴いていて心地もよく、バラード曲だと引き込まれ、盛り上がる曲だとこちらも気分が高揚していった。




「あ、そういやご褒美……」


 かなりの時間歌っていただろう。そしてお互いが一旦歌を止め、休んでいる時にふと思い出して呟くと、彼女も今まで失念していたようだった。


「あっ、そうだった……それじゃ、しよっか……?」

「あぁ……するか」


 彼女へのご褒美としてハグをすることになっているのだが、いざするとなると緊張する。

 今までにキスもした事あるとはいえ、いざお互い意識してスキンシップなどをするとなると緊張するのは仕方ないことだろう。


 そしてどちらからともなく立ち上がり、彼女は目を瞑って両手を広げる。



「それじゃ、するぞ……」

「うん……!」


 ゆっくりと近づき、彼女を正面から優しく包み込むように抱擁する。

 彼女も俺の背に手を回してくる。身長差があるため、ちょうど彼女の頭が俺の胸元に埋まる。

 好きな人とのハグでストレスが和らぐと言うが、事実だろうと思う。なにせ今、凄く心が穏やかになり幸せであるのだ。


 しかし密着して改めて分かったが、成実はかなり細いと思う。この身体であれだけの速さで走れるのか……


「ありがとな」

「え?」


 そう呟くと、彼女が顔を上げる。背に回している腕を緩めつつもハグはしたままで、顔がすぐ近くにあるため、お互いに少し照れてしまう。


「その、体育祭の時もだし、これまでも支えてくれて、俺を好きでいてくれてありがとな」

「うん……私も、ありがとっ」


 そして再び抱きつく腕に力を入れる。


 ふと自分のご褒美、というかしたいことを思いつく。


「頭撫でてもいいか?」

「えっ? あ。うん、大丈夫っ」


 こちらのご褒美の事だと察したのか、許可を貰えたので、彼女の背に回していた手を頭まで持っていき優しく撫でる。

 ハグをした時にすぐ目下にサラサラな髪と小さな頭があり、こちらのご褒美は決まってなかったため、撫でてみたくなったのだ。


「えへへ……」


 気持ちいいのか、そんな声を少し漏らしつつ彼女も彼女でぎゆっと俺の背に回していた腕に力を込め、更に密着する。

 胸に埋もれているため表情は読めないが、俺も彼女もかなり緩んだ顔をしていたかもしれない。




「……」

「……」


 お互い満足いくまでして、席へ戻ってからは無言の時間が続いた。


 そもそもこれ程長い時間密着したこともなかった。我に返り振り返ってみると、ものすごい恥ずかしいことをしていたのではないだろうか……?


「……」

「……」


 ――プルルル



 静寂を破るように室内に初めからあった固定電話が鳴った。


「は、はい」

『お客様、もうまもなくフリータイムのお時間となります。延長なさいますか?』


 もうそんな時間だったのか。振り返って彼女に視線で問いかけると、首を振られた。


「いえ、大丈夫です」

『かりこまりました。お帰りの際には受付にてお支払いをお願いします』

「分かりました」


 そうして時間を告げる電話から戻り、現実へと戻ってきた彼女と荷物の片付けをして、建物から出た。




「……あのさ、今日はありがとな」


 元々放課後デートに誘ったのは俺だ。カラオケでほとんどの時間を使ったため、デートらしくはなかったかもだが、彼女とのお出かけなら一応その範疇だろうし、これはこれで楽しかった。


「わ、私の方こそ、ありがとね」

「おう」


 手を繋ぎ、彼女の家へと足を進める。だんだんと日が傾いてきているため、家まで送ることにした。



「家、着いちゃたね……」

「そうだな……」

「改めて、ご褒美も、デートもありがと!」

「こちらこそだ」

「えへへ、嫌じゃなかったらまたぎゅってしたり撫でて欲しいな……?」


 そう言って可愛らしくおねだりするような表情をする。


「あぁ、もちろんだ。いつでもするよ」

「いつでも……それじゃ、今頼んだらしてくれる?」


 距離も近いため上目遣いとなって微笑みかけてくるのだが、それがどうにも愛おしく、すぐに彼女を抱き寄せた。


「わっ、本当にしてくれるとは思わなかったけど……ありがとね」


 そんなことを言いつつ彼女も俺の方へ抱きついてくる。夕方の住宅街な事が幸いして、人目は全くなかった。



「いきなりごめんな」

「ううん、私が言ったことだから。それに、嬉しかったし……」

「そうか……。それにしても夏が近づいて来てるな」

「そうだね。もう少しで期末と夏休みだよっ」


 お互い顔も少し赤いし、体が火照ってるのとは別に、外の気温も最近は上がってきている。


「夏休みか……」

「またどこかに一緒に行こうね?」

「あぁ、そうだな」

「約束だよ!」

「おう!」



 これまでとは違う夏になりそうだ。そんなことを心の中で呟きながら、放課後のデートを終えた。

 これを機にスキンシップが増える……ということも無く、二人のペースでのんびり甘々で付き合って行って欲しいです。


 今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。

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