79.体育祭の後
『今日は本当にありがとうっ。それからお疲れ様!』
帰宅してからゆっくりと風呂に浸かった後、瑠璃と二人でささっと夕飯を作った。
そして今は、半ば習慣となっている彼女との夜の通話をしていた。
「あぁ、ありがとな。成実もお疲れ様」
『うん!』
労うのは程々にして、本題へと入る。
「それで、誕生日プレゼントについてなんだけど……」
『うん。あ、それから勝ったんだからご褒美も、だよ?』
「そ、そうだったな……」
そう可愛らしく訂正してくる成実。
そもそも俺の誕生日は一週間前にあったのだが、その時は体育祭の件を優先したかったため、プレゼントを後回しにしてもらったのだ。
そしてご褒美についてもその時に約束したものだ。
思い返してみれば、あれがあったからさらに頑張ろうと思えたし、相合傘自体もご褒美みたいなものだったが……
「んー……」
『どうかしたの?』
「あ、いや、俺も勝ったが、成実も最後のリレーで一位まで追い上げて、チームも勝っただろ? だから俺だけ貰うのもなぁと思ってさ」
『……えっと、いいのかな?』
「何がだ?」
『私の方は事前に決めてなかったし、勝ってから決めるのはちょっとずるい気もして』
成実は俺と話してる時は、可愛らしくて元気な感じだが、根は真面目でいい子なんだよな。しかし、せっかく貰えるものは貰ってもいいと思うし、そのせいで損をするのはよくないと思う。
「そういうしっかりした所は好きだよ。でも多分、事前に決めてても成実は勝ってたと思う。それに、俺が何かしたいんだ。それでもダメか……? あ、嫌なら断ってくれてもいいが……」
『ダ、ダメじゃない!』
成実は食い入るように返事をする。
「ははっ、良かった。でもご褒美か……」
誕生日プレゼントは成実の時間を貰い、どこかにデートに行きたいのだが、ご褒美となると時間や物を貰うのは貰いすぎだと思うし、それは違う気がする。
「成実は何かご褒美とか、俺にして欲しいこととかあるか?」
『それじゃ、私はその……ぎゅっ、ってハグして欲しいな……』
「ハグ……」
『うん……』
ハグといえば部対抗リレーの後に、成実から抱きつかれた記憶がある。
『プリクラの時は流れで、今日は勢いで飛びついちゃっただけだから……ダメ、かな?』
さっきと立場が逆転してしまった。もちろん答えは決まっている。
「……ダメじゃないよ」
『っ、ありがと! それで、友也くんはどうする……?』
「俺は、そうだな……」
『あっ、無理に今決めなくても大丈夫だよ。何かしたいこと、して欲しいことが出来たら何時でも頼んでよ!』
「あぁ、助かる。誕生日プレゼントの方は決まってたが、ご褒美の方は頭から抜けててな……」
『そっか……ちなみに誕生日プレゼントは何がいいの?』
「前に成実の時間が欲しいって言っただろ? だから、近いうちにでいいんだが、放課後にデートして欲しい」
『それって放課後デート……』
まぁ、要するに彼女の言う通りだ。今までは学校で隠してたし、そもそも家が反対方向なため、放課後に二人でどこかに行く機会などなかった。
『でも、それって私にとっても嬉しいし、プレゼントになるのかな?』
「俺にとってはなるよ。あとプレゼントでお互いが得してダメってことはないと思うな。もしそうなら成実のご褒美で俺もアウトだし」
『あっ、確かにそうだね。うん、了解だよ! 一緒に放課後デートしよっ』
「おう!」
そして、放課後は時間も限られるため、今のうちにどこに行くのかなどを決めることになった。
「やっぱり駅前辺りになるかな」
『そうだね。ゆっくりするなら初めて会った時に行った喫茶店とかもいいかも?』
「確かにいいかもな。あ、駅前で遊ぶならゲーセンとかカラオケとかになっちゃうな」
『カラオケ……私行ったことないかも! それに友也くんの歌声聞いてみたいな!』
「そうか……あー、いや、行くのはいいんだが、歌には期待するなよ?」
『うんっ、分かった!』
元気よく答えたが、本当だろうか……。まぁ、彼女の希望に反対する理由もないので、カラオケに行くことが決まった。
「あ、ご褒美についてもそこでするのがいいか。学校とか人前は恥ずかしいし……」
『あっ、そうだね……そうしよっか』
「決まりだな。行くのは明日は疲労もあるかもだが、明後日くらいなら大丈夫か?」
『うん、大丈夫だよ!』
「了解。……それじゃ、話すことも話したしそろそろ……」
『あっ』
「ん?」
『あっ、ううん。なんでもないよ。ただちょっと、もう少しだけ友也くんとお話していたいなって思って……』
今日は体育祭でお互い疲れているが、そんなことを言われては切るに切れないだろう。それにもう少し話せるのは嬉しい。
「あぁ、まだ話そうか。あ、でも眠くなったり、疲れてたりしたら言ってくれ。無理はして欲しくないからな」
『うん、分かった。ありがとねっ』
「おう」
そうして今日の体育祭のことや今度のデートのことなど、お互いが欠伸が出る頃まで話し合い、その後満ち足りた気分で俺は眠りについた。
 




