8.協力プレイ
その日は前日のように何かあったわけでもなく通話を終了した。そして、成実は原女神でマルチ機能を解放する所までプレイした。
翌朝、アラームの音で起きる。
「よし、準備するか」
2日前の夜のことは頭から抜けていて、前日楽しみながらプレイしている成実との通話を思い出し、表情筋が少々緩みながらささっと準備を済ませ、朝食を作ってテーブルに並べる。
「お兄ちゃん、何かいい事でもあった?」
ふと、瑠璃からそんなことを言われた。
「いや、特にはないと思うが、どうしてそう思ったんだ?」
「えっとね、前よりも楽しそうな雰囲気が出てたよ〜」
「そうか?」
「うん」
言われるまで気付かなかったが、確かに少し晴れやかな気分だ。恐らくは1人の友人の女性のおかげだろうなどと思いながら朝食を食べ進める。
学校に着いてから晃にも瑠璃と似たようなことを言われたが、そんなに自分は分かりやすいのだろうか? 自分だと分かりにくくて態度のあまり良くない人間だと思っていたが実際はどうなのか気になってきた。
その日の学校もいつもと変わらず終え、昨夜の成実との約束を思い出す。
『このゲームもマルチでパーティ組めたりするよね?』
「あぁ、もちろんあるぞ」
『ふむふむ。なら、今日中にマルチの解放まで進めるから明日の夜に一緒にプレイしない?』
「一緒にやるのは良いが、マルチまでって意外と長いぞ?」
『ふっふー、私を誰だと心得る? 私は生粋のMMOゲーマーぞ!』
そんなふざけたことを言っているのが可愛らしくて、少し可笑しくて笑ってしまう。
『あー、笑ったな! すぐに強くなって友也くんにも負けないくらい強くなってやるんだから!』
「あはは、ごめんごめん。ほぅ、言ったな? 我、プレイヤーレベルカンスト勢ぞ?」
『え!? 意外とやり込んでた!』
「まぁ、レベルだけなら割とすぐなれるよ。なってからがスタートみたいなところもあるし。とりあえず、マルチできるところまで成実が解放したら一緒にやるってことでいいか?」
『うん! 待っててね!』
「おう!」
そう言った成実は最短ルートで攻略を進めていき、ボス戦も一度も失敗せずにクリアしていったため、初日でマルチの解放までを終わらせてしまった。そのため約束通り今晩マルチプレイをすることになった。
そんなことを考えていると成実の方から連絡が来た。
『私の方は準備完了だよ!』
『了解。すぐにインしてそっちの世界行くからパスワードを教えてくれ』
『了解、パスワードは―――だよ! それと今日も通話繋げるね!』
通話がかかってきたのでもちろんすぐに出る。
『ふふっ、今日は待ちに待ったマルチプレイだね!』
「待ちに待ったと言っても一日だけだけどな」
『まぁそうだけど、今日は一日がとっても長く感じたよ〜』
「まぁ、それは否定しないけどな」
『よし、それじゃ始めていきましょうかね!』
「そうだな」
待ちに待ったというのは比喩などではないようで、昨日よりも若干テンションが高めな成実と通話をしながら、俺たちはプレイを開始した。
『まずは何からしようか?』
「もしやってなかったらだけど最初は採集だな」
『採集?』
「あぁ、キャラの突破素材はフィールドで採集するんだが、3日に一度しか復活しないから早いうちから取っておくんだ」
『なるほど、了解だよ!』
成実からの許可を得たので早速採集場所に向かい、二人で必要なアイテムを集め始める。しばらくして全て採り終わったため次に何をするかの相談をする。
「とりあえず採り終わったな。まだマルチを解放したばかりで成実の方のレベルは低めだから二人でストーリーを進めるか?」
『うん、そうだね! 早く同じレベルになりたいな〜』
今のままだとボスに挑んでも俺が成実をキャリーすることになり楽しめないだろうと判断したため、そんな提案をしたが、受け入れて貰えた。
そうしてしばらくの間二人でストーリーを進めつつ、ショートカットやコツなどを教えていたら、あっという間に覚え、一章のボス戦までたどり着いた。
「初挑戦のストーリーボスだけは協力できないんだ。まぁ、成実の今のレベルなら問題ないだろうし外で待ってるぞ」
『あっ、そうなんだ。了解しました! さくっと倒してきますね、師匠!』
「いつ俺が師匠になったんだ……」
『ふふっ、色々教えてくれたしね。まぁ、すぐに戻ってくるから、勝てるように祈っといてね!』
「了解。応援してるぞ」
『うん!』
そう言って成実は軽い足取りでボスへと向かっていった。通話は向こうから頼まれたため一時的にミュートにしている。
「まぁ、ここのボスはギミックとか少ないし20分ほどで行けるだろうな」
成実のことは信じているが、自分が初めてやった時は1度だけ失敗したことを思い出し少々心配になりながら待っていると15分ほどで成実はボス部屋から出てきた。
『ふぅ〜、勝てたよー!』
「おぉ、お疲れ様!」
『えへへっ、ありがと!』
「思ったよりも早かったな」
『うん! 食事バフ盛り盛りにしてサポ2アタッカー2で躱しながら延々と叩いてたら結構早く倒せたよ!』
「なるほどな……psの賜物か」
『これで友也くんとの本当の協力プレイに1歩近づいたね! 早く一緒にやりたいな〜』
俺がキャリーしすぎるのもどうなのかと思っていたように、成実も早く同レベル帯に近づきたいと思っていたようだ。一緒にプレイしたいという言葉に俺は顔を綻ばせた。
「ん? もうこんな時間か。あっという間だな」
『あっ、ほんとだね。明日も学校あるしあんまり遅くまでできないのはしょうがないけど、もう少しやっていたいな〜……』
「まぁ、週末も近いしそこで一気に進めようぜ」
『うん、そうだね! それじゃ、私は落ちるね』
「おう、お疲れ様」
そうしてお互いログアウトをし、同じように金曜日までを過ごした。成実は1人の時もかなりやり込んだのか既に俺と同じレベルになっていた。ちなみにテストが2週間後に控えているが成実はいつも学年トップだし、俺もコツコツやっているので問題はない。それよりも問題あることがテスト明けに控えているが……