73.相合傘
体育祭前のとある日。雨とはいえ、防水ジャケットを来てランニングは毎朝している。そしてその日も走りに行こうと外に出ると、久しぶりに雨が止んでいた。
ジメジメとした空気ではあるが、濡れないのは助かる。
そしてその日もランニングを終え、家に帰って諸々の準備をしてから学校へと向かう。学校には折り畳みもあるはずだし、必要ないかと思い、傘は持っていかなかった。
「おはよう。晃、白雪」
「おう、おはよう」
「あぁ、おはよう、友也」
早くに登校していた晃と白雪と挨拶をする。
「今日は久しぶりに濡れずに登校したな」
「あ〜、確かにそうだな。まぁ、午後からはまた降るらしいけどさぁ」
「あっ、折り畳み置いといて良かった……」
「友也、傘持ってきてないのかい? 梅雨は毎日持ってきた方がいいと思うよ」
「あぁ、明日からはそうするよ」
三人で話しているうちに成実も登校し、四人での会話になる。
「体育祭当日は降らないといいんだけどな」
「そうだな……ははっ、友也も自分の彼女の為に頑張ってるしな!」
「あ、晃!?」
「そうなのかい友也?」
「いや、間違いではないんだが……言い方に語弊があるぞ」
「そうなの、友也くん?」
「成実まで……まぁ、一応活躍するって言ったしな。自分に出来ることはしておきたくて」
「そっか……何かあれば何でも協力するからね!」
「あぁ、ありがとな」
ん? 教室後方からの視線はいつも通りなのだが……
「……晃、白雪、なんだその目は?」
「いや、仲睦まじいなぁと思ってな」
「うん、私も同じだよ。これなら勝っても負けても誰にも邪魔できないね」
生暖かい感じの視線を向けられるのは、むず痒いし、この二人からだとなんだか少しムカつく。
と、そんなことを考えているとチャイムが鳴ったので、各自席へと戻る。
そして授業が終わり、放課後になった。昼休み前には雨が降り始めてしまったので、昼休みは教室で四人で昼食を取った。
バレてから梅雨に入ったので、雨の日は普通に教室で昼食を食べているが、彼女の手作りだと他の男子に気付かれた時には今までで一番殺気が向いた気がする。
「よし、帰るか」
そう言ってロッカーに入れてある折り畳みを取り出そうとして気付く。
「ない……?」
「何がないの?」
「あぁ、折り畳みが……って、成実か」
「うん、私もロッカーに取りに来たんだ。それで友也くん、傘ないの?」
「あぁ、そうだな……」
「じゃあ、さ? その、一緒に使う?」
「え……?」
それはつまり……相合傘ということだろうか。
「体育祭前に風邪引いちゃったら駄目だし、何でも協力するって言ったから……」
「で、でも、いいのか?」
「うん……」
「えっと、家は反対側だが……」
「先に友也くんの家に私が送る」
「折り畳みだとサイズ的に少しは濡れてしまうぞ?」
「……くっつけば大丈夫だよっ。いいから遠慮しないで。あっ、それとも私と一緒は嫌かな?」
「そんな訳ない!」
つい大きな声を出してしまい、クラスの注目が集まる。
「い、嫌じゃない。だから成実がいいなら、お願いします……」
「うん!」
そのまま俺の手を引き下駄箱へと向かう。靴を履き替え、校舎の出入口の前まで来る。
「それじゃ、濡れちゃうから寄って寄って」
「あ、あぁ」
積極的な彼女と手を繋ぎ、肩がくっつく程に近づく。そのまま少し歩き始めるが、彼女は腕を伸ばして傘を持っている。
「あっ、身長差もあるし、俺が傘を持つよ」
「えっ、でも……」
「一緒に入らせてもらうんだ。それくらいはさせてくれ」
「うん、分かったよ」
そうして傘を俺が持ち、手が空いた彼女がさらに体を寄せてくる。
「っ! な、成実」
「だって友也くん、私が濡れないようにして、自分の肩が濡れるようにしちゃうでしょ?」
「それは……」
その通りだ。とはいえ、これほどまでに密着したことはないため、心臓がバクバクと音を立てている。これ程近いのならば彼女にも心音が聞こえてしまっているかもしれない。
周囲の音も視界も雨によって遮られ、俺と成実しか世界に居ないのではとすら錯覚してしまう。
ちなみに断固として彼女が譲らなかったため、今日は俺の家に先に寄ることになった。
無言でただ体を寄せて歩いているのはどうも緊張してしまう。何か話そうと思考を動かした時、先に彼女から言葉が発せられる。
「友也くん、誕生日プレゼントなんだけど……」
「あ、そういえば今週誕生日だな」
「うん。その……体育祭が終わってからでもいいかな?」
「あぁ、もちろん。いつでも大丈夫だよ」
「ありがとっ。今は色々あるしね……。ちなみに何か欲しいものはあるかな?」
「欲しいものか……」
今だと力かな……。まぁ、冗談はさておき、勝ちたい気持ちはあるけど、それよりも欲しいものがある。
「成実との時間かな」
「えっ、私との?」
「あぁ、GWが開けてからは色々あって、って主に俺のせいだけどさ。でも、落ち着いて二人の時間が過ごせてないなぁと思ってな」
「そっか……なら! 体育祭が終わったらお疲れ様ってことで、二人で食事にでも行かない? あっ、でも、それだとプレゼントにはならないかな……」
「いや、凄い嬉しいよ」
「でも……」
「んー、それなら、もし勝てたら何かご褒美でも欲しいかな?」
ご褒美ってなんだ。自分で言っておいて失言だったかと後悔する。
「うん、私にできることなら!」
「いいのか?」
「もちろん。私としては勝ち負け関係なく頑張ってくれた友也くんにはあげたいんだけど、それだと納得しないでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「ふふっ、私は友也くんが勝つって信じてるけどね」
「あ、ありがとう……」
「うん! あ、もう友也くんのお家だね。それじゃ、体育祭が終わるくらいには内容を考えておいてね?」
「あぁ、了解だ。それじゃ、今日は本当にありがとな」
「うん、またね!」
家の前まで相合傘をしてくれた彼女と別れる。しかし思い返すと凄い密着してたな……。それにご褒美か……
そんなことを考えつつ家に入る。
「ただいま」
「あっ、おかえり、お兄ちゃん?」
「ん? どうした?」
「あれ? お兄ちゃん、傘忘れて行ったよね?」
「あぁ、そうだな」
「ならなんで濡れてないのかな?」
そして瑠璃は何かに気付いたのか、少しニヤッとする。
「あっ、そういうことかな〜」
「な、なんでもいいだろ。それよりも瑠璃は体育祭で何に出るんだ?」
「えっ、私? 私は紅白のリレーと借り物競争だよ」
「そういえば瑠璃も文武両道だったな……って、借り物人気だな」
「え?」
「いや、こっちの話だ」
リレーは分かるが、どうして俺の周りの皆は借り物を選んだのだろうか。まぁ、よく分からないが本人たちが楽しめるのならばそれでいいだろう。
そうして日は着実に過ぎていき、体育祭の一週間前となった。
種目選びは瑠璃はたまたま、晃と成実は白雪に言われて決まったって感じですかね。
今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。




